第7話 異空境界
『異空境界』の出現ポイント、およびタイミングは、非常に不規則だ。
世界各地で観測され、記録上でも、大きな偏りは感じられない。
『異空境界』の大きさも不規則で、一応大きい方が強い魔族が出てくる確率が高いのだが、とんでもなく強い人型魔族もいるため、あんまりそれは当てにならない。
そして、魔族の等級も存在していて、低級、中級、上級、超級、災害級の五種類に分類される。
現在単独での討伐記録が残っているのが、最高で超級一体である。
そして、今上空に現れた『境界』は、大体この広場をすっぽりと覆うほどの大きさ。
推定される魔族の等級は、低級から中級、中級ならば、並の人間瞬殺レベルだ。
「…逃げるぞ、全力で」
俺は、とっさに起き上がった理央と、ぼーっと眺めていた時雨の手を引いて、出しうる限りのパワーで、広場から抜けようと足を回した。
だが、時既に遅し、『境界』からは、既に決まった形を持たないスライム型の魔族が出てきていて、そのおかげで広場は大混乱、人の濁流で、思うように前に進めない。
「くっそ!前にも進まねぇ、誰か転んだりしたのかよ!」
「正治!早くしないと後ろのスライムに丸呑みされる!迂回出来る場所はないの!?」
そう言われて、俺は辺りを見渡すが、どこもかしこも人の海、とても迂回できそうにはなかった。そんなことをしている間にも、スライムは大きく膨張し、辺りを飲み込もうと動き出す。
(埒が開かねぇ、前の奴らはともかく、ここにいたら俺らは真っ先に奴に食われる、それならなんとかして倒すしか…)
だが、仮に後ろのスライムが低級だとして、近代兵器で倒せるかと言われれば、無理だ。なんせ、魔族の魔法防壁を突破するには、最低限で核兵器が必要になってくる。
そんなのリスクとリターンが釣り合っていない上に、そもそもどこから調達するんだっていう話になる。
ならばどうするか。
(魔族にダメージを、魔法防壁を貫通して、かつ安定して与えたいなら、魔法で攻撃するしかない、ただ、魔法って、大体規格外だからなぁ…下手に撃って周りの建物に被害は及ぼしたくない、あとで何を言われることか…)
いつまで待っても、警察どころか、魔族討伐の専門の人も来てくれない。
今、魔族はほとんど動かず待機してるが、あのチャージタイムが終わったあと、何が飛んで来るかは考えたくもない。
「…倒したほうがいい?」
そんな言葉が、真横から聞こえてきた。正治と同じく、人の列の後で、頑張って逃げようとしている時雨の声だった。
「へ?倒せるのか?被害を出さずに」
「被害はわからないけど、倒すことは出来る」
「あ、ああ、まあ別に、うん、加減はしろよ?」
俺が返事をしたら、時雨は少し人混みから離れて、手を突き出した。
さっきの言葉が、わかっているのか、いないのか、いかにもやばそうな、煌々と煌めく火球が手の中に現れる。
瞬間、時雨の手の中にで、それは炸裂し、閃光弾のような強い光と同時に、ものすごい轟音が、あたり一帯に鳴り響いた。
炎だ。だけど俺の知っている炎魔法とは桁が違う。
爆発力はダイナマイトの数倍にも匹敵するレベルだろうが、これが限界かと言われれば間違いなくNOと言える。
それが彼女の、陽山時雨の固有魔法だった。