第6話 アイスクリーム
道路沿いにあるアイスクリーム屋、受験の時や面接の時など、何度か目の前を通ったことはあるが、ここでアイスを食べたことは無い。
「俺はこのマンゴーアイスにする、二人は?」
「私は抹茶!」
「バニラ」
意外にもチョイスが渋い理央と、予想通りスタンダードなものを選んだ時雨、俺は二人から代金を受け取り、三人分のアイスを買ってくる。
全部おいしそうだったので、今すぐ食べたかったが、おごらされたならまだしも、それをしたら女子達が激怒しそうなのでやめておく。もちろん男同士でもしない。
「ん~!うまうま!」
「理央、抹茶くれ、マンゴーあげるから」
「間接キス?しないよ?」
近くのベンチに座って、三人でアイスを食べまくる。俺は純粋に抹茶を食べてみたかっただけなのに、間接キスになるからと、理央に強く拒否された。
幼なじみなのだから、そのくらいどうということないだろう。
「ちょいちょい」
「ん?どうした?時雨?」
「バニラは要らないの?」
時雨は、俺のワイシャツの裾をつまんで、自分側に引き寄せていく。
まさか、時雨の方から、そんなお申し出がやってくるとは思わなかった。いつから俺はこんなに女の子に好かれるようになったんだ?
俺が一日中振り回され続けて、ヘロヘロになった頭をフル回転させている間に、理央は抹茶アイスを食べ終わって、そこら辺のゴミ箱に捨ててきたらしい。
「あ~、わかった。マンゴーやるから」
「うん、じゃあはい」
時雨が、俺にバニラのカップアイスを手渡す。何度もたべたことある味だ。
「ん、マンゴーおいしい」
「そりゃよかった…って、全部食ってんじゃねぇか!」
時雨は、目を離した隙に、残っていたマンゴーアイスを、全部食っちまっていた。
幸い、バニラまではとられなかったので、時雨からもらったヤツを全部食べた。
◇◇◇
悟町駅前、たくさんの人々がひしめき合う広場は、綺麗に整えられていた。ここに集まる鉄道は、私鉄の平急線と、都市地下鉄住立線の二種類。
平急線の方は平都空港に直通しているので、キャリーバッグを持った人々もいる。
「ん~、人が多いねぇ~」
「休日になったら、もっと増えるんだろうな、大きな駅って言うのも大変だな」
「で、ここで何をするの?」
さて、何をしようか。
駅まで来て何をするのかというと、別に何も決めていない。結局ただのお散歩なのだ。
「通過するぞ!」
「えぇ、何しに来たの…」
「言ったろ、この辺のことをよく知らないから散歩しようって。駅までの道のりが分かればそれでいいんだ」
「あれ食べたい~!ピリ辛チーズバーガーLサイズポテトセット~!」
「理央!お前また何か食べるのか」
理央が指さすのは、駅前のハンバーガー屋だ。
さっき抹茶アイスを食べたばっかりなのにまだ食べるつもりなのだろうか。あれをセットでしっかり頼めば、もうそろそろ夜ご飯食べられなくなりそうだ。
「そろそろ太るぞ、理央。胸じゃ無くて腹でかくしてなんの得があるんだ」
「破廉恥なーっ!巨乳は全員太ってんだ~!」
「ド偏見じゃねえか」
正治は、ピリ辛チーズバーガーLサイズポテトセットに執着する理央を、アスファルトの地面にこすりつけながらひきずっていき、さっさと駅前広場から退散しようとした。
そんな俺達を傍目に、時雨はある一点に目を向けていた。
「正治君、あれ、何?」
「ああ?今忙し……は?」
「あれって…」
俺達は、即座に後ろを振り向いて、それを確認した。
俺も、理央も、それを見た途端嫌でもそれが何であるか分かった。
悟町駅上空に浮かぶ巨大な黒い穴…数百人の人々の頭上に、『境界』が現れた。
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