第64話(第2章最終回)偽った希望
「……し、死んだ……?」
「ふぅ……ああ、多分な」
衝が攻撃を加えて止めを刺したあと、ドラゴンはピクリとも動かなくなった。
私は一気に気が抜けていくような感じがした。当然だ、あの超級の熱量をたった一人で抑えようとしたのだから。
「理央!大丈夫か?」
「私は大丈夫だよ正治ー」
正治がこっちに走ってくる。ずっと心配はしてくれていたんだなぁって思って、少し心が温かくなる。
「何でてめぇまでここにいるんだよ!?」
「それはこっちのセリフだ、衝!お前いつの間にここに来ていたんだよ!?」
……衝はいつもと変わらないようで安心した。最近が波乱万丈過ぎて忘れていたが、4人で戦うって何気に初めてなのでは?
私はドラゴンの上から、気を付けて足を踏み外さないように降りる。
「はあ、私の出る幕無かったね」
「ここに来る前に時雨の出る幕なんて腐る程あったじゃねぇか」
時雨ちゃんが、少しがっかりしたような顔をして、そう言った。
「……で、毎度のことだけど……これどうする?」·
「こいつの死体なら、高宮先輩に頼んで封印してもらえばいいだろ」
衝がそう言った。
そう言えば、高宮先輩の固有魔法って一体何なのだろうか。さっきここに来たばっかりで、私はそんなにここがどういう経緯でこんなことになったのかもわからない。
「封印術が使えるのか?」
「ま、そうだな。固有魔法がそんな感じらしいぜ」
正治と衝が一緒に話している途中、件の高宮先輩と美空さんが、こちらに歩いてきた。
「あー、やっぱり理央ちゃんだったんだ。ありがとー!暑さで死ぬかと思ったよ」
「そのまま死んどけよ」
「もうっ♡衝ったら!」
「やめろ近づくな変態!!」
美空さんにとって、衝の罵倒はご褒美なのだ。知ってはいたけど、改めて見ると凄まじい。
「理央さんが来るとは思って無かったですけど……ありがとうございました」
「あ、高宮先輩……って、ドラゴンもう消えてる!?」
「封印しておきました。あんなデカブツ、倒すのより処理するほうが面倒ですよ」
高宮先輩が、一言そう話した。
「そういや、さっき怪しいやつ居なかったか、姉貴」
「怪しいやつ……?……あっ!?逃げられたっ!?」
美空さんが慌ててそう叫んだ。
◇◇◇
「お前だろ、この魔族集団のトップ」
とある建物の屋上にて、宇津隆太郎と謎の幼女は向き合っていた。
「良く見つけたね。どれくらい探し回ったのかな?」
もう完全にロリコンキラーな見た目をしているが、気配は異常だった。さっきのドラゴンが何体集まっても、服に汚れ一つ付けさせてくれなさそうな。
「主張の激しい気配ばらまいて 隠れられていると思っていたのか?」
「……ふふっ、これでも抑えているはずなんだけどなぁ」
彼女の発する一言一句が耳に届くたび、隆太郎の全身をナイフで撫ぜているような感覚がする。
「何が目的だ?」
「だって、今日でしょ?境界事変勃発からちょうど十年、人間はアニバーサリーを大事にするって話だったから」
「弾の籠もった祝砲なんて聞いたことないな」
幼女はそう言って小さく笑う。傍から見ればただの無邪気な子供だ。
隆太郎は正直怖かったが、これ以上被害を出さないためにも、
「シッッ!!」
「おっと、あぶない」
正確に顔を狙ったはずだ。彼女は高速のエネルギー砲を、魔法すら使わず回避する。
(避けられたが、体勢は崩した!!こいつは生かしておいたら大変なことになる!!)
隆太郎はすかさずもう一発チャージする。だけど、それが放たれることは、
キンッ
「私の魔法って、連射はできるんだけど、十分な威力を出すのにはチャージが必要なの。
人間の首を両断するだけなら、一秒もいらないけど、ね」
終ぞ無かった。
「ま、こんなものか」
屋上には、大量に溢れ出した血液と、首無し死体とその首。
彼女はしゃがんで、その血液をすくって口をつける。
「……んー、やっぱり野郎の血ってあんまり美味しくない。どうせ飲むなら美少年とか美少女とかがいいよね」
立ち上がって建物の縁に腰掛ける。夜の闇の中で、彼女は背中からコウモリのような翼を生やす。
「しばらく、この世界で楽しもうかな」
翼を広げて空を飛ぶ。
自由気ままな大魔王が、夜の街に溶け込んでいく。
第2章完結です。ネームドキャラ初めての犠牲者です。
と言っても、この章で初登場のキャラなので、そんなに思い入れも無いでしょう?
次回は、一つ幕間を挟んだ上で第3章です。第2i章はその次です。




