第63話 ラストスパート
「情報操作が解けた!」
「やっとか!いつまでも待たせやがって!」
ドラゴンの攻撃が激しさを増す中、その知らせが4人に入ってきた。
俺はスマホを取り出し、理央に助けを求める。あいつがここに来るとはとても思えないが、やってみなくちゃわからない。
(理央が来なくても勝手に援軍は来るだろうが、この状況にはあいつの固有魔法が最適だろうよ!)
俺は、手のひらから超音波を放射し、ドラゴンの内部にダメージを与える。
飛んでくる攻撃を防壁で弾き返して、絶え間なく攻撃を浴びせ続ける。助けが来るのは分かっていても、4人で倒せないドラゴンサイドも大概おかしい。
「『輝光網』」
怪しいやつが、複数方向からエネルギー砲で攻撃するが、魔力を纏った硬い鱗は、それをほとんど通さない。
風も当たり前のように効かないし、封印も、これだけ実力差があるとまともに機能しない。
時間稼ぎだって限界がある。人間はその体の構造のおかげで、命を捨てる覚悟が無ければ、力を使い切るまで戦うことは出来ない。
持久戦は魔族の得意分野だ。ここはできるだけ避けたかったというのに。
(振動で熱を一時的に飛ばしてから速攻!!)
俺はもう一度魔法を使い、振動を上手く使って熱を分散させるが、これだけじゃあ焼け石に水ですらない。
「衝ーっ!大丈夫ー!?」
「俺は大丈夫だ!姉貴は眼の前に集中しやがれ!仮にも本職だろうが!」
連携も段々余裕がなくなってきた。超級の強さを、俺達は目の当たりにした。
◇◇◇
「速ァァァァァ!!??」
ありのまま今、現在進行形で起こっていることを話すぜ。俺達は影島まで行こうとして、浮遊魔法を使ったら、突然左手を掴まれて、気がついたら遥か町の上空まで来ていた……
何言ってるかわかんねーと思うが、俺も理央も何が起こっているのか分からなかった。
「ウップ……吐ぎぞう……」
「理央!耐えろ!ここで吐いたら罪のない人々の頭にゲロが掛かることになるぞ!」
まさかこんなことになるとは思わなかった。文字通り飛んでいくという発想はあったが、まさかこんなスピードだとは思っていなかった。
「っ!!見えたぞ!時雨、あそこに向かってくれ!!」
「了解!」
夜の街を、俺達は高速で飛行する。沿岸部の一部からは、モクモクと粉塵が上がって、激しい戦闘が行われたことを、物語っていた。
中でも異常に光を放ち、燃え盛るような赤に包まれた場所、影島の付近が、俺達の目的地だ。
多分体感で新幹線くらいのスピードはありそうな状態で、あ主張の激しい目的地に突っ込む。
「うわっ、これはすごいね。私の炎といい勝負するかも」
「つまり……私にこれを冷やせって!?無理無茶無謀じゃない!」
近寄ってみて分かったが、このドラゴン、ものすごい熱だ。おそらく火竜だろう。俺でも時雨でもなく、援軍として理央を要請したのは、この状況を打開するためだったのだ。
確かに理央の『冷却』は、絶対零度、すなわち-273.15℃まで急速に温度を低下させることができる、生身の人間に使えば、ワンタッチでゲームセットの恐ろしい固有魔法だ。
ただ、それは生身の一般人という前提があってこそだ。超級相手に、鬼ごっこみたくワンタッチで終わるとは到底思えない。
いや、そもそもワンタッチすらさせてくれなさそうだ。
「どうする?行く?無理なら私が行っても……」
「同属性が行っても意味ねぇだろ、さっきみたいに作業ゲーで終わるとは思えねぇ」
「いや、行く。私が」
理央がそう小さく呟いた。そうは言っているものの、額からは汗がドバドバで、大丈夫ではなさそうだ。
「大丈夫だよ。危なくなったら守りに入ればいいし、私は魔法防壁も扱えないほど弱くはないんだから」
「分かったけど、どうすれば良い?地上に直接下ろせばいい?」
「どうせなら格好良く登場したいから、あの魔物の上まで行ってそのまま落として」
分かった、と時雨は言って、魔物の直上まで行ったあとに、理央の手を離した。
ものすごい高所で、地面に向かって落下し続ける理央は、空中で魔法を使う。
理央が纏う冷気は、周囲の膨大な熱を上書きしながら増大していく。
「ウラァァァァッッッ!!」
そして、周囲の水蒸気を氷にして、それで造形した槍で、ドラゴンの身体のど真ん中を突き刺す。
硬い鱗を破る方法は簡単だ。水というものは不思議なもので、他の物質と違い、固体にすると膨張するのだ。
鱗が水分ゼロというわけでは無いだろう。つまり簡単な話、内部の水分を氷に変えて膨張させ、その圧力で割る。
ドラゴンの体に理央が着地した途端、周囲の空気は、デスバレーもびっくりの暑さから、季節外れの寒気に上書きされる。
熱が無くなればこっちのものだ。
「……!理央!!」
「居たぁ!衝!早く倒して!長くは続かないからっ!」
魔力装甲を貫通して冷やされた鱗にはヒビが走り、その硬い防壁のアドバンテージは、破られた!!
「グウゥゥゥアアアアアアッッッ!!」
「こいつっ!まだ元気じゃん!?」
ドラゴンの口の中が光る。魔力反応がしたあと、口の中から、爆発するような炎が吹き出した。
「借りるぜ、その炎」
俺は、その炎の波動に手を伸ばし、まだドラゴンの制御が効いているはずのそれを、無理矢理引き剥がしてドラゴンの方向に飛ばす。
見事に直撃し、ドラゴンは大きく仰け反って怯む。
「よくもここまで手こずらせてくれたなこんちくしょう」
その隙を見て、ビルの側面を足で蹴って、衝がひび割れに手を当てる。
そして、そのまま地震のように、ドラゴンの体全体に衝撃波を走らせ、止めを刺す。
「アアアアァァァァァッッッ!!!」
断末魔が響き渡り、超級は完全に絶命する。




