第62話 火竜の息吹
周辺で大きく火柱が立つ。空気は熱を帯び、こちらの体力を奪う。
「もう埒が明かない!風で熱を循環させたところでどうなるってんのよ!」
「くそっ!理央だ!あいつさえここにいれば……!」
俺は先制攻撃でヤツの鱗に攻撃を当てたはずだ。なのにほとんどダメージを受けていない。サウナ並のこの空間の中で空気を動かしたところで、ドライヤーの熱風が当たっているようなものだ。
水魔法で身体を冷やしながらヒットアンドアウェイ、その戦法もすぐに底が見えてきた。凍山理央の『冷却』さえあれば、この状況は簡単に打開できるはずなのに、こんな時に限っていない。
ドラゴンは雄叫びを上げ、都市をまるごと焼き尽くす。
「外部に援軍は呼べないんですか!?」
「もうすぐアスが異変に気がつく。そうなればすぐにでも援軍が呼べるはずだ!」
「やーっぱりお前らの仕業かぁ!!全く援軍が来ないと思ったら!」
姉貴が声を荒らげてそう叫ぶ。とりあえず、ここは持久戦だ。
◇◇◇
「……おかしい。何で二人共戻ってこないの……?」
私は窓の外を見ながら、そう呟いた。あいつらは魔法の対象外だ。内部からの連絡は出来ないが、記憶を保ったまま外に出てこられるはずだ。
作戦開始から時間がかかりすぎている。私が護衛のレベルを見誤って、想定以上に手こずっているのか、何か離脱も出来ない異常事態が起こっているのか……
沿岸部では、たくさんの魔物が現れてパニックになっているらしい。
どちらにしろ最悪だ。前者なら私が任務失敗で上から始末されかねないし、後者なら隆太郎を失う可能性があるのと、最悪沿岸部の都市が壊滅状態になりかねない。私達はそこまで望んでいるわけじゃないのだ。
「不本意だけど……広域情報操作・解除」
情報操作が立ち消える。同時に私の目には、不自然に赤く光る街が、はるか遠くに映った。
「チッ、ビンゴね。あれはドラゴンかしら……どっちにしろ、迂闊に手を出したら死にそうだわ」
とりあえず、隆太郎に連絡をとって、あの魔物を倒すように伝える。必要以上の混乱は、かえって私たちを追い詰めかねない、この事態は一刻も早くけりをつける。
「……繋がったわね。隆太郎」
『情報操作は解除したんだな。助けてほしいんだが』
「特殊魔法でどうにかなる相手じゃないでしょ。何人いるのか知らないけど……これで外部に援軍を要請出来るだろうし、というか、勝手に来るでしょう。大丈夫、持ちこたえればなんとかなるわ」
『無責任だな……まあ良い。持ちこたえればいいな』
通話が切れる。もちろん、こちらもこちらで何もしないわけじゃない。
「『広域情報操作・影島の魔物の全情報をデジタルを介して日本全土に拡散』」
広大な電子の海に投げ出された大量のボトルメッセージは、流れに乗ってはるか彼方まで届くだろう。
それを拾ったのが、近隣の自警団の一人だったのなら、もしかしたら助けにやってくるかもしれない。
(そんなに期待は出来ないけど、私にはこれくらいしかできないわ)
◇◇◇
ピロン、と、理央の携帯がなる。メールの送り主は衝だ。
「え?衝が私に何の用なの?」
「確かに珍しいな」
疑問に思いつつも、理央はメールの中身を確認し、そしてその内容に驚愕する。
「……私に魔物が暴れている影島に逝けと?」
「あいつ相当無茶振りかましてくるな!?」
何でも、今影島では超級相当のドラゴンが暴れているらしく、4人で戦い続けているらしいが、熱のせいで埒が明かないらしい。
そこで、あらゆるものを絶対零度まで冷却することが出来る、理央に助けを求めたのだろう。
「どうする?」
「見捨てて衝が死んだら困るし、生きて帰ってもぶつくさ言われそうだからなぁ…………私は嫌なんだけど……」
「私も付いていこうか?」
「よし、行こう。時雨ちゃんがいれば百人力だもんねー!!」
さっきの戦闘を間近で見ていた理央にとっては、時雨という存在の、戦場での安心感は半端じゃないだろう。
「理央、あんまり調子乗るなよ」
「大丈夫だって!正治も来る?」
「何で俺も行く流れになっているんだ?」
俺は二人に手を引かれて、たった今戦闘中の東州区影島まで向かった。
この異変も、佳境を迎えていた。




