第61話 時雨の独壇場
オレンジ色に揺らめく炎が、光をどんどん強めて炸裂する。
周囲には、体の大多数を焼き尽くされ、生命の気配をどこにも感じさせない魔物の死体……おそらく中級はあるだろう。
この爆炎で覆い尽くされるこの空間に、彼女に敵うものは、ただの一体として存在しなかった。
「……40体目!!」
「嘘だろこいつ……本当に普通の高校生かよ……」
「いや、普通じゃないのは分かってた……それを差し引いてもどこかおかしいよ」
もうかれこれ20分は経った。中級、一部上級も紛れ込んでいたであろう魔物の軍団を相手にして、陽山時雨は、一切疲弊を見せずにその中に佇んでいた。
俺たちだって覚悟を決めてここまで来たのに、全部時雨一人で片付いちゃうから、さっきの覚悟がすごく無意味に思えてくる。
「あ、そっちに抜けた」
「おっと」
理央は、時雨の方をスルーして、飛び込んできた低級の魔物を、凍らせて危なげもなく処理する。
今回『境界』から出てきたのは、たくさんの雑魚パターンだったらしい。どでかいやつがここに来るよりはマシだったのかもしれない。
魔物の等級だと、上級と超級の間には、かなり大きな壁があるらしい。階級的には隣でも、上級を余裕で倒せるからと言って、超級を倒せるわけではないのだ。
そう考えると、超級を単独で、それもたったの1分で倒した、波打凜花って、かなりイレギュラーな存在だったのかもしれない。
彼女の固有魔法は、『電撃』だと聞く。それだけだとどこぞの第三位みたいだが、あくまで明らかになっている部分だけであり、電撃の当たった場所が跡形なく消滅していたりするらしいので、電撃はただの攻撃手段のひとつなのかもしれない。
「『オーバーバーン』」
そんなことを考えている間に、時雨さんは『境界』の近くでリスキルし始めた。これを当たり前のようにやる辺り、時雨はゲームで絶対嫌われそうだ。出てきた途端に焼き尽くされる魔物たちも少し可哀想になってくる。
この周辺で一番大きい『境界』を抑えたので、この周辺はあまり被害が出ていない。あとはちまちまとした小さいものを、この辺の自警団総出で潰しているところだ。
「ひゃ〜……すごいね……」
「この辺地盤がゆるいんだよな……こんなに暴れて大丈夫かねぇ……」
この辺は、ちょうど十年前までは海だった場所だ。境界事変のときに、海溝?何それ美味しいの?みたいなイカれた攻撃で、海の中から無理やり持ち上げられた土地だ。だから、地盤がかなり不安定な土地なのだ。
この辺はまだ元の日本列島の土地に近いが、
美山半島、東海半島をちょうど横断する形で日本海溝があったはずだ。この攻撃を行ったのは大魔王に限りなく近い魔王だったとされている。
あとは、旧静岡県を丸々巻き込む形でクレーターが出来ていたり、山陰を削るような形で、もう一つクレーターが出来ていたり……今の日本地図と昔の日本地図を、何も知らない人に見せたら、嘘だと一蹴されるだろう。
質量保存の法則はどこに行ったのだろうか。
まあ、十年もあれば国の復活はできる。東京もすでに復興しているらしい。いつか行ってみたいものだ。
「理央、めちゃくちゃくだらない話していいか?」
「うん」
「東都と東京って似てない?」
「ほんとにくだらなかったね」
◇◇◇
『境界』が消える。なんとかこの場は持ちこたえたのだ。まだ周囲には赤熱している場所が残るが、魔族の襲撃は収まった。
「一体いきなり何だったんだ……」
流石に時雨が全部抑えたわけじゃなかったが、標的は強いものを最優先に倒してくれていたお陰で、俺たちのところに来たのは、大体低級の魔物だけだった。
「確かに、こんなに同時多発的に現れるのは久しぶりよね。大体十年くらい」
「なにかの首領が居るんでしょ。そいつが来る気配はないから安心していいと思う」
俺は近くにあった、特に損傷もないベンチに腰掛ける。
さて、未だ情報の途絶えた、影島の様子はどうなっているのだろうか。
今回出てきた、『全土が壊滅的な被害を受けた日本を、10年で復興した』という話、現実的に考えれば無理ですが、
日本は境界事変前から、世界でも比較的高い頻度で魔族が襲ってきていたので、その過程で異様に発達した魔法技術で復興したと考えておいてください。
調子乗って魔法の威力が、一発でビル倒壊当たり前な設定にしちゃったので、このくらいは見逃してください。




