第60話 護月衝の固有魔法
「衝くん……何でここに居るんですか?」
時間は少し巻き戻り、油屋暗鬼と高宮咲が戦っていたところに、俺が飛び込んできたときのことだ。
「んなことどうだっていいだろ。ちょっとばかし嫌な感じがしたから姉貴の顔見に来ただけだっ!」
俺は、地面に足を力強く突き立て、広範囲に衝撃波を飛ばした。
ビルは屋上から下まで一気にヒビが入り、そのまま倒壊した。
俺の固有魔法、『振動・衝撃』は、衝撃波を発生させ、それを自由自在に操るというものである。
強度も自由自在で、地震レベルからスマホのバイブレーションレベルまで、多種多様だ。
「で、姉貴はどこだよ」
「護月先輩なら影島ですけど……」
「ま、そうだよな。そんなわけで、俺は姉貴のところに行かせてもらう。邪魔するならぶっ殺す。お前に言っているんだぞ、そこの根暗パーカー野郎」
「姉貴ってのは護月美空のことで間違いないな?なら行かせるわけにはいかねぇなぁ!俺らにとっちゃそいつと戦ってるやつの任務が最優先、こっちはただのバックアップだしな。わかったらさっさと回れ右しな」
眼の前の根暗パーカー野郎はそう笑う。この小物臭いやつが理央を殺しかけたやつらしい。俺は過去を振り返らないので、それは別にどーでもいいが、
「おー、そうかいそうかい、ならお前に一つ聞いてやる。
泣くなと言われた赤子が、簡単に泣き止むと思うか?」
俺は空中に手をかざす。音も、振動の一種だ。
音響兵器、名前くらいは聞いたことがあるだろう。装置で広範囲に爆音を散らし、対象の聴覚器官や脳内に直接ダメージを与え、行動不能に陥らせる。デモの鎮圧などにも使われる、れっきとした兵器の一種だ。
俺のものはそれを更にグレードアップしたもの、当たっただけで身体内部に甚大な被害を与えられるように威力と方向を調節させたものだ。
周囲の空気が波を作って動き出す。空中に漂う物質すべてが、俺の攻撃の材料だ。
「っ!?やべっ……」
パーカーは魔力を自分の前に集中させて防御姿勢を取る。俺はお構いなしに、飛行機エンジンの音量が塵に見えるような大爆音を正面に飛ばす。
魔力をまとった音波は、まともに喰らえば最悪体の何処かを損傷してもおかしくないレベルだ。
(音っちゃ音だが、骨を砕けるレベルのエネルギーを纏った衝撃波だな……ソニックブームみたいな感じか。最近のガキは何でこんなにイカれてんだよ)
やつの周りに、おそらく召喚獣の類と思われる魔物が寄ってくる。俺は再びチャージした魔力をもとに魔法を発動する。さっきと同じ音波攻撃だが、今度はより多くの対象を狙うため、振動をその方向に集中させる。
キィィィィン、と、耳をつんざくような音波は、魔物の体のど真ん中を捉え、心臓部に損傷を与える。
当たり前だが、胸に衝撃波を喰らえばしばらく動けない。パーカーもそのことは分かっているようで、攻撃を食らったと思われる魔物を召喚状態から解除し、また新しく地中から大量に召喚した。
アスファルトを砕き、広範囲から湧き出てくる魔物の対処は少し骨が折れる。周囲に音波を飛ばしてもいいのだが、俺の魔法は周囲の人間を巻き込みやすい。地味にまだこのあたりには、人が普通に居たりするのだ。
「『覚』」
後ろから声が聞こえた。同時に魔物が光りだす。
「『束』」
鎖のようなものが現れて、魔物の動きが止まる。
「『封』!!」
その言葉と同時に、魔物の体は虚空に消え、再びパーカーの周りはがら空き状態になった。
「時間稼ぎありがとうございます!」
「くそ、漁夫の利かよ!」
だが、そのお陰で、今のパーカーは完全に隙だらけ。俺は手のひらの中で振動を最大まで増幅させ、極大の衝撃波として正面に撃ち出した。ビルの壁面をガラスもまとめて破壊しながら、パーカーを1kmは弾き飛ばした。
「……倒せた?」
「こんだけ飛ばしたんだ、流石に無傷じゃねぇだろ」
今すぐにでも姉貴のところに凸って、小一時間問い詰めたいところだが、さっきの危険人物を放っておいたら何が起こるかわからない。
「にしても……派手にやりましたね」
「駄目か?」
「一昔前ならアウトですね」




