第57話 乱戦開始
東州区先端部、一切の情報を遮断されたその領域は、混沌に包まれていた。
総理はもう陸上に逃げたらしいが、そちらでも既に粉塵が上がっていた。
(橋は崩れていないけど……もしあっちに伏兵がいるなら、逃げるのは悪手になるかもしれない……)
だけど、今は目の前のこいつの足止めが優先だ。方向転換も可能なエネルギー砲を、捌き切るのは難しい。少なくとも人を守りながら戦う事はできない。
「『輝光網』」
周囲の魔力が集まり、虚空に突然光弾が現れた。
それらは、ランダムに周囲にレーザーを照射し、その弾幕で私の行動範囲を著しく制限する。
「チッ!」
小さな隙間をくぐり抜け、私は自分を狙い撃つレーザーを迎撃する。
風を巻き上げ、収束させる。
私はそのまま風を、刃として放った。発生源に当てればレーザーを相殺出来る。まずはこの不利な状況を打開するのだ。
「というか、私と戦っていていいのかな」
「ふん、特別に教えてやる、俺は別に一人じゃねぇよ。影島から逃げようが、仲間が何人も潜んでいるからな。もう十分恐怖で神経を削った、総理が仲間と相対してできることと言えば命乞いくらいだろ」
やつはそう言って嘲笑った。
「バカね、そんなこと知っているし、こんな大胆な行動、私以外の護衛にバレるに決まっているじゃん」
「だといいな」
余裕の表情を浮かべて、やつはレーザーを放つ。
(やっぱりおかしいとは思っていたけど……この状況とさっきの言葉で余裕の表情……援軍の到着が異様に遅いのもコイツラの策略か!!)
私は辛うじて原型を留めている高速道路に着地し、『輝光網』の範囲外に出る。
「逃げるつもりか?」
「そんな訳無いでしょ。『真空』」
私は、広範囲に散らばった私の魔力を起点に、奴の周囲の空気を無くす。
だけど、当然それでくたばるほど相手も弱くない。通常真空空間内に入れば、血液が凍りながら沸騰するわけのわからない状態になるが、特にそういった様子もない。
魔法さえ扱えれば対応は至極単純、周囲をすっぽり囲う魔法防壁で空気を内部に閉じ込めればいいのだ。
それに、私が真空状態を作ったところで、それをずっと維持できるかと言われれば無理だ。結局身体の内部崩壊狙いの技だ。
「気圧も安定してきたな。ならば、
反撃だ」
私の立っていた高架の高速道路が崩される。そして間髪入れずにもう一発、ゲームのキャラもびっくりな極太ビームが私の胸元に飛び込んできた。
「ぐうううぅぅぅぅぅぁぁぁぁっっっ!!!」
私は全身に分厚い魔法装甲を纏い、衝突時の衝撃を最小限に抑えるため体制を変える。
もう既に、その場に留まるのは諦めた。バカ正直に受けて、無理にでもそこに留まろうとすれば、爆速で魔力が削られることになるだろう。
いくつものビルをぶち抜き、私は影島からかなり離れたビルの側面で停止した。
「はぁっ、はぁっ……かなり飛ばされたなー……」
生身ならテレビの隠語『全身を強く打って』状態になるところだったが、なんとか魔法を防御に回して、背中を多少打撲する程度に抑えることが出来た。
だけど、それ以上に気になるのが、このあたりの惨状だ。
とりあえずビルの穴は私がぶち抜いてきたものなのでいいとして、下には何かの巨大生物が乱暴に這ったような跡が残り、アスファルトはひび割れだらけの大惨事だ。
「さっきの遠くに見えた戦闘が、このあたりで行われていたわけね……確かにあっち側でまだ戦っているらしいし」
私はさっきの勢いよくぶつかった自分の背中を抑えながら、下に飛び降りる。
「忘れたわけじゃないな?」
「速いじゃん。よくもこんなところまで飛ばしてくれたね」
私は、眼の前の建物に降り立った隆太郎に目を向け、半ギレ気味にそういった。
やつは、すぐに魔力をチャージし、こちらに狙いを定めていた。
そして、両者勢いよく踏み込み、まもなく落ちきる夕日の元、衝突寸前になったその時、
上空に何かが現れた。
腐る程見たことがある巨大な黒い穴。
超巨大な『境界』が現れた。
「あれ……って」
「……予定変更だ……まずはこいつを倒すぞ」
黒い穴から出てきたのは、赤く煌めく鱗を持ち、背中に羽を備えた巨大な魔物、
推定超級、まさしく、伝説のドラゴンであった。




