第51話 影島JCT
列車のモーターが、小気味よい音を立てて加速する。
この電車は、東西線東都新都心行きの電車だ。私としては、もう少しあそこにいて、衝とその友達と一緒に買物でもしたかったが、頭の硬い快征によって引き戻されたところだ。
「はぁ〜〜〜……なんてことをしてくれたんだ君は」
「僕はあなたが付き添ってほしいと言っていたから役目を果たしたまでです。今日という一日だって無限ではないのに、何でわざわざ寄り道なんてしたんですか?」
「そりゃー、買い物したかったし……」
「はぁ、なら帰りに寄りましょう。まずはこっちが最優先です」
快征は、私と同じ慶安学院大学の魔法学部所属の大学生だ。私の仕事をよくサポートしてくれるので、すごく信頼している。
そして、今回も面倒だとは言いつつも、なんだかんだ着いてきてくれている。私がこの仕事をこなす上では、どうしても欠かすことはできない。
「でもまあ、衝が元気なのを確認できたし、良かったのかな?友達もいい子ばっかりみたいだし」
「……一体何年会ってなかったんですか?」
「何年ってほど長くはないよ。最後に会ったのが5ヶ月くらい前、だけど、頑なに友達のことは話そうとしなかったから、私もあんまり知らなかったんだよね」
快征は、そうですか、と一言置いてから、今度はこう言った。
「あの子たちは、かなり昔からの旧友らしいですよ」
「えっ……それって孤児院の頃から?」
「あ、時雨さんは違ったみたいですけど、理央さんと正治さんはそうらしいです」
「じゃあ、私は会っていたかも知れないってこと……?そんな馬鹿な……」
ぶっちゃけてしまうと、私は幼い頃の記憶が本当に少ない。跡切れ跡切れにしかわからないのだ。
孤児院で過ごした時間だって、別に短いわけじゃない。境界事変が起こったのは私が十歳の頃だ、その頃の記憶は、流石に思い出せるはずなのだ。
「う〜ん……会ったことあるっけなぁ……」
◇◇◇
「うわー、すっごい。ここって下から見るとすごい迫力だよね」
東西線影島口駅で下車した私達は、そのまま島に入る許可を得て、いくつものコンテナが置かれた、いかにも貿易港みたいな雰囲気を漂わせている影島に足を踏み入れた。
私達が下から覗いているのは影島JCTの全体だ。たくさんの車のエンジン音が、下に断続的に鳴り続けている。
「とりあえず、今日一日で影島の構造は把握しておきましょう。いざ戦うってなったら地の利があったほうが有利ですからね」
「実際に戦うかどうかはわからないけどね。まあ、覚えておいて損はないって感じかな」
私がここに来た理由は簡単だ。昨日のムカデをド派手に倒してしまったせいで、私は政府の人に目をつけられて、他の十人くらいの人達と一緒に、官邸に帰る総理の車を護衛することになったのだ。
国家の人材不足は思いの外深刻らしい。まさか民間の人に頼むとは思わなかった。
この国は魔法学に関しては、世界のトップクラスだ。発展した理由というのは、簡単に言ってしまえば境界事変のとき、集中砲火されたのは、ここ、日本、そのために民間で自衛のための魔法技術が発達したのだ。
他国に比べても急速な勢いで広がっていった魔法技術を、政府が上から抑制するのは非常に難しく、かれこれ十年間はこのまま放置された状態なのだ。
科学の発展には莫大な犠牲を伴うのと同じように、魔法の発展にも同じく莫大な犠牲を伴わなければならなかった。
だけど、もちろん国としては、どんな重火器よりも危険で、下手すりゃ核爆弾クラスの威力を持つ固有魔法の、普及を推進しようなんてするわけがない。だからこそ、いつ建物が豆腐の如く崩れるかもわからない国で、政府は民間で強い力を持った、素性の分かる人間を護衛として扱わざるを得なくなっている。
この国の土台は、もうガタガタだったのだ。




