第44話 都市戦闘
「今日がちょっと早めに終わって、だけど明日はまだあって……いつになってもやる気が出ない……」
私は、電車に揺られながら外を見た。ここは丁度住立区内を走る、首都環状線の車内だ。
「そー言えば、衝の通う学校ってこの辺だったなー」
ずっと外を眺めていると、車内でアナウンスが流れた。
『まもなく、住立ー、住立ー、お出口は右側です。お乗り換えは、首都環状・内環線、東西線、湾岸線、都市地下鉄住立線、平急線です』
「んー、もうちょっと先だね~」
私が降りる駅は、住立駅のもう少し先だ。この電車に乗っていけば、すぐに着くので乗り換えはなしだ。
「いつもいつも電車が長いから疲れるなー…………」
私が手すりを掴んだままぼーっとしていると、
「うわぁっ!!?」
電車はいきなり甲高いブレーキ音をたてて急停止し、私を含めた車内の人々が、慣性の法則に従って、進行方向に引っ張られた。
満員電車だったので、将棋倒しの大事故にならないか心配だったが、幸いそんなことはなさそうで助かった。
少し遅れてスマホが鳴った。警報の内容は、
「魔法災害警報と避難指示……まさか目の前に居る?」
私はドアのガラスに顔を押し当てて少しだけ見える正面を覗いた。
「わぉ、本当に居た」
ちらりと見えたのはムカデのような体躯を持った巨大な魔物だ。長さはこの電車を軽く超えるだろう。
既に車内はパニック状態だ。オロオロする女性、ドアを蹴り上げるおっさん、泣き出す子供、カオスを極めていた。
(一応、魔力装甲を纏っておくか……何もなけりゃそれでいいし……)
私は薄く魔力装甲を纏う。これでもたまに趣味で自警団やっていたりするのだ。これくらいで大丈夫だとたかを括っていたら、
初っ端から、電車を真正面から筒抜きにする、謎の衝撃波が飛び込んできた。
それは電車の車体を内側からもれなく弾き飛ばし、電車の通っていた高架の一部も破壊した。
それで私はどうなったかと言うと、横転した電車内で、攻撃をかすった肩を、今抑えているところだ。
目の前は、口にするのも憚られるような惨状だ。
わかりやすく表すとしたら、大量の実物大人形(損傷有)にケチャップとかぶっかけたものを、散らかった部屋の中に放置したような感じだ。
(結構全力で張った魔力装甲も一撃で剥がれたし、ヤバくない?あの攻撃)
私はボロボロになった車両のドアを思いっきり蹴飛ばし、中の生存者を逃がす。
良くも悪くも見通し抜群だ。あの馬鹿みたいにでかいムカデが良く見える。
『キイイイエェェェェアアアア!!!!』
「うるさっ!」
まだ人が残っているっていうのに、あの巨大ムカデは、けたたましい鳴き声と同時に、元のムカデのキモさ100倍の脚と身体で、こちらに向かってくる。
車両全体が大きく弾む。このままだと、空中に弾かれた車両の重圧で、煎餅みたいにされるだろう。
私はさっき開けた穴から身体を出して、ぺしゃんこにされる前に脱出、そのまま無防備な横腹を魔法で狙い撃つ。
「ふんっ!!」
私の固有魔法は、風だ。
特殊魔法の二番煎じのようだが、私の方が、威力も精密操作性も段違いだ。
圧縮した空気はそれだけで、金属を両断する威力になるし、極端な話、敵の鎮圧だけなら、周囲の空気を無くすだけで事足りる。
『ア”ア”ア”アァァァァ!!!!』
さっきの私の攻撃で、ムカデは私に気づいたらしい。
魔力反応だ。衝撃波がくる。
一瞬音が飛び、私の身体が、高架下の市街地に押し出される。
周囲の建物は倒壊し、遠方に見える建物も、ガラスが残らず吹き飛ぶ始末だ。
何キロ飛ばされたか、今の状況じゃ見当がつかないが、下手すれば私鉄の一駅分くらいは飛ばされたかもしれない。
住立駅から私鉄で一駅だと、悟町か保手河原だ。
まぁ、方向からして悟町の方だろう。
(ん?悟町…………?)
ここまで来て私はやっと気づいた。私が命より大事な衝の学校は、すぐそこだと。
「しまったあああぁぁぁ!!」




