第37話 激戦の終わり
一瞬の音の消失、だけど、それはすぐに何倍にもなって返ってきた。
「…………ハ、ガッ……?」
大きな音を立てて、砂の巨人が身体の真ん中が崩れ落ちる。
「……へ?……」
私も私で、目を開けたとき、最初に入ってきた景色がこれなのだから、声を出すのも忘れて驚いた。
「ナ……ゼ……サイセイシナイ……アア、コアヲ…ヤラ……レタカ……」
そして、頭、首、肩と、上から順番に、ガラガラと身体が崩れ落ちる。
そこには、脆くなった動かぬ石像が、最初の姿は見る影もない街の中で、そびえ立っていた。
「……カノンちゃん…」
ヤバっ、と、私はユーラさんの方を振り返る。何か悪いことをしたと思って、頭の中で謝罪の言葉を数十パターンほど考えていたところ、
「ありがとう〜!!!命の恩人だよ~!でも、何でこんなに強いのに今まで黙っていたの??」
「え、あ、それは……いろいろあって…」
ユーラさんは、私の貧相な胸に向かって勢いよく飛び込んできた。
あまりにあっけない終わり方に、私は終始困惑しながら、母親のようにユーラさんを抱きとめた。
「しかし、本当にすごい力だな。あの攻撃にかかるエネルギーも含めて、全部反射したのか」
「装甲突破のカラクリはわかるけどね。魔力が同質のものだと。魔力同士は反発しない、つまり自分の魔法の跳ね返りは、魔法装甲でも防げないもの」
なんか話しているが、私には関係ない。未だに私の貧相な胸の中でリラックスしているユーラさんは置いておいて、私は近くの瓦礫に寄りかかった。
「あれ?後ろから声が……」
「あ~、遅刻しすぎた騎士団じゃん。もう全部終わりましたよ~」
「何ッ!?せっかくの出世チャンスがっ!」
団長と思われるふくよかな男は、頭を抱えてうずくまってしまった。
「あ~あ~、私欲丸出し、せっかく強いのにもったいないね〜……あ、それはそうとして、報酬はいくらくらい何でしょうね~?」
ユーラさんは悪い顔をして、うずくまった騎士のもとにすり寄っていく。
人にお金が絡むと豹変するのは、異世界でも変わらないらしい。
「あのー……私の取り分っていくらくらい何でしょう……?」
「あ~、いちばんの功労者だし、四割くらいは貰えそうなものだけどね~」
「ん……この規模の超級なら、報酬は70万ソイルを、関係者で山分けってところになるな……」
小太りの騎士は、ムクリと起き上がると、驚きの価格を口にした。
「……70万……!?」
1ソイルの相場はまだわからないが……八百屋で買った人参が8ソイルくらいだったはずだ。
日本円で人参は百円以下を右往左往していた気がする。
(仮に、1ソイル=10円だとすると……700万円……!!クイズ番組の賞金より高い!!)
「70万ソイルの四割だと、28万ソイルか……質素に暮せば六年は持つな」
セインスがそう言うと、私は柄にもなく顔がニヤけてきた。私も人のこと言えないね。
「いつもらえるんですか?」
「明日には……用意はできるようにする」
言質はとった、後は明日を寝て待てば、きっと私の目の前に28万ソイル、もとい、約280万円のお金が現れるだろう。
◇◇◇
「本当にもらえた……」
翌日、私は朝にすぐ飛び起きて、服を着て、セインスとご飯を食べて家を出た。
街についたとき、ボロボロになっていた城壁も修復作業が行われ、街も少しずつ復興しようとしていた。
そして、今はお金を手渡されて、その金額を数え終えたところだ。
この世界のお金は全部で6種類あるらしく、
鉄貨=1ソイル
銅貨=10ソイル
銀貨=100ソイル
金貨=1000ソイル
大金貨=1万ソイル
白金貨=10万ソイル
つまりこの袋の中には、白金貨が2枚、大金貨が8枚入っている。
私の高いお金のイメージは、ペラッペラな紙幣の束という印象だったが、キラキラ光るこれこそが、本当の意味で価値を持った貨幣なのだろう。
「あ、そうだ。カノン、使うわけじゃないが、白金貨を1枚貸してくれないか?すぐに返すから」
「え?……まぁ使わないなら……」
私は、白金貨を1枚セインスに手渡した。一体何に使うのだろうか。
◇◇◇
僕は屋敷の門を叩く。
中からメイド服を着た使用人が出てきて、すぐに僕を見て驚く。当たり前だ、使用人には家出するとき何も言っていないのだから。
「セッ、セインス様!?一体どこに行っていらっしゃったのですか!?今すぐ休養の準備を……」
「ああ、ちょっと冒険にね。僕は無事だ、休養は必要ない。それよりも父上のところに至急、案内してくれないか?」
「か、かしこまりました!」
僕はだだっ広い廊下を、使用人についていきながら歩いていく。
そして一つの大きな扉の前に立った。扉を開けてくれるのを見て、僕は室内に入っていく。
「ご、ご主人様……ご子息様がお帰りになられました…」
「ほう……?なるほど、ケトラ、お前は下がっていろ」
「かしこまりました」
後ろの扉が閉ざされる。目の前には多少豪華な椅子に座ってふんぞり返る、僕の実の父親となる男、バルバオ・グレア・アルマントルが居た。
「今日は何の用事で来た?まだ契約の期限まで約一週間ほど残っているわけだが、まさかこの期に及んで契約解消を頼み込むつもりじゃないだろうな?」
やつはいつも通りのゲス顔を見せて、そう嘲笑った。
「まさか、僕はちゃんと約束は守るよ。今日来たのは、この白金貨を父上に見せびらかすためだしね」
そう言って、僕は懐からカノンから借りた白金貨を取り出した。
そして、それを見た途端、やつの目の色はぐるりと変わった。
「なっ!?それをどこで手に入れた!?」
1枚10万ソイルの金貨だ。これ1枚だけでも契約内容は容易く達成出来る。そりゃあ焦るだろう、白金貨なんて普通に平民として暮らしていれば、まずお目にかからない代物だ。
「昨日、魔物の襲撃があっただろう。それを倒したのは僕の大切な仲間さ。その子からこれを1枚借りてきてここに持ってきているんだよ」
「……クックック、表面上では俺に反抗するような態度を取っていても、本質は俺と変わらずか……滑稽だな!」
「なんとでも言うがいいよ、とりあえず僕は帰るよ、公爵様。契約は果たしたよ」
「待て、まだ一つ終わっていないだろう?その金貨を俺に渡せ。そういう契約だったはずだ」
やはりまだ嫌味な笑顔を浮かべて、手をこちらに伸ばしている。
だけど僕は扉を開ける。おい!と後ろから聞こえる声の主に教えてやる。
「公爵様、君は一つ勘違いをしてるよね?僕は確かにここに10万ソイルを持ってくるとは言ったけど、別に渡すとは一言も言っていないよ」
「ぐっ……!?そんな馬鹿なっ……」
バルバオは、慌てて契約書を確認する。そこには確かに持ってくるとは書かれていたものの、渡すとは書かれていなかった。
「……クソがっ!」
「……悪いな、僕はどうしてもここに居ることは出来ない、いや、居たくないんだ」
僕は執務室の扉を閉める。多少なりとも罪悪感はあったけど、それをずっと引きずっているわけにもいかない。
「さあ、明日には出発しようか」




