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悠久のクロスファンタジア 〜DUAL WORLD〜  作者: はとかぜ
第1i章 魔界・転移編
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第36話 心に秘めた決意

「……どういうこと?」


「こういうことです」


 無理はないだろう。なにせ、さっきまで凄く怯えている様子だった私が、こんな言葉を口にしたのだから。


「分かってます。出しゃばるなって話ですよね。でも、セインスにはたくさんお世話になったから、死んでほしくはないし…何もしないで私だけ生き残っても、トラウマになりそうで…」


 心なしかユーラさんから圧力を感じる。そのせいで少し口ごもってしまう。


「…む、無理だよ、私はまだ将来がある人を、戦場には連れていけない。仮にあなたが戦えても、それであなたが亡くなったら元も子もない…私も、セインスと同じように、人を守らないといけないんだから」


 少し困惑を含んだ声で、ユーラさんは話す。


「…………」


「私だって分かるよ、人を助けたいって気持ちは。実際今日こうやって動いているのだって、この街の人たちを助けたいからだから。だけど、あまり言いたくはないけど、勇気と無謀は違うのよ、あなたは自分の命を軽く見すぎてる。普通に生きれば、あなたはまだ60年70年と生きられる!この世界でできることはたくさんある!人の心配するのはいいけど、少し自分勝手に考えてみてもいいと思うよ!」


 ユーラさんは少しずつ語気を強めながら言った。


 彼女がこんなに必死になっているのは、私の生い立ちを既に聞いているからだろう。


 自分勝手に考えて、生きる。


 実際、私は考えたことなかった。




 そのまま私は黙り込んでしまった。しかし、その沈黙を破るように、事態は一気に動き出す。


 ズンッッッッッ!!!


「「ッ!!?」」


 至近距離で地面が破裂した…否、至近距離ですらない、


 丁度真下だ。


「まずっ……!」


 私はとっさに魔法を使う。周囲の砂嵐は、防壁に接触した瞬間弾き返され、次第にあたりにはけていく。


「ふぃ〜……危なかった」


「あ、ありがとう…」


 ユーラさんは終わったあともしばらくぽかんとしていたが、すぐに体制を立て直した。やっぱりプロなのだろう。


 ここは、明確にあったはずの退路は絶たれ、逃げようにも逃げられない状況になっていた。




「周りに誰か……」


 私達は二人であたりを見渡す。漫画でよく言う、鉄錆のような血の匂いはしなかったが、一昔前の工業地帯のように空気は酷く汚れていた。


「……!あそこ!あの金髪ってもしや…」


「ぐっ…カノン…?どうしてここに…」


 そこには、セインスが血の流れる足を抑えながら、大きめの瓦礫に寄りかかっていた。


「……その話は後でするから…セインス足を怪我してるなら休まないと!」


「あ、ああ……すまない」


 私は、必死でセインスを持ち上げたが、持ち上げて気づいた。


 めちゃくちゃ重い。筋肉を鍛えているからなのだろうか。


「ユーラ……さん…セインスがぁ〜…」


「あっ!近くにいたの!?大丈夫!?」


「ああ…セーブはしたけど、それでも魔法は常時使いっぱなしだったから、もう魔力はすっからかんだ…これ以上は流石に無茶だ」


 確かに、落ち着いてみてみれば、セインスの身体からは汗がとめどなく溢れ出ていて、体力もかなり減衰しているようだった。


 しかし、そのような状況の中でも、攻撃の手は収まらない。


「っ!今度は上!」


 3人の上部に、ドーム状に魔法防壁が展開され、キリキリと音を出しながら大量の砂と擦れ合う。


 その後すぐに、未だ衰えを見せない砂の巨人が、砂煙の隙間から見えた。


「……本気で戦ったんだよね…ぜんっぜん衰えてないように見えるんだけど……」


 存外タフだとは思っていたが、この長時間戦いっぱなしで、魔法で構築されたあの巨体を維持しているのはなぜだろう?


「魔族は魔力が自然回復するんだ……人間も、よく食べてよく寝てよく休めば、魔力が回復するが、魔族はそんなのすっ飛ばして急速に回復する。あまりに無茶しなければ実質無限大だ」


 つまり、魔物相手に持久戦は土台無理な話だと言うことだ。魔力に限りがある人間と、限りない魔物、時間をかけての消耗戦に持ち込まれた時点で負け確だったのだ。




「モウ、ツカエルテフダモナイカ……エングンノトウチャクモオクレルダロウ、コレデトドメダ!!」


 巨人の手が、バラバラになる。


 何度も見た攻撃、だけど今回は桁が違った。


「何……あの馬鹿みたいな魔力量……」


 ユーラさんは、そうとだけ言って黙ってしまった。確かに、こちら側に向かってくる圧力も尋常ではない。


 おそらく、ここを凌ぎきっても、後方がなすすべなく破壊される程度の威力はありそうだ。


 単純にここを守るだけじゃだめなのだ。広く広範囲をカバーした状態で防ぐ必要がある。


 少なくとも、今までで消耗しているセインスとユーラさんには無理だ。


(……今、ここでほぼ万全なのは私だけ、だけど私にはあれを防ぐ術なんて……)


 そこまで考えて、私は一つ思い出した。


 防ぐ、術


『私の固有魔法が、ただ攻撃を防ぐだけなのに一体全体どうすれば…』


 ある。できる。


 今ここで、できるだけ広く魔法を使えば可能だ。


 私は一歩前に出て、ギュッと目を閉じる。


 手を前に突き出して、指先に力を込める。薄く広く、静かな水面に触れるように。


 キリキリと砂の擦れる音がする。


 どんどん音が大きくなり、そして……音が消失した。




 ◆◆◆


「セインスも星が好きなの?」


「ああ、専門的な知識はないが、僕の楽しみの一つだよ」


 広い星空のもとで、二人で話した。


 森の空気が、鼻を刺激する。とても小さな星の光が、窓に入った。


「……カノン、君はこの世界のことに興味はあるかい?」


「唐突だね…まぁ、少しは」


「そうか、僕と同じだ。僕もこの森、あの街を飛び出して、いろんなところに行ってみたい…あとこれは最近のことだが、カノンの居た街にもいつか行ってみたいと、思うようになったんだ」


「……あそこに居ても、いいことなんてなないと思うけどね」


「居心地の問題じゃない、僕の好奇心さ。光り輝く摩天楼、魔法も使わず鳥のように空を飛ぶ機械……僕たちには想像もできないような、人類の叡智が詰まっているんだ。そう思うと、ワクワクしてくるんだ」


 セインスはそう熱弁しながら、小さく微笑んだ。


「僕は、いずれここを()つ、カノンも一緒について来るかい?」


「うん、私は一人では生きられないもん」


「……よかった、仲間が居て」


「うん……あ、そうだ、セインス、今度ゼグさんとかに、自警団やめるって言っておいて」


「ああ、なんとなくそんな気はしてたよ。分かった」


 そう言って、セインスは窓から離れてベッドに戻っていく。


「じゃあ、明日は街に本を買いに行こう。文字を覚えないとだからね」


「うん…分かった」


 セインスの胸の内を知って、私は少し落ち着いた。


 私は、自分の決意を胸に秘めて、もう一度空を見た。

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