第34話 圧倒的な戦力差
セインスは再び剣を構える。
目の前には砂の巨人がそびえ立ち、砂岩で構築された硬い表面の更に上から、魔力装甲が何重にもかけられている。
さっきの威力じゃ不十分だった。それに核の所在も、全く分からない。
「倒し方がないわけじゃないけどね。まずはあの装甲を無力化しないと、『歪光』」
セインスは魔法を発動する。周囲の光がねじ曲がり、彼の姿が消失した。
(物が見えるのは、光が物に反射して目に入ってくるからだ…つまり、光が当たらなければ光も反射しない、だから目にも映らない!)
極力音を出さないように、空中を飛行しながら狙いを定める。
キラッと、虚空が光り、いくつもの光の矢が、ゴーレムに向かって飛来する。
セインス・クラン・アルマントルの固有魔法、『光操作』は、そのまんま光を操る能力だ。収束させた光を一点に当てて発火させたり、光を曲げて、相手の視界に虚像を結ばせたりできる。
「そして、光自体も強力なエネルギーを持っている。魔力を乗せて放てば、岩の一つや二つ、簡単に砕くことができるんだ!」
「ッ!!ソコカ!!」
ゴーレムは、自分の手を元の砂に分解し、セインスの姿が見えた場所を一気に抉り取る。
しかし、何もない。攻撃は空を切った。
(…ナルホド、キョゾウカ。ヒカリヲマゲテ、マッタクコトナルバショニゾウヲツクッタナ)
ゴーレムの周囲には、いくつものセインスの虚像が浮かび上がり、本物を捉えるのはかなり難しい状態になってきた。
(フム、ナラバゼンインマキコンデシマオウ。タショウムリヤリダガシカタナイ)
ゴーレムの全身が崩れ始め、そのまま回転運動を行いながら、不定形な状態に変化する。
次の瞬間、大量の砂が時計回りに回転し、そのスピードは、そのまま殺人的なレベルに達した。
当然、その竜巻の中にはセインスの虚像も、セインス本人も含まれている
「っぐぅ!」
セインスはとっさに魔法防壁を展開し、無傷に抑えることができたが、いまので位置がもろバレした。
この好機を逃すまいと、砂のドリルがセインスに向かって、地面を掠めて飛んでくる。
青いステンドグラスのような防壁は、一瞬で赤熱し、火花をまき散らす。
「ぐぅぅーっ!」
砂粒一つ一つが魔力を纏って高速で動いている。一方向からの瞬間的に力がかかっているわけじゃない、ありとあらゆる方向から、断続的に力がかかり続けている。
(まずい、隙がない!…今この状態で動いたら一瞬でバラバラにされる!)
魔力装甲だけ纏って外に出るのも手だが、強度の関係上、それだけではどうも心もとない。
「誰でもいい、助けてくれ!」
「コレデオワリダ!」
砂はより一層力を上げ、防壁をヤスリのように削り取る。
もうそろそろ限界だ。防壁に穴が空きかけたその時、
「『アビリティ・アポート』」
ぱっ、と、セインスの目の前の景色があっけなく変わった。
数秒後、自分の丁度真下から、ズドンと、地面を抉るような音が聞こえる。
「…へ?」
「呆けてないで構えてよ。『助けて〜っ』って声が聞こえたような気がするから助けたのに」
「間に合って良かったな…カノンは無事だぞ」
セインスは、いつの間にか、ユーラに片腕を掴まれて宙づりにされていた。その傍らにはゼグもいた。
「…ああ、とりあえず降ろしてくれ、肩が外れそうだ」
セインスはユーラに頼んで地面に降ろしてもらう。地面が砂だらけで動きづらい。
「コレデサンニン…マダマダクルノカ?」
ゴーレムはそう問いかけた。ゼグさんは考えてから口を開く。
「言う義理はないが教えてやる。今街を防衛している魔法使いは20人以上いる。時間が経てば王国の騎士団もやってくるだろうな」
「フム、ナカナカムズカシイナ。ワガシモベモホトンドヤラレテシマッタ、イマタタカエルノハワレダケカ…」
ゴーレムは、そう言って少し黙った。そして笑いを含んでこう言った。
「ジャマサレルコトノナイ、タノシイカリダ」
散らばった砂が寄り集まり、再び巨人の形をなしていく。
魔力が爆ぜる。魔物の膨大な魔力を纏った拳は、地面を掠った途端、強大な風圧と衝撃波で、あたりを更にボロボロにしていく。
「!?まだこんな力を…!」
「大方、隠していたんでしょうね!さっきまでの攻撃も本気じゃないってことだったんだ!」
3人とも攻撃を防ぐことはできたが、同時に知りたくなかった情報も分かった。
「……無理だな。3人じゃこいつは倒せない。かと言って統率が取れているわけでもない20人で戦っても、あいつには軽くあしらわれそうだな」
明らかになったのは、自分たちとあのゴーレムとの圧倒的な戦力差だ。
魔力装甲を突破するには、それ相応のエネルギーを必要とする。唯一ユーラだけはそれを無視することができるが、核がどこにあるかわからない以上、あのほっそい針で致命打を与えられるとは思えない。
「まずいぞ!もうサテナが目と鼻の先だ、このままじゃ数万人単位で被害が出るぞ!」
タイムリミットが近い。もうあと少しでサテナが射程範囲内に入ってしまう。
「っ!ゼグ!『放射魔石』作れない?あの監獄とかで使われてるやつ!」
「さっきまで戦いっぱなしでそれを作るには魔力が足りねぇ。仮に作れたとして俺たちも魔法使えなくなるぞ」
「そーだったー…あれ?
もう、手詰まりじゃん」
ユーラは、冷や汗をかきながらそう呟いた。




