第33話 超級(グランドクラス)
私とセインスは、街の方向に向けて、必死で足を回していた。
「何なのあれ!?さっきの石像の仲間!?」
「あれはゴーレムだよ。魔物の一種だ…!でもさっきのやつとは各が違う!僕とカノンじゃどうあがいても勝てない!」
セインスの魔法で、車もびっくりなスピードで動いているが、それでも、ゴーレムによる破壊の波を振り切れていない。
木は私達が通り過ぎたあと、数秒差でボキボキに裂断され、砂嵐のような、土砂流のような、とにかく普通とは違う何かが、こちらを飲み込もうとしてくる。
「ニゲルカ…シカシソレモヒトツノセンタク…ナラバイッキニマキコンデクレヨウ!!」
「っ!!カノン、身をかがめろ!!」
セインスにそう言われて、私は困惑しながらとっさに身をかがめ、ギュッと目を閉じた。
砂嵐は、私達のことを容赦なく巻き込んだが、ふわっと、浮遊感がしたあとは、特に痛みは無く、ゆっくり目を開けた。
「……えっ?」
私は思わず素っ頓狂な声を出す。
原型を留めない木々、宙に舞う砂煙、そして砂だらけででこぼこな地面、見える範囲全てが、この一瞬で世紀末の世界に変わった。
私はセインスが守ってくれていたお陰で助かって、そのセインスも無事だ。
問題はその後ろ…ロボットアニメのロボットのような、異常にでかいゴーレムが、後ろに立っていた。
「何で…さっきはあんなに大きくなかったのに…」
「…あいつの固有魔法は、おそらく砂の生成と操作だね。それを使って図体をかさ増ししたんだ。だが、これだけ大きいと本体がどこだか分からないな」
「…ナルホド、ヤハリツヨイ。アノダイグンダンヲケチラストハ。コイ、ニンゲン。ゼンインマトメテタタカッテヤロウ」
「ダイグンダン?何を、言っているの…?」
「それを気にしている余裕はないな。“ゼンインマトメテ”とまで言っているんだ。すぐに攻撃が飛んでくる!」
その言葉通りだった。
周囲の砂は一気に巻き上がり、竜巻のように渦を巻く。
巻き上がる砂は、その回転運動を維持したまま、方向を変えてこっちに突っ込んでくる。
「走れ!」
「はいぃぃぃ!!」
でこぼこになった地面を蹴り、後ろから迫る砂のドリルを一気に振り切る。
二人で空に飛び上がり、セインスが魔法を使う。
「『聖閃光』」
光る剣を振るい、巨大ゴーレムの身体を、光の刃で攻撃する。
攻撃は胸元に見事に直撃し、表面の砂岩が剥がれ落ちるが、心臓部までは届かなかったらしい。
「チッ、やっぱり硬いね。魔力装甲を何重にも張っている、全て貫通して、身体に当たる頃にはたったあれだけの威力になっているってことか…」
「もう…私ワカンナイ…やっぱり異世界って文字通り魔境だったんだ…」
幼い頃から魔法という存在を実際に体験してきた私にとっても、全く知らない領域だった。
一撃であの範囲を更地にするなんてことはテレビでも見たことなかった。
「マズハコテシラベダ。コウゲキヲシテクルガイイ、スベテハジキカエシテミセヨウ」
「ああ、言われなくても」
「えっ!?セインス!ちょっと!?」
「カノンさんはこっち!」
誰かに襟を掴まれ、ウゲッと、小さくうめいて後ろに振り返った。
「…ユーラさん…?」
「セインスのことなら大丈夫だよ!私がここに戻ってくる頃までは食い止めてくれるから!早く街に行かないと!」
「あっ……はい…」
ユーラさんはそう言って、私の腕を掴んで引っ張っていく。未だに浮遊状態なので、なんだか変な感覚だ。
さっきまでとは打って変わって少しゆっくりだが、それでも宙に浮いているという事実は変わらない。
「…カノンさん、こんな時に悪いけど、あなたのいた異世界って、どんなところだったの?」
「っ…」
「嫌なら言わなくていいよ。あなたの出自はセインスくんから聞いているし、あなたの心のことも知っているから。特に意味があるわけじゃない、私の知識欲の問題だしね」
ユーラさんは、そう話して小さく笑った。
「…まあ、辛気臭い話はこれでおしまい!街の中にも入れたし、あとは解決するまでここでまっていて」
「…はい」
降ろされた大通りのど真ん中。向こうには、固く閉ざされた鉄の城門があった。
遠くから音が響いている。砂柱が上がっているのもしっかりと分かった。
「セインスは、死なないでくれるのかな…」
私は、人生で初めて、人の無事を願った。




