第32話 ユーラ・メルティア
「あ~あ、行っちゃった。仕方ない、こっちに向かってくるのだけでも倒そうか」
私は、森から飛び出してくる沢山の魔物を街の門の前で捉えた。
(数は数十体、低級〜上級まで幅広くいるね)
敵の数を確認し、照準を絞る。
「『魔針』」
私の手のひらから、いくつもの針が飛び出す。それらは遠くの硬いゴーレムの身体も、俊敏に動く狼の身体も確実に捉えて、貫いていく。
ユーラ・メルティアの固有魔法『魔針』。髪の毛程の細さの針で、対象を貫く。数も発生地点も無制限、硬さも防御も完全無視で、その細さ故に、普通の人間なら刺されたことにも気づけない。
一発での単純火力と引き換えに、数の暴力と隠密性をもって対象を潰す。それが私の固有魔法だ。
さっきの攻撃で、大多数の魔物の心臓を貫いた。
しかし、やはり大した威力は出ない。心臓を持たないゴーレムは、力の元となる核を貫いたので、完全に無力化できたが、所詮髪の毛程度の細さなのだ。普通の魔族なら、心臓に穴を開けても、そのくらい持ち前の再生力ですぐに回復する。
(なら脳幹を狙うかー、あそこを貫けば心臓も止まる。再生する前に集中砲火してやるわ)
脳幹は無意識的に行われる生命維持機能を統括する器官だ。
そこをズタズタにすれば、再生もさせずに殺すことができる。
全方向から、狼、ゴブリン、その他諸々が、街の門を狙って襲いかかってくる。
「ふっ!!」
一瞬でいい。空中に飛び上がってから、こちらも全方向に魔法を使う。
ターゲットは、10体以上の魔物の脳幹だ。位置は全員頭、わかりやすいことこの上無い。
先程と同じくらいの太さの針は、ウニの棘のように放射状に広がり、正確に魔物の頭に、目には見えないが、確実に穴を開けていく。
「まだまだ!」
最初の第一陣を殺ったら、次は更に大勢の魔物が寄り集まった第二陣がお出迎えだ。
飛び上がった状態から、街の城壁を蹴り、立体的な動きで、魔物を翻弄する。
艶のある赤髪をなびかせ、空中で再び魔力をチャージする。
「『魔針』」
目にも止まらぬ速さの針は、云百といる魔物の頭を、一個一個音もなく貫いていく。
その様は、まさしく針山地獄(山じゃないが)の様相である。
だけど、倒しても倒しても一向に数が減る気配がないどころか、森の方から常におかわりがやってくるせいで、さっきよりも増えている気がする。
「…やっぱり数が多すぎる…確かに私の力は範囲攻撃に特化してるけど〜」
それに、魔物も流石に学習してきたらしい。頭部を狙おうにも、弾道を予測して回避される。
魔力装甲も、意味が無いことにも気がついたらしい。
「仕方ない。救援呼ぶか〜」
私は、紫色に輝く“通信魔石”を取り出し、ゼグにつなぐ。
「あ~、あ~、聞こえてる?」
『ああ、聞こえてる』
「こっち数が多いから手伝って!」
『こっちも忙しいんだ。ほぼ街の真逆にいるお前を助けには行けないな』
「むぅ、ならセインスが戻ってくるまで待たないと」
そう言って、私は通信魔石の接続を切る。
そうこうしている間に、今度は魔物の攻撃が始まった。
狼がエグいジャンプ力で飛びかかってきたり、ある程度の知能を持ったゴブリンが、炎魔法で攻撃してきたり、防ぐのは容易いが、防御にあまり意識を割きすぎると、こちらから仕掛ける余裕がなくなってしまう。
(攻撃しつつ防御する、大丈夫。何度もやってきたことだもん)
私は、地上に向けて、無数の魔力の塊を飛ばす。
空中がだめなら地上から、つまるところ、足元から串刺しにしてしまえばいいのだ。
「『魔針・天』」
その瞬間、無数の針が天に向けて突き出された。
魔物からの流血はやはりあまり見られないが、確実に急所は叩くことができただろう。
「灯台下暗しとはこのことね!」
私は、ドヤ顔しながら地上を見渡す。
浮遊魔法も長時間は扱えない。さっきと同じ手法で魔力をバラまき、串刺しにしていく。
「ま、こうなっちゃうとただの単純作業だし、パパッと済ませてゼグのところに行こー」
森の方からは、まだ魔物が溢れ出して来ているが、もうこの場にいる魔物の数も相当少なくなり、発生源の方で食い止めることもできるようになった。
「森の方の気配もだいぶ減ってきたかな!これならすぐにでも……!?」
私は、森の中の気配を探った。確かに数は減っていた。数は、だが。
「何…あの膨大な魔力は…上級なんてもんじゃない……まさか、超級!?」
森の中から、木々をへし折る音がする。地面から、砂の渦が伸びる。
次の瞬間、森が消し飛んだ。
これは比喩ではない。その巨大な砂柱は、高速で渦まきながら、直径10粁はあろうかという範囲を、土砂流のように削り取っていった。
そして現れる。馬鹿みたいな大きさのゴーレム。
先程までの魔物が豆つぶに見えるほどの巨体。
「ナルホド、ヤハリツヨイ。アノダイグンダンヲケチラストハ。コイ、ニンゲン。ゼンインマトメテタタカッテヤロウ」
「……いやになるなぁ〜、ホント」
砂のゴーレムは、街を、人を、蹂躙すべくこの場所に降り立った。




