第31話 街を襲う災厄
「……これで終わりですよね?」
「ああ、概ね間違っていなかった。合格だよ」
仕事やらが忙しくて、なかなか教えることは出来なかったが、カノンはしっかり勉強してくれていたらしい。
後はひたすら単語を覚え、日常的な文を、読んだり書いたりできるようにすればいい。
「次は文書を書くということになるかな。単語も覚えていかないとね」
「…ああ…そうだった」
カノンは、まだ寝足りないのか、ベッドの中に倒れ込んだ。
「ふぁ~…」
「僕は今日も仕事に行ってくるよ。最近忙しいからね」
そう言って、僕はドアから外に出て、街の方向に向かって、全力疾走した。
今日も普通に仕事だが、一つ懸念事項があった。
父と結んだ契約の期限が、あと一週間で終わりなのだ。
(意外といけるかと思ったけどな…なまじ平和なお陰で稼ぐ機会がなくなってしまったな)
お金を稼いでも日々の生活費で飛んでいくし、元がそもそも少なかった。
これでは10万ソイルなんて夢のまた夢である。
途中で街道に合流し、そのまま平坦な地面を直進する。
街の外は、田園が拡がるいつもと変わらない牧歌的な光景だ。
(やはり何もない…諦めて別の職業でも探すべきか?だがもう時間も技術も無い…どうすれば)
「セインス〜、何を考え込んでるの?」
「…うわっ!?…なんだ…ユーラさんだったんですか」
「うん!なかなか来ないから街の門の前で待っていたの。まぁ、別の目的もあるんだけど」
それを聞いて、僕は首をかしげた。
「別の目的?」
「さっき、街の外を巡回していたときに、あの魔物狼と同じ、魔王の紋章を持ったゴーレムを見つけたの。他にもサテナの周囲で、同じように紋章を持った中級〜上級の魔物が出現、いつも通りに見えるけど、もうこの街は厳戒態勢だよ。畑にも街道にも、人通りが全く無いでしょ?」
考えてみればそうだ、この城門も、何もないのに閉ざされているし、街道に人の気配は全くなかった。
「…そういうことでいいんですよね?」
「うん、来るよ
異常なまでに強化された、魔王軍団がね」
ユーラさんがそう言った直後だった。
森の方向に、いくつもの魔力の気配。
正確な数は分からないが、低級の気配は数え切れず、中級もかなりの数だ。
「…待て、あの森って、さっき僕が出てきた…」
その時、自分の背中に悪寒が走るような感覚がした。
「…カノン!!!」
♢♢♢
何が起こったのか、私には全く理解できなかった。
「…ま、もの…?」
目の前に現れた、巨大な石像のような魔物がそびえ立っていた。
家はもう半壊して、周囲は360°完全に囲まれていた。
(…今回は助けもない、もうここで死んでしまっても……)
……こないだまでの私なら、迷うこと無く諦めていただろう。
私は根っからの利他主義者だ。
人に迷惑は極力かけたくないし、私が死んで誰かが助かるのなら、喜んで身を投げられる。
だけど、いや、だからこそ、
「…だめ、絶対だめだよ!私が死んだら、セインスが悲しむかもしれない、それだけは絶対いやだーっ!!」
私は、こないだの感覚のまま、魔法を発動する。
手のひらの中に現れたホログラムのように煌めく防壁は、石像の魔物が振り下ろした拳が当たった瞬間、甲高い音を上げて、魔物の拳を砕いた。
「っ!!そこをどいて!」
次は自分の拳に力を込める。先程と同様のものを拳の形に纏い、そのまま石像の体の中心にぶち込んだ。
硬そうに見えた石像の体は、甲高い音を上げていともたやすく崩れた。
できた隙間を私は抜け出し、木々につけられた印を辿って全力でダッシュする。
後ろから乱雑に地面を踏む音が聞こえる。
「ハッ…ハッ…ヤバい、足がつる〜!」
久しぶりに走ったので、足が悲鳴を上げている。
街まで行ければ助けがくる…そこまで逃げられれば、
逃げられれば…
「ぐあっ!!?」
早すぎた。
あの巨体でどうやってあんなスピードが出せるんだというレベルのスピードが乗った、硬い拳の強すぎるパンチをもろに喰らった。
触らなくても分かる。今、確実に背骨が折れた。
「あ”あああぁぁぁァァァア!!??」
勢いのまま、地面に思い切り倒れ込む。パニックで全く分からなかった痛みが今になって脳天を突き抜け、私は今まで出したこともない声で悶絶した。
(頭が…回らない…はやく、かいふ、くを…)
思考も回らない。回復魔法を使おうにも、魔力の流れもパニクってぐちゃぐちゃ、脊髄もやられたせいで、もう足はピクリとも動かない。
「…最悪だよ、せっかく…ほっそい希望が…見えたっていうのに…」
拳が振り下ろされる。
同時に目の前に光が見えた。ついにお迎えが来たらしい。
「……!…ノン!!」
私を呼ぶ声がうっすらと聞こえる。
「カノン!!大丈夫か!?」
「っ!セインス!?」
あのこちらに向かって急接近する光はセインスだったらしい。
セインスは手に持った剣で、私に振り下ろされる拳を手首から裂断し、周囲の魔物をついでに一掃した上で、私に向き直った。
「大丈夫か?立てるか?」
「ついさっき下半身不随になったんだよ?立てるわけがないでしょ」
「下半身不随!?一体何があったんだ…はっ!?とりあえず回復を!」
セインスは、『アビリティ・ヒール』と唱え、私の腰に手を当てた。
痛みがどんどん引いていって、完全に途絶していた脚の感覚も回復した。
「すごい…」
「ふう、よかった。街を目指していたのかい?」
「まぁ、そこに行けば助けがあると思って」
私は、考えていたことをそのまま答えた。
「そう、じゃあ、このまま街まで行こうか。城壁の中のほうが幾分安全だろうさ」
セインスはそう言って、街の方向に私の手を引っ張っていく。
「ちょ…私まだ病み上がり…」
「そういうこと言っている暇もないからな、つらいなら僕の背中に乗るといい」
人に迷惑をかけるのは、やっぱりなんだかいやなので、私は遠慮して歩いていくことにした。
「キヅイテイルダロウ?ニンゲン。ナゼワレヲムシスル?」
明らかに人間じゃないくぐもった声、一言で分かった。
さっきの奴らとは、格が違う。
「ああ、確かにな。悪いが僕たちは戦えない。
真正面からかち合っても、勝てないことはわかり切っているんだ」
「ナンダ?オモシロクナイ。
ソノケンデ、ワガシモベヲキリステタノハ、ワレノゲンカクダトデモイウノカ?」
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作品タイトルがなかなか定まりません。短い文で内容を伝えるって難しいですよね。(2023/06/02)




