第27話 壊れた心
明らかに異常だった。
気配はさっきまではっきりしていた。完全に遮断される直前まで確実に。
可能性としては、何かに妨害されたか、もう一つ、彼女が死んだか。
「…何だと?」
「はい…少し外していいですか?」
「こいつらはもう私達で大丈夫かな。早く行っといで」
僕は、カノンさんが逃げていった方向に向かって走る。
木々が多くてなかなか進めない。
(ん?これは、3体、さっきのと同等の気配を感じるな)
僕は剣を抜き、前から迫る3体の魔物を、目にも止まらないスピードで切り裂いた。
よく見ると、それらは足を怪我していて、血がダラダラと流れていた。
(僕のつけた傷じゃない、ならば…)
そう考えた途端に、カノンさんの気配が回復した。
距離はそんなに遠くはない。転ばないようにゆっくり歩いて、森の中に佇む少女の姿を見つけた。
「……あ…セインス…」
「カノンさん!大丈夫ですか!?」
「…ごめん…また心配かけちゃったね…私は無傷だよ、大丈夫」
カノンは、そう笑顔で答えた。だけど、それが嬉しそうに言っているとは思えなかった。
「そうだ、さっきの魔物の傷は…」
「私がつけた、魔法がうまく機能してよかったよ」
「…そうか、こっちももうじき終わるだろう、今日と明日はゆっくり休もう」
そう、カノンさんに優しく話した直後、後ろから声が聞こえた。ゼグさんとユーラさんで、残りも全部倒せたらしい。
これで、全て一段落だ。
「…良かったな、カノンが生きていて…ああ、そうだ。一つ伝えないとな、大事な話だ」
「なんですか?」
「…………………記憶には留めておけ」
「…わかりました」
♢♢♢
久しぶりだった。幼い頃を思い出したのは。
くっきりと見えたんだ。何もかも。
私達の幸せを奪った謎の光。
狂って泣いた母の顔。
『みんな大嫌いよ!あなたも!私も!誰も彼も!私に期待させてくれたのに!みんな…いなくなればよかったのに!』
何も出来ない私をいじめる同級生の顔。
『こっち来んなよ、根暗』
『お前のせいで、全部台無しだ』
『お前の生きる価値なんてどこにもねぇよ』
耳の中に、そんな言葉が突き刺さる。
全部、全部、本当のことだったから。
だから、私は。
『もし、来世があるのなら、その時は幸せに生きられるのかな』
♢♢♢
「…うあああ!…ゆ、夢…?」
私は、ベッドから思いっきり飛び起きた。
今日は、疲れて寝てしまっていたのだ。
「……何であんな夢なんか…う、」
気持ち悪い。あのありとあらゆる悪感情を煮詰めたような顔を思い出す。
「…カノンさん?大丈夫ですか?」
「うあ、うん、大丈夫…ちょっと夜風にあたりたいなぁって…」
そう言い訳をして、窓際に進んで、少しだけ身を乗り出した。
空には満天の星空、平都じゃまず見られない光景だ。
星空は好きだ。自分の悩みなんて、どうでもよく感じられてくるから。
セインスも、一度起きたが、また寝静まってしまった。
「今日も疲れた~、結局セインスに任せっきりだったし、私はなんにもしてないけどね」
この家には時計がない。今はどのくらいの時間だろうか。
もしかしたら、もう日付も変わっているかもしれない。
「…セインスには、私がこの世界に来たきっかけは話していても、私が幼いときのことは言ってないもんね…また心配させちゃうから」
この世界の人はみんなお人好しだ。
本心かどうかまではわからないけど、建前ですらほとんど言われたことがない言葉ばっかり。
頼んでもいないのに、勝手に心配してくれる。嬉しいのに、何故か心がムズムズする。
(私は、やっぱりどこか壊れてる。人に褒められても、素直に喜べないし、本気で笑えない。人として無くしちゃいけないものを失っている気がする)
セインスは、壊れた心を治す方法はいくらでもあると言った。
だけど、私には見当もつかない。私の脳みそでは考えても分からないというだけかもしれないが、元の世界でも最善は尽くしたつもりだ。
「…カノンさん、まだ起きてたのかい?」
「あ、セインス、起こしちゃった…?」
「いや、ずっと起きていたんだ、カノンさんの本心を聞きたくてさ」
「…そう、頼み込んでくれればいくらでも話せるのに」
そう言うと、セインスは小さく微笑んで、私の隣にやってきた。
「え?…どうしたの?」
「僕も、夜空を見たかっただけさ。カノンも悪夢を見て、もう眠気も飛んでしまっただろう?どうせ明日は何も無いんだ。心ゆくまでここに居よう」
「…うん」
本当にお人好しだよね、セインスも、他の人たちも、
二人でしばらく夜空を眺めた。セインスの話す星の知識に、私は耳を傾かせた。
私の穴の空いたスポンジのような心を、水のように満たしてくれるようだった。
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