第2話 入居準備
平都市立住立高等学校この国の首都となる平都市の東部に位置する住立区、その中に位置する、公立高校だ。
入学式は既に終えていて、もう明日から授業が始まるのだが、逆に言えば今日は授業が無い。なら何故来たのかというと、
「やっぱり、寮は男女別々なんだね」
「当たり前だな」
そう、寮の入居準備だ。
必要なブツを全て持って、今日からここに住むのだ。その理由は簡単で、現代の子どもに孤児が多いことと、普通の家に子どもが住むには、シンプルに危険すぎると言うだけだ。
(まあ、孤児院よりかは安心だな。避難所として運用できるくらいだからな)
既に備え付けられた棚に、生活必需品を並べ、様々な設備の状態を確認する。広さは、小さめの団地の部屋くらいだ。一人で住むには十分だった。
◇◇◇
「おいしょっと、これで終わりか、随分と時間かかったな」
持ってきた物全部を整理し終えて、ふと窓を見たときには、もう外は夕暮れ時だ。
あり合わせのお金を持って外に出る。あの作業の後に、自炊はちょっとばかりきついので、適当なお弁当をコンビニで買って、食べようかと思ったからだ。
「さて、何を買っていこうか。カツ丼とかで良いかなぁ」
赤く染まる空を飛び回るカラスが、カァカァと鳴く。夕方になって、少しだけ冷えた春風が頬を撫でる。孤児院と違って、この辺りはだいぶ都市部に近い。住立区は結構湾岸部にあるので、平都市内で見ても、五番目くらいには大都市である。
食べたいものを考えながら、校外に出る。お金が足りるかどうかが、ちょっと心配な所だがな。
コンビニに着いたら、適当なコンビニ弁当をとって、レジのほうへと向かう。正治は結局カツ丼にした。ただ、食べ盛りの高校生である俺は、こんな少ない量で足りるわけがなく、プラスでおにぎりを買ってコンビニを出る。
「これだけ買ってたった七百円ちょっと...いや~お財布に優しいね~」
会計の時にもらったレシートを眺めながら、俺は自然と、口角がつり上がる。お金を見て喜ぶのは人間の本能だ。断じて俺が守銭奴というわけでは無い。
「うわっ、突風!?レシートが~」
その時、突然強風が吹き、レシートが遠くに吹っ飛んだ。レシートは無くしても別に困らないが、レシートを放置するのはなんだかいたたまれないので、それを俺は追いかけていく。
レシートは結構な距離を吹っ飛んでいるらしい。証拠にどれだけ進んでもレシートが見当たらない。風速がどのくらいだったのか、ちょっと気になる。
「あ、このレシートあなたの?いるのか知らないけどあげる」
「ん?ああ、見当たらないと思ったら拾われてたのか」
不意に後ろから声がした。そこに立っていたのは、栗色の髪に、紫色の瞳を持った少女だった。
実はコンビニで一回会っているが、他のお客さんという認識でしか無かったため、俺はそんなに覚えていない。
「ん、まあもらっていくよ。ゴミをそこら中に放置したくないしな」
「ふーん、これくらいこの辺に放置しておけば良いのに」
俺は自分と違う価値観に少し違和感を覚えたが、おとなしくレシートを受け取って、その少女に挨拶をして自分の寮に戻った。
彼女の価値観を受け入れるのに、さほど時間はかからなかった。何故かは分からないが。
彼女が離れて、自分も寮に帰ろうとしたその時、不意にこの間のことを思い出した。
「……あ、そうか。どこかで見たことあると思ったら、入学式の時話しかけたんだったな……その時なんて話したんだっけか……?」
もしかしたら、変な人だと思われた羞恥のせいで、自分の記憶を封じているのかもしれない。もしそうなら、記憶を下手にほじくり回すのはやめておいた。
黒歴史のフラッシュバックなんて、俺はお断りだ。
「……ま、あんな美少女知り合いなわけないか。夢を見るのもほどほどに、だな」
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メインヒロイン登場です。