第25話 技術と仕事
昨日の夜は、ただご飯を食べて、寝て、一昨日と特に変わりはなかった。
今日は、セインスには仕事があるらしい。
家出して、収入もないと言っていたので、あのお金はどこから出ているのかと思っていたら、やはりしっかり仕事して稼いでいるようだ。
「今日はどうする?せっかくなら僕と一緒に来るかい?」
「まあ、うん。私にできる仕事なら、一緒にできるようにお願いしようかな。このまま穀潰しでいたくないし、セインスの仕事も気になるし」
どうせ家に居てもやることが無いのだ。セインスについていって、仕事の様子を見たり手伝ったりするのも一興だろう。
「ところで、何をしているの?」
「この世界は、魔物が多いからね。城壁をぶち破って街の中に侵入してくるものも多いんだ。だから、僕は街中に侵入しようとする、もしくはもう既にした魔物の撃退を担ってる。自警団とでも言おうかな」
それを聞いて、私は凍りついた。
こんなことならついていこうとするべきではなかったかもしれない。
自警団、私の世界にもそういった職業があった。ただ、それは公的に認められている訳では無く、警察が役立たずだから黙認されているだけなのだ。
そして、具体的な仕事内容だが、概ねセインスが言ったことと同じだ。その自警団が担当する広大なエリア内の通報などを受けて、街で暴れまわる魔物を倒す。そして場合によっては、魔法を扱う人間との対人戦もあり得る。
資格も何も必要ないが、ありとあらゆる危険性がまとわりつく職業だ。貧乏な人が一攫千金を狙って始める職業とも名高い。
「あ~…なるほどね〜……」
「今日は、仕事をするかどうかわからないけどね。もしかしたら一日中暇かも」
むしろ、一日中暇であってほしいと、私は天に願った。
♢♢♢
やってきたのは、昨日でお馴染み、サテナだ。
この都市には、合わせて3つの自警団がしのぎを削っており、そのうち一つに、セインスが所属している。
そして、詰所のような場所のドアを開けると、無愛想な顔をした男が座っていた。
「お…セインスか、よく来てくれた…じゃ、後は頼んだ」
「ゼグさん、あなたまたここで飲んでいたんですか…」
「ああ、まあな…ところで後ろのそれは知り合いか?」
「アッハイ、カノン…です」
気づいてもらえて良かった。これでスルーされたら泣いたかもしれない。
「俺たちの仕事に興味が出たか…この業界はいつも人手不足だからな…いつでも大歓迎だ」
「え、ちょ、別にそういうわk
「セインスについていってくれ、俺はここで寝ている」
「え、ちょおぉぉぉ!!?」
いつの間にか、セインスと一緒に仕事することになってしまった。あのおっさん強引過ぎる。
♢♢♢
「魔物出んな魔物出んな魔物出んな魔物出んな…」
「そんなに怖がらなくていい。今日の僕のシフトはこのサテナ東部の地域だけだよ。ココに侵入してくる魔物はあまりいないさ」
「はあぁぁぁ…でも私は戦えないよ。私の固有魔法が、ただ攻撃を防ぐだけなのに一体全体どうすれば…」
「それだけあれば十分さ。むしろ、心強いくらいだよ」
あの強引なおっさんのせいで、自警団なんてトンデモな仕事に興味を持っていると盛大な勘違いをされた私は、断ろうにも断れず、結局ついてきてしまった。
今歩いているのは、街の東部の大通りだ。やはり沢山の人で賑わっている。
更に先に進むと、私は気になるものを見つけた。
「ん?あれは…」
「あれは、たしか大街道沿いを走る、火と水だけで走る乗り物だな。開通したのは最近で、まだ名前もついていないらしいが」
「火と水…ああ、産業革命の礎、蒸気機関車ね。何気に相当技術発展してるじゃん」
中学校までの基礎的な知識ですぐに分かった。
異世界と言えど、簡単な技術で腰を抜かす程、知能レベルは低くないらしい。
ただ、もう産業革命レベルまで到達しているとは思わなかった。
「へぇ、君たちの世界では蒸気機関車というのか。向こうの世界から知れることは多いな」
「それはいいけど、あまり私の知識をあてにしないほうがいいよ。学校でも屈指のおバカだったんだもん」
「その学校のレベルが、僕たちの世界に比べて相当高いのはよくわかるさ」
だが、一つ気になったことがある。一般的な蒸気機関車というと、煙突がついていて、そこから石炭を燃やした煙が出てくる仕組みになっている。
だが、その機関車には煙突もついていなければ、煙も全く出ていない。
「煙?…ああ、さっき火と言ったか、あれは実際には火の魔石を使って水を熱しているらしい。石炭よりも更に効率的な燃料だ。魔石を燃やしても煙もガスも出ないからな」
私は魔石というものをよく知らなかったが、そこはセインスが懇切丁寧に教えてくれた。
魔石とは、はるか昔の生物の魔力が、大地の強い圧力で結晶化したものであり、聞いている限り化石やダイヤモンドと似たようなものらしい。
「うわー、地球温暖化対策に大貢献できるじゃん」
改めて私は、魔法ってすげー、と思った。
♢♢♢
「本当に、何もなかったね」
「だからいっただろう。街の中に入ってくる魔物は少ない。明日の僕のシフトは外だから、少し遭遇しやすくなるかもな」
私達は、街をぐるりと巡回して、詰所の方まで戻ってきた。
そこには、先程の男が、なにかに向かって話しかけていた。
「…どうしたんですか?」
すかさずセインスがそう聞く。
「ああ…戻ってきたか。すぐにで悪いが残業だ。城壁の外に、推定中級の魔物の群れだ。今はユーラが対峙しているが、手に負えないらしい」
「…ゼグさんも来てくださいよ?」
「当たり前だ。魔物の数は、甘く見積もっても50はくだらない、3人だけでかなうわけもないだろう」
帰ってきて早々にこれだ。
私は、最近ずっと運に見放されているのだろうか、いや、最近じゃない。これまでずっとだ。
「…まさか、それって私も…?」
「ああ、人手不足だって言っただろう」
…確かに、死のうとはした。覚悟も決めた。だけど、
「痛いのは嫌だァァァァ!!」
夕暮れ時、私は二人に連れられて、街の外へと行くことになった。




