第24話 ネガティブシンキング
「…色々あるけど、デザインはシンプルなんだね」
「昨日カノンが着ていた服が奇抜過ぎたんだ」
店に入ると、店員らしき人がいらっしゃいませ、と声をかけてくれる。
今更ながら、何故異世界なのに言葉が通じるのか分からなかった。
そう、思ったのも束の間、服を適当に見ている間に、値段表を見つけたが、
「何この文字…私の知らない言語!?」
ここに来て初めて気づいた。この世界の言語は、発音こそ日本語と同じだが、書かれている文字は日本語とは全く別物だった。
もちろん、英語でも中国語でもギリシャ語でもない、謎の言語がそこに書かれていた。
「……セインス」
「どうした?」
「翻訳して」
「…話せるのに読めないのか?」
「確かに発音は同じだけどさ!私の使っていた文字は全くの別物だよ!」
セインスは、かがみ込んで、そこに書かれた謎の文字を読み上げる。
「ワンピース、75ソイル、と書かれているよ」
「まず私には『ソイル』が分からない…通貨の単位?」
「まあ、そうだな」
これはまた新しく色々なことを覚えないといけないらしい。ただでさえ勉強が苦手だというのに…やはりあの時ちゃんと死んでおくべきだったか。
「……セインス、選んで…やっぱりダサいって言われるの怖い」
「そんなに悲観的にならなくていいと思うけどね…じゃあ、これなんかどうだい?」
セインスが持ってきたのは、オレンジ色を基調としたポロシャツのようなものだ。
これくらいなら元々いた世界にもありそうだ。
上はこれでいいとして、次は下だ。
これに関しては、まあ、
「…このスカートでもいいかな~、下は何着ても変わらないよ」
手に取ったのは簡素な白いプリーツスカートだ。多分ミニスカートという範疇に入るのだろうか。
「じゃあ、セインス、お会計お願い!」
「待て待て、試着とかしなくていいのか!?さっきまでダサくなるのをあんなに恐れていたのに」
「セインスが選んだんじゃん。下手に変えるのも怖いし」
「はぁ…まあいいか」
♢♢♢
選んだ服を購入したあと、そのまま店内で着替えさせてもらって店を出た。
1ソイルの相場はわからないが、今回は合計190ソイルのお買い物になった。
「結構似合ってるじゃないか」
「その言葉はこれまで何度も言われたよ…本心では思ってもいないくせにね」
「やっぱり、カノンさんの心のケアも必要かな」
セインスが冗談めかしてそう言った。私ははっきりと否定出来ないことに悔しさを感じた。
「…このあとはどうするの?」
「市場で食材を買って帰る。住む人が一人増えたから、もう少し多めに買って帰らないと…」
「すいません…すいません…」
(ん?…何でカノンさんは謝っているんだろう…)
♢♢♢
人の多い道のりを進み、だいぶ中心部まで近づいて来たような感じがする。辿り着いた市場は、色々なところから声が聞こえ、非常にやかましかった。
「市場って、何を売ってるのかな」
「魚や肉、野菜などの食材や、色々な日用品、専門的な道具、簡単な装飾品に、服も売っているが、質を重視したいならああいう専門店で買ったほうがいいな。あとは、あまり言いたくないが、裏路地に入れば奴隷を売っていたりもする。まあ、ぶっちゃけなんでもありってことだね」
「奴隷かー、私はその辺が天職かもなー、人の命令従っているだけでいいし」
「カノンさん、病んでます?」
「自殺しようとする人に、病んでない人なんていないわ」
私は、満面の笑顔でそう返す。
もう末期かもしれないと、セインスはクソデカため息をついて、近くの八百屋さんに入っていく。
野菜は全部、低いものなら5ソイル、高いものでも30ソイルくらいだ。
これがこの世界のお手頃価格なのだろうか。1ソイル=1円なら、安すぎるというものである。
ただ、安いというのは本当っぽい。城壁の外に広がる広大な農耕地、それがここの街を支えているのかもしれない。
「おう!セインス、今日も来たのか!さあ、今日はさっき入った採れたてだよ!」
「ああ、おじさん、ありがとう。じゃあこれとこれとこれを、2つずつ」
「いつもより多いね、どうしてだい?」
「あ…えっと、最近この子が僕の家に来たんだ。い、家がないみたいでさ…」
「…ああ!なるほどな、すまない、気づかなかったよ」
私の心に、チクリと、小さな痛みが走った。
「…すみません、お金はここに置いておきます。ありがとうございます」
「ん、ああ」
♢♢♢
セインスは、私を気遣ってくれたらしい。そんなことしなくていいのに。
「すまない、多分悪気はないと思うんだ。あんなけむくじゃらな見た目でもいい人だから…」
「…私は大丈夫だよ。私の心はもうどこか壊れちゃっているんだから」
私は、そう笑顔を繕った。
最後に本気で笑ったのは、いつだったかな。今になってはもう思い出せない。
「…心を治す方法はいくらでもあるさ。とりあえず、今日はもう帰ろう」
私は小さくうなずいた。
市場から出て、あの森の中に帰る途中で、私は考えた。
たった今のことだけじゃない、昨日からずっと、
何で、この人は私を気遣ってくれるんだろう。
1ソイル=10円くらいの相場です。




