第22話 異世界の少年
「君は誰だい?」
その言葉は、美しく透き通った言葉だった。
目の前に佇む同年代くらいの金髪の少年は、剣を仕舞ってこちらに振り向いた。
「あ~、えっと…ここはどこですか?天国ですか?」
「天国…か、それとは少し程遠いね。僕らの世界に正式な名称はない、ただ、外の世界からはこう呼ばれているらしい。魔界、とね」
「…魔界…?『境界』で繋がっていると言われているあの?」
その言葉を聞いたとき、少年は少し驚いたような顔をして、ほう、とつぶやき、もう一つ私に質問した。
「君は、もしかしてそのもう一つの世界から来たのかい?」
「ええまあ、そういうことになるのかな」
「面白いな。僕もその話を少し聞きたい。君も帰る家もないだろう、僕の家に来るといい」
「は、はぁ…」
私は彼に促され、一緒に家までついていくことになった。あわよくばこのまま死のうと思っていたのに、余計なことをしてくれる。
妖精が住んでいそうな、神秘的な森の中を二人で直進する。
よく見ると、木々の幹には、何やら傷のようなものが付けられている。おそらく彼が森の中で迷わないために、付けたものだろう。
「さあ、ついたよ。ここが僕の家だ」
たくさんの木々に囲まれた、小さな広場に、それはあった。
見た目は木造の小屋に近く、大きさもそこそこ。立地はともかく、中も快適そうだった。
「まあ、先に座っていてくれ。お茶を淹れる」
私は、そんなにかしこまらなくていいのに、と思いながら、言われた通りに、椅子に座って待つ。
自殺するときに、持ち物なんて持ってきているわけも無いので、私のふところには何も入っていない。お金を要求されたら、身体で払うしかなくなってしまう。
(ま、それでもいいや、もう人生どーでもいいし、生きる理由ができるならそれはそれでいいし)
私は椅子にもたれかかって、さらにリラックスする。
しばらくすると、少年が向こうの方からカップを2つ両手に持って戻ってきた。
「待たせたね、早速話を聞きたいところだけど、まずは僕の方から名乗らないとね」
少年は、テーブルの向かい側の椅子に座り、こう、前置きを置いてから話し始めた。
「僕の名前は、セインス・クラン・アルマントルだ。呼びにくければセインスでいい」
「名前がもう庶民じゃないでしょ、どういうこと…」
てっきりシンプルな名前が飛び出してくると思ったが、長くていかにも高貴な身分であることを表すような名前が飛び出した。
「驚くのも無理はない。確かに僕は高貴な身分の出だが、今は君と対等に扱ってもらって構わないよ。僕も家出しているのだし」
「家出!?高貴な身分なのに家出しちゃうの!?なんて贅沢な!!」
「…君を不快にさせたなら謝るけど、そんなに驚くことかな?」
私は、一旦落ちついて、お茶を一口飲んだ。
「は~、ふぅ~…」
「落ち着いたかい?ゆっくりでいい」
「ああ、うん…私は、生駒香音、香音でいいよ」
「カノン、か。分かった。早速で悪いが、その別の世界のことを聞かせてくれないか?」
「いいけど…何で?」
「僕が気になるからだ」
「はぁ…わかったけど、後悔はしないでよ」
そして、私はセインスに、自分の住んでいた世界のこと、自分がこの世界に来た理由を話た。
話し続けて体感十分経ったとき、とりあえず言えることは全部言った。
「どうだった?」
私がこう聞くと、セインスは、微妙な顔をして答えた。
「ああ、うん…まあ、壮絶な話だな。でも全体として見たら暮らしやすそうな世界だな」
「私は生き地獄としか感じなかったけどね」
「ま、まあこの話は後にしよう…今日は泊まっていくかい?」
「…まだ私は死ぬのを諦めたつもりは無いよ」
「今、君が足をつけている世界は、元の世界とは違う。またもう一度、この世界で、生きる意味を見つけてみたらどうだ?」
セインスは、そう言って、ニヤリと笑う。
♢♢♢
その後、は二人でご飯を食べた。献立は、野菜のスープといくつかのパン、焼き魚といった、特にゲテモノではない普通の献立だ。
ご飯を食べたら、後は寝るだけ。たまにお風呂代わりに近くの泉に行くらしいが、今日は特にそんなことはなかった。
私は、黙ってベッドに入る。セインスとはもちろん別だ。
近くのベッドで眠るセインスを、掛け布団の隙間から覗き込む。
(生きる意味…もし命に価値があるなら、
15年生きても分からなかった、自分の価値ってなんだろう)
私は、そうとだけ考えて、ゆっくりと目を閉じた。




