第20話(第1章最終話)動き出す悪意
「……なるほど?つまり私が呆気なく捕まっちゃったから二人して私を助けに来て、ボロボロになってきたと」
「正確には、助けに来たのは私だけ。正治君は、私をストーキングしてたら巻き込まれたってだけ」
「いや、俺も理央が心配で時雨についていったんだよ!あと時雨、容疑者だと思っていたのは謝るから!」
翌日、大怪我(?)を負って、一時的にではあるが入院していた理央の病室には、俺、時雨の二人と、当事者の理央が集まっていた。
ちなみにこの状況は昨日から続いてる。
時雨と俺の二人が、戦いに夢中になっていたせいで終電を逃してしまったのだ。なので、昨日は理央の病室で一晩を明かした。
「…あ、そ、そういえば正治、せ、先生にはなんて説明したの?」
髪をまとめていたリボンを全て取り、ただの黒髪ロングになった理央が、怯えるように俺に聞く。
「ああ、連絡ならしたぞ」
「そ、それで…?」
「カンカンだった」
ですよねー、とでも言いたそうな顔をして、時雨と理央が小さく頷く。
「まあ、今日は欠席の連絡をしたぞ。もう朝の8時だしな。月曜日が怖いぜ」
「ま、まあね〜…はあ…やっぱりまだ眠いから寝てるね」
理央は、まだ睡眠薬の影響が残っているのか、布団に包まってまた寝てしまった。
俺は、理央が寝静まったことを確認して、時雨に話しかけた。
「やっぱりマイペースだな…」
「うん、無事で良かった。誰か死んでいたら夢見悪かったから」
「お前もそういうことは考えるんだな……」
窓の外には、青い空が広々と拡がっていて、温かい光が、3人の元に差し込む。
「…ちょっと来て」
時雨は、しばらく黙っていたが、やがて、病室の外に出るように促した。
ドアを開けて、病院の廊下に出る。
「…どうしたんだ?」
「一つ、正治君に聞きたい話があって」
「?…まあ、聞くだけなら別に」
時雨は、一拍ほど置いてから、真剣にこう聞いてきた。
「何で、昨日戻ってきたの?私はSOSを出した覚えも無いのに、何でそのまま帰らず戻ってきたの?」
それは、純粋な疑問だった。
マルチエンドのゲームのように、答えによって何かが変わるようなものではなかった。
俺は、自分のことを、ありのままに表す。
「…俺はさ、何が問題が起こると、すぐに“もしも”を考えちまうんだ。今回もそうだ。何も情報がない中で、もしも時雨が死んじまったらって考えると……急に怖くなってくるんだ。
俺は別に時雨を信用していたわけでは無かったし、友達ともほとんど思っていなかったんだけどな。俺もお前と同じように、人が死ぬのは嫌ってだけなんだ」
俺は、時雨に対して話し続ける。
「昔のトラウマがあってな、自分の知らない、わからないところで、親しい人が死んじまったんだ。5歳だったから仕方ないんだけど、その時俺は何も出来なかった。
だから俺は、不規則で気まぐれで、理解出来ない、わからない何かに、自分や他人の運命が、左右されるなんてのが大嫌いだ。だから、なんとしてでも最善手を探ろうとする、昔っからの癖だ。
今ここに二人共いるのは、結局全部俺の勝手な願望のお陰だ。正義のヒーローなんて大層なものじゃないさ」
時雨は、ふぅん、と興味はあんまりなさそうな返事をして、俺の側に更に近寄った。
「正義だろうが悪だろうが、結局全部自分の願望こじらせただけだけどね。すこし、スッキリしたかも、疑問が解消したからかな?」
時雨は、もたれかかっていた壁から離れて、向かいの窓から外を覗く。
いつもと変わらない。だけど寮から見る景色とはどこか雰囲気の違う町並みだ。
「あ~、そう言えば、昨日“わからない”が一つ増えたな、時雨、何でお前あいつらに狙われてるんだ?」
時雨のターンが終わったら、次は俺の番だ。
昨日戦ったあの二人は、理央も俺も捕まえようとはしなかった。なら必然的に、目的は時雨の可能性が高いし、それが一番しっくりくる。
「…まず、何で分かったのか知りたいけど、それは教えられない。もともと私が目的だってことも知らせるつもりはなかったんだけど」
「まあいいか、俺だって詮索する気はないから、いつかお前の口から聞ける日を楽しみにしてるぜ!」
「それはいいけど、私の周りに居たら必然的に巻き込まれることになるよ」
「なら、死なないようにしないとな。この世界はわからないことだらけだ。全部知るまで、俺は止まらねぇよ」
「まあ、どのみち昨日の騒動で奴らにマークはされてるだろうけどね。じゃあ、私に勝てたら教えてあげる。私も強くなるけどね」
俺は、小さく頷いて、笑ってこう言った。
「ああ、やってやるよ!それが俺の行動原理だしな。
この2つの世界で“わからない”を全部消して見せてやる!」
◆◆◆
時は、昨日の夜に遡る。
「……っっ…!いったぁ…一体何時間たったの?」
先程まで時雨と正治の二人と戦闘を繰り広げていた女は、なんとか起き上がり、回復魔法をかけて全快の状態になる。
「!そう言えば、油屋はまだ気を失ったままよね~、起こしてさっさと撤収するか…」
女は、吹き飛ばされたコンテナのあとを辿って、意識を失って死にかけている油屋を回復魔法で回復し、そのまま彼が起きるのを待った。
「!!…おい!アス、あいつらは?」
「逃げたわよ。正直、もう追いかける気力も湧かないわ」
アスと呼ばれた女は、汗を流しながらそう話す。
「…チッ、あんなガキ共にやられるなんてな〜、帰るならさっさと帰るぞ。『計画』の進行具合を確認しねぇといけねぇんだろ〜?」
「…それもそうね、あくまで今回のは資金源が欲しかったってだけの話、金と権利にしがみつく汚い人々を浄化する、『浄化計画』…それだけはなんとしてでも成功させないとね」
アスは、服の裾の汚れを払い、日付も変わろうかという真夜中の月夜の下、呟く。
「作戦開始は、二週間後の4月27日に、平阪湾アクアラインの起点となる影島JCT周辺での市街テロよ。よく準備しておきなさい」
社会の裏側で、燻る悪意が動き出した。
第一章完結です。
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言ってませんでしたが、この小説は、複数主人公で進んでいきます。
次回は、魔界という名の異世界で始まるもう一人の主人公のお話です。




