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第16話 暗転

 時雨は、巨大な蛇のような魔物を周囲に従える油屋を、真正面から見据えていた。


 数は3匹、どれも人間の5倍はありそうな巨体だ。そして、頭と見られる部分に、目や鼻といった器官はぱっと見、見当たらず、巨大な口が大部分を占めている。


「サンドワーム、だっけ。随分とグロテスクなやつだね」


「ああ、そうだな〜。だがお前はこれからこのグロテスクなやつに飲み込まれて死ぬんだ。そう思うと楽しくなってこないかい?」


「あいにく、異常者の変態性癖に付き合っている暇はないの。丸呑みプレイならよそでやって!」


 時雨は、再び爆炎をチャージし、細いレーザーのようにして、サンドワームの一体に向けて放つ。


 攻撃は見事命中して、対象の身体に大穴が開いた。


「俺の出せるサンドワームの数はこれだけじゃない。プラス5体だ、これを全部避けきってみろよ」


 男はそう言うと、さっき貫いた一体を消して、かわりにさらに大きな個体を言葉通り5体召喚した。


 そのうち、3体は地中に潜り、2体は助走をつけて、勢いよく時雨の方向に突っ込んでくる。


 前方から自分に向かってくる2体迎え討ち、地中の状況を察知するため、耳を傾ける。


(…地下深くで、岩石を砕くような音が聞こえる…そのまま地上に突き上がってくるつもり…?いや、にしては音が長い間続いてる…それに徐々に大きくなってる?まさか…)


 時雨は、油屋の間合いに入り込んで、確実に仕留めるため、地面を大きく踏み込んだ。


 時雨の予想通り、思いっきり踏み込んだ時雨の右足から、舗装の剥げた地面が、薄いガラスを割るように脆く崩れ去った。


 地中でサンドワームが暴れまくっていたせいで、この地下の地盤が穴だらけになっていたのだ。


「ッッ!!」


 周囲の建物の残骸を巻き込み、広範囲の地面が一瞬で大きめの岩石の山になった。


 すんでのところで、岩石を避けて無事生還した時雨が、本日何度目かもわからない土煙の中から、いまだに視界の回復しない油屋に向けて熱線を放つ。


 あちらから見えないと言うことは、当たり前だがこっちからも見えないので、もちろん当てずっぽうだ。


「まだ、これだけじゃないぞ~!プラス8体だ!」


 油屋は、高らかにそう叫んで、時雨が地中から這い出てきた3体の処理もまだ終わらない内に、同サイズのサンドワームを8体召喚する。


 今、この盤面に出ているサンドワームは全部で11体、時雨はさっきから当たり前のように処理しているが、魔力量やパワーから見積もっても中級(ミドルクラス)は堅いだろう。


 始まってから今までの戦闘で、時雨は自分の上限魔力量の、約5%を消費した。


 一見、そんなでもないように聞こえるが、相手が固有魔法を使い始めた今、そちらの防御にも、身体自体を動かすエネルギーが尽きたときの、予備エネルギーとしても魔力を割く必要が出てくる。


 戦闘が始まって十分ちょっと、このまま消費ペースがうなぎのぼりに上がっていくことを考えると、あと3時間10分も保つといった、単純で希望的な一次関数なんてあてにしないほうがいいだろう。


「『オーバーバーン』ッ!!」


 さっきの陥没穴から即座に抜け出した時雨は、チャージした火炎球を、ナパーム弾もびっくりの威力で炸裂させる。


 これで、さっきまでのサンドワーム達なら、一瞬で消し炭になっているはずの威力だ。


 だが、当の奴らはというと、あれを間近で食らったはずなのに、一切の速度を緩めず、こちら側に突進してくる。


 飛びかかってくるサンドワームを、自分の魔力防壁で弾いて、初めて理由が分かった。


(薄い魔力装甲!それも全員に…そんなに魔力無駄遣いしたら先に魔力切れ(死んで)ダウンするのはそっちでしょ!?)


 気づけば、時雨が目視で確認出来る範囲内のサンドワームは、全員魔力装甲を作っていた。本来の勢いと、魔力のパワーが組み合わされば、かすっただけでも大事なのは間違いない。


 もちろんそれも重要だが、時雨は一つ、違和感を感じた。


 油屋は、さっき8体召喚してから、あれから間髪入れずに何体も召喚し続けていて、今盤面に出ているサンドワームの数は、30体以上に及ぶ。


 それら全てに、魔力装甲というオプションをつけた上で常に動かし続ければ、時雨の魔力消費ペースを、2、3倍ほど上回るペースで油屋の魔力は削れていく。


 おそらく、前半十分のアドバンテージは、この数分で塵と化しただろう。


(魔法を使い始めた途端、たがを外したように無駄遣いして…何か理由がある?何か、何か見落としているような…さっきから私の考えを見透かされているような不快感…何か…)


 時雨はもう一度冷静になって、時雨は周囲を見渡す。


 自分に向かって襲いかかるサンドワームは4体、その他は、全て油屋からなかなか離れない。


 ここまで見て、時雨はようやく分かった。さっきまでの息づく暇もない猛攻は、()()()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに。


 さっきまで、避けようと移動した場所には、必ずと言っていいほど、サンドワームの口があった。大量の手駒を用いた、がむしゃらな猛攻なら可能かもしれないが、これが4体だけだとしたならば、移動予測が相当正確でないと不可能だ。


 時雨の予想は、いくつもの事実から、確信へと変わった。


 自分の動きを見透かされている、そう理解した途端、自分のいた場所を掠めるように、真っ黒なエネルギー球が飛び、地面に激突した。



「どうもこんばんは、私のところの油屋と楽しんでくれていたようね。


 早速再開しましょう?私を入れての第二ラウンドをね☆


 セレナ・エキスマリンさん」

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