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第15話 救出

 倒れた理央を、目の前で見たとき、これまで、大して気にしてもいなかった記憶が、いきなりフラッシュバックした。


 冷たくなった、5歳児の小さな身体。思い出したくなくて、心に鍵を掛けた忌まわしい記憶。


「っ!!……あああぁぁぁぁぁーーっ!!!」


 俺は、体裁も全部かなぐり捨てて、倒れ込む理央に向けて、これ以上ないほどの力で、でこぼこの地面を蹴り、理央の元へと直進した。


 今、この周辺で何が起こったのか、男は誰で、なぜ時雨は戦っているのか、全部、全部、わからない。


わからないのに体だけ動く。幼い頃からの親友が、こんなところで、こんな奴に殺されてたまるかと、全貌のわからない大きな感情が、俺を突き動かしていた。


「このタイミングで、乱入者かよ〜!サンドワーム!あいつを骨の髄まで喰らい尽くせ!」


 いくつもの巨大な蛇のような魔物は、男が合図を出すと、地中から現れ、俺を目がけて殺到する。


 しかし、あれが俺の体に到達する寸前で、口だけのグロテスクな頭部が、強い光と共に消し炭になった。


 後ろでは、時雨が手をこちら側にかざしていた。掴んだ好機を逃さないように、俺は理央の首元に触れた。


 首からは、まだ血がどくどくと出ていて、傷もかなりの深さとなっている。この分だと、気管も強く傷ついているだろう。


 心拍は、どんどん加速して、全身に酸素をフルパワーで送り続ける。だが、止まりかけていないだけまだマシだ。


 俺は、首元に手を触れたまま、こう唱える。


「『アビリティ・ヒール』!」


 手のひらに魔力を集中させる。優しく、ゆっくり流し込むように。


 これは、中学の頃に習った基礎的な回復魔法だ。四肢欠損レベルなら、もう1段階上級のものが必要になってくるが、ただの深い傷程度なら、これでいい。


 呼吸が、徐々に落ちついて、首元からとめどなく流れていた血も止まった。多少雑だが、傷口は塞がった。


 あとは、なんとかして、ここから逃げ出す必要があるが、さっき時雨が倒したはずの魔物は、既に再生して、こちらに標的を定めている。


「クソが!邪魔だっ!!」


 俺は、理央を抱えて、もう一度全力で走り出す。今日はずっと走ってばっかりで、足がつりそうだ。


 ラッキースケベを楽しむひまもない。再び、グロテスクな魔物が、地面を這って粉塵をまき散らしながらこちら側に前進する。


「はっ、はっ…重てぇ……急がねぇと…っ!?」


 ボロボロのアスファルトのひび割れに足を引っ掛け、俺は盛大に転ぶ。弾みで手に抱えていた理央も一緒にアスファルトにぶつかった。


 真後ろに、人を丸呑み出来る巨大な口が近づく。こんどこそ死ぬ、そう思って強く目を閉じた。




「ボケッとしないで。私は一人で十分、早く病院行ってきて」


「…ヘ…?」


 後ろから声がした。思えば、既に背後にまで迫っていた地面を高速でこする音は止み、かわりに大量の火の粉が周囲に舞っていた。


「…時雨、一人で大丈夫なのか?」


「正治くんが来るまで、この放棄区域を荒らし続けたのは誰だと思っているの?ここにいたら、今度は二人共死にかけるよ」


「…分かった。無茶はするなよ」


 俺は、再び理央を抱えて足を回す。




「……無茶なんてできないよ、まだ何もできてないしさ」



 ♢♢♢


 俺は、すっかり陽の沈んだ夜の街の中を、急いで走っていた。


 さっき応急処置は施したが、大量出血による貧血、今は落ちついているが、脳内の酸素不足による意識消失、思いっきりアスファルトに身体をぶつけたときの、全身打撲、


 今回ヒールをかけたのは、命に関わる首元だけだ。


 あのレベルの回復魔法では、内部の貧血や、意識消失までは直せない。


「はっ…はっ…こっちであっているのか?」


 意識の無い理央は、異常に重いような気がした。マップアプリを使いながら、病院ヘ一直線で向かう。街灯もまばらな、藪子の住宅街は、かなりの距離まで続いている。病院に着くのはいつになるだろうか。




「…見えた!…くっそ、やっぱし遠すぎたな…」


 体感20分程度、やっと病院に到達した。多分、湾岸線一駅は跨いだだろう。


 自動ドアをくぐり、受付の人に、事情を説明する。ここには色々な手続きが絡んで、時間がかかったが、一応病院に引き取ってもらえることにはなった。


 病室でベッドに寝かされる理央を見て、俺は思った。


 よかった、と

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