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第14話 わからない

 俺が、時雨を見失って、理央も時雨もどっちも心配って状況でその音は聞こえた。


 ズガンッと、大地が揺れるほどの破壊音が、放棄区域の方から鳴った。今、このタイミングでの近辺の異常は、偶然とは言い切れないだろう。


「放棄区域に行くなら…直進すれば行けるか?」


 さっきの角を曲がったとき、時雨は既にいなかった。つまり、この直線的に続く路地の、どこかの曲がり角で曲がったということだ。


「まあ、御大層にバカでかい音を出してくれているんだ。迷うことはないだろ」


 俺は、今いた場所から、勢いよく走り出し、大きな音のする方へ走って行く。破壊音は、俺が現場に向かっている間にも、連続して鳴り響く。


 行くのが危険だということは、その爆音が、何度も知らせてくれていた。だけど、それ以上に俺は気になっていた。いったい、時雨は何をしようとしているのか。


 そして、これにもし、理央が巻き込まれているのなら、俺は目前で見捨てたくはなかったから。


 結局、数分で放棄区域の一部に到着したが、どこかに時雨がいるような訳じゃない。


 しかし、周囲に点在する瓦礫は、まだ熱を帯びており、焦げ臭い匂いからも、このあたりで戦闘が行われたのは確実と言えるだろう。


「ん〜、やっぱり移動したってことか、探せばいるだろうけど…」


 俺がそう言いかけたとき、目の前で巨大な光の球が現れ、辺りを膨大な熱量で蹂躙した。


 あの力は見覚えがある。時雨が、(ホール)から出てきた魔物を、跡形もなく消し飛ばしたときのもの、威力はそれの倍はあるだろうか、これより数秒遅れて、物と物のぶつかり合うような大きな金属音が鳴った。


「時雨、あいつやっぱり誰かとドンパチやってんじゃねえか!」


 俺は、音がした方向に向かって再び走り出す。まだその地点からは、もくもくと粉塵が舞い上がり、沈みかけの太陽の光をも遮っていた。


 ♢♢♢


 俺は、目の前の状況に、絶句した。


 幼児が遊んだおもちゃの如く、あたりに散乱したコンテナや瓦礫、コンクリートの塊から飛び出した鉄骨は、高熱によって黒く酸化した状態で、尋常じゃないほど折れ曲がっていた。


 だが、俺が注目しているのはそこじゃない。


 目の前に佇む、時雨と、パーカーの男の姿。


 男は、いまだ血の滴るナイフを片手に持ち、何やら口を不気味に歪ませ、笑っているようだ。


 そして、男の持つナイフの血、これが誰のものであるか、すぐに分かった。


 青みを帯びた美しい黒髪を持つ少女、


 凍山理央が、明らかに致死量の血を出して、地べたに倒れ込んでいた。


 考える暇もなく、俺はその時に脳内を駆け巡った言葉を、そのまま口に出していた。


「……おい、これはいったいどういう事だよ」


「テメェに聞いてんだよ、薄汚いパーカー野郎!!!」


 ◆◆◆


 十年前のことだ。


 その頃、俺は現実のことなんて、微塵も考えたこともない、5歳の無垢な少年だった。


『はやくいこーよ!まさはるー』


『う、うん!たつきくん!』


 俺は、ここ、現高府区、旧仙台市の片隅で生まれた。まだ理央たちとは会っていないときの話だ。


 人見知りの俺でも、仲良く馬鹿騒ぎが出来る友達がいた。


『タッチ!こんどはみえちゃんがおにだよ!』


『やったな~!まて〜!』


 たつきくんは、いつもアグレッシブで、生き物がとても好きだった。


 みえちゃんも、同じように活発で、空にとても興味を持っているようだった。


 今考えると、俺の周りは、いつも活発なやつが集まってくる。今も、昔も。


『…ねえねえ、まさはるくん。あれ、なんだろう?』


『…なんだろう?わかんない』


 空中に現れた、黒い穴。昔はそれが何なのか、全く分からなかった。


 最後に、母の叫び声が聞こえ、優しい温かみのある感覚が続いたあと、背中の焼けるような痛みがして、俺は意識を手放した。


 ♢♢♢


『…うぅ…ママ?』


『ねぇ…だれか…たつきくん…みえちゃん……みんな…』


『へんじをしてよ』




 その時のことは、あまりよく覚えていない。


 ショックで脳が働かなかったのかもしれない。


 あの後、俺は食べるもの、着るもの、住む場所を求めてさまよった。


 何日そんな生活をしただろうか、しばらくしたあと、魔族に襲われているときに、誰かに助けられて、そのまま孤児院に向かった。


『…えっと、だいじょうぶ?』


『…うん』


 理央とは孤児院で出会って、これまでずっと一緒にいてくれた。


 あの日、友達を失ってから、すぐにできた、新しい友達だ


『はっはー!おい!オレがさいきょうだ!あいさつしろ!』


『ふぁ!?』


 衝と出会ったのも、これとほぼ同時期の話だ。あの頃からクソガキ感はあったのだ。


 今に続く、二人との関係はここから始まった。


 ♢♢♢


『お父さんの行方は、まだ分からないの…だけど、きっと生きているはずだから!』


『…うん』


 ぼくのパパはまだわからない。これをなんかいきかされたかもわからない。


 すこししてから、パパがしんじゃったことをしった。


 すこし、きがらくになった


「わからない」なんて、だいきらいだ。

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