第11話 追跡・高校
朝、今日も生徒たちがクラスに入って来るが、相変わらず理央の姿はない。時雨はいつも通りだったが、少し不機嫌そうな顔をしていた。
(やっぱり何か気にしてんな。理央の件か、それとも別のことか…)
そこからは、いつも通りの授業に、いつも通りの休み時間。
何か特に目立ったことはなかったが、やっぱり時雨は終始不機嫌そうな顔で、窓枠に掴まって外を見ていた。
「あ~、やっと昼休みか、学校内なら、見ていても特に変化なさそうだな」
校内なので、2つの魔法はまだ使っていない。学校にいて誰にも話しかけられないなんて、すごく不自然だからだ。
「よぉ、正治。同じクラスの女子と楽しんでいるみてぇじゃねぇか」
後ろから声が聞こえた。このどことなく癪に触るようだ声は衝のものだ。
「おう、衝さん、そっちのクラスではどうですか~」
「残念だったなぁ!別に俺はぼっちじゃねえよぉ!」
俺は小さく舌打ちする。こっち側を強くにらんでくる衝は放って、俺はすたこらさっさと教室に入っていって、購買で買った惣菜パンを開けてさっさと食事を済ませてしまう。
さっきから時雨からほとんど目は離していない。端から見れば不審者だ、俺にだってその自覚くらいはある。いや、ホントはあっちゃいけないんだろうけど。
♢♢♢
午後の授業が始まった。これまでは学年集会など、授業以外の活動が多かったが、今から本格的な授業開始だ。
(…初っぱなから魔法科かよ)
ただ、高校始まって初めての授業が、魔法科の授業だとは思わなかった。
この世界の魔法科の授業は、中学校から、体育と同じように習うことになる。その主な内容は、座学と実習の二つで、実習の方では、基礎的な回復魔法や防御魔法、後はそのほかいろいろな特殊魔法を習う。この魔族だらけの世界で生き抜くための大切な授業だ。
とはいえ、この国は、別に魔法を使うことを推奨しているわけでは無い。この魔法科の授業も、やむなく導入したってだけらしい。魔法に関する法律が制定されていないのも。どっかから圧力がかかっているという噂がある。
(実習ならまだしも、魔法科の座学って退屈なんだよな…実習では基礎的な物しか習わないのに、こっちは知識量が多い多い…一体何に使うんだ…)
座学の方では、魔法の基礎知識、現在分かっている魔界の歴史、同じく現在分かっている魔族の種類など…取りあえず知識量はとんでもないのだ。
習う単元によっては、社会科っぽくなったり、生物っぽくなったり、習う内容が定まらない。
(はあ、メンドクサイ…早く終わらせよう)
魔法科の授業が終われば、次に待ち受けていたのは、数学だ。最後の最後になって、俺の一番大嫌いな科目がやってきやがった。
(はぁ、まだ中学校の復習で良かった、ただなぁ)
俺はクソデカため息をつきながら、数学Ⅰの教科書の、最後に近い方のページを開く。
(三角関数ってなんだよ。sinもcosも知らねえよ…もう嫌だぁ~!)
これから待ち受ける、大量の文字地獄に、悶絶しそうな思いだった。
♢♢♢
時雨の件も含め、いろんな所に気を張っていたせいで、今日はいつもより圧倒的に疲れたような気がする。
ただ、今日の作戦はまだ終わっていない。そもそも学校内で大げさな行動起こすわけも無いのだ。
そう、ここからが本番。これからやっと消えた理央の尻尾を掴むことができる(かもしれない)のだ。
魔法を使って、今日一日時雨を尾行し続ける。一歩間違えれば犯罪だが、見つからなければ大丈夫だ。
「よし、こっからだ。『アビリティ・ステルスサイン』!」
正治は、今日に備えて覚えてきた特殊魔法を使う。長い夕方が始まった。