第10話 完璧な尾行作戦
さて、目の前の読者諸君には、と言っても、あんまりいないかもしれないが、なぜ俺がこのような割と犯罪ギリギリラインの行動に及ぼうとしたか、説明しなければならない。
このまま俺を、イカれた犯罪者予備軍みたいに思ってほしくないからな。
それは昨日の夜のことだ。俺は理央のことが心配で全くと言っていいほど眠れなかった。
失踪なら、警察に相談してもいいが、はっきり言うと、この国の警察は無能もいいところだ。
なぜなら、今どきこの手の事件ならば、大体魔法関係で、警察に捜査を依頼したところで、証拠も残らない完全犯罪も容易であり、仮に足取りも掴めても、大抵チート級の魔法の前に現代兵器が敵うわけもなく…そういう意味なら、無能というより、周りの条件が悪すぎただけかもしれない。
つまるところ、俺は自力で理央を助けられる方法を探していたのだ。
(うーん、俺だって理央を見つけて安心したいけど、部屋にいないんじゃ、どこにいるのか検討もつかねぇ、今理央の所在を知っていそうなのが、時雨一人、同時に容疑者ともなり得るあいつに情報を聞く大きな賭けはやりたくない…警察は役に立たないし、八方塞がりじゃないか)
俺は、枕に顔を埋めて思案する。俺ははっきり言って、時雨のことを全く信用していない。時雨が怪しくなくたって、俺は自分の友人を時雨に任せたくない。なんとしても自力で理央の所在を突き止めなければならない。赤の他人なら、俺だってこんなに必死になることはない、それは単純に理央が友達ということだけじゃない。
十年前の惨事を、もう見たくはないという俺のエゴだ。
親しい人がどこか知らないところで死んでいるのかもしれないし、別にそうじゃないかもしれない。真実がどうであれ、自分の目で確かめない限り、2つの可能性が俺の頭で常に重なり続けている。
だから俺は探さないといけない。指を咥えて待っているだけなんて、俺自身が許さない。
もしかしたら、なんて、半端な希望は信じるだけ無駄だ。その方が絶望しないで済むのだから。
………………!
「そうだ!時雨にバレたらまずいなら、バレないように尾行すればいいじゃないか!それならどこかで情報を得られるはずだ!」
もう日付も変わって来た頃、枕に顔を埋めていた俺は、布団の中から思いっきり飛び出す。
当たり前だが、探偵じゃない一般人が尾行をしようとしたところで、時雨にはすぐにバレるだろう、だが、俺には秘策がある。
それが、魔法を用いることだ。
やることが決まった俺は、とっとと布団を頭まで被って、そのまま真っすぐ眠りに落ちた。
♢♢♢
この世界に存在する魔法は大きく分けて2つ存在する。
一つ目の特殊魔法は、誰にでも使えるように調整された魔法で、長かれ短かれ、だいたいのものは詠唱を必要とする。
ゲームや漫画でおなじみの魔法といえばこれに近い。
二つ目の固有魔法は、ありとあらゆる生物が、保有はしている、特殊魔法よりも強力な、個体によって性質の違う魔法のことだ。
これは魔法というより、超能力とも言えるかもしれない。
そして、今回使うのは、2種類の特殊魔法だ。
『知覚妨害』と『気配隠蔽』。
『知覚妨害』は、いわゆる影が薄いといった状態を、増幅させるようなもので、人がたくさん集まる場所での、標的による一個人の特定を困難にさせるものだ。
ただ、この魔法が機能するのは、あくまで人(似たようなものでも可)が密集する場所だけで。その他の場所に行けば、速攻でバレてしまうし、誰か知人にでも話しかけられて、あっさり見つかるなんてこともある。
そこで『気配隠蔽』だ。
こちらは、標的だけでなく、直接の接触さえしなければ、発動中ほとんど誰にも気づかれない状態になる。
これなら、追跡中に誰かに名前を呼ばれて、計画全部お釈迦なんてことにはならない。
「それじゃあ行くか!第一ラウンドは学校だ!」