第9話 違和感
翌日、昨日と同じように、朝の支度をして家を出た。
理央のことだから、今日も俺の部屋に凸ってくるものだと思って身構えていたが、今日は流石に迷惑だと思って来なかったのだろうか。
学校に着いても、本来なら理央が座っているはずの席に、彼女の姿はなかった。
風邪なのだろうか、無断欠席なら、あのスパルタ教師ヤマザキのことだから、明日はとんでもない罰が飛んでくるだろう。流石に心配になってきたので、理央のことを時雨に聞いてみることにした。
「なあ、時雨……理央のこと知ってるか?」
「……」
「…時雨?」
スマホの画面をじっと見つめる時雨は、こちらが話しかけても反応しない。
不思議に思って、もう一度話しかけると、時雨は、スマホの画面を閉じて、こちらに振り返った。
「…どうしたの?」
「あ、ああ、お前なら理央のことを知ってたりするのかなって」
「――――――……私は知らない。風邪とかひいたんだと思う」
「そっか、後でちょこっと連絡でも取るか」
♢♢♢
俺は、理央の部屋のインターホンを鳴らす。ピンポーンと小気味よい音が鳴ったが、中から人が出てくる気配はない。
さっき、電話をかけたが、それにも出ない。
「…おかしい」
俺はそう呟く。
うすうす違和感は感じていたのだ。時雨は確かに、何かスマホの画面を熱心に見ていた。
そこを覗いたわけでは断じてないが、関わりが全くないわけでもない、難聴でもない、そんなどこにでもいそうな少女が、近距離で話す知り合いの声に気づかないほど熱中することとは、一体何なのだろうか?
あんな少女でも、もしかしたら、熱中しているものがあるのかもしれないが、あれを見ていときの時雨の目は、ワクワクでも、ハラハラでもない。
(静かな怒り…表情はやっぱり変えていなかったけど、何かを敵視するような、光のない目、それに、俺が理央のことを聞こうとしたとき、何かを考えるような不自然な間があった、全部推察でしかないが、あいつはおそらく理央のことを知っている。だけど何らかの理由で俺に勘付かれないようにするために、嘘をついた。そういうことか?)
そうだとすると、少しまずいことになる。
現状、理央が失踪した原因となる犯人は検討もついていない。だが、この考察が正しければ、容疑者として時雨が浮上する。
このことを時雨に聞こうとするのは、彼女が犯人でないことを信じるしかない大博打だ。自分の人生がかかっているかもしれない賭けなんて、俺は絶対やりたくない。
理央の部屋の前にいても、何も反応がないことは知っているので、俺は自分の部屋に急いで帰る。
理央が、今どこで何しているのか、俺はそれが気になりすぎて、夜はなかなか眠れなかった。
そして翌朝、夜中に夜更かししまくった脳みそフル回転させて思いついた、トンデモ作戦を決行に移す。
「(時雨を)尾行作戦、決行だ!」