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9話 高花さんの腕前

 俺は先に行ってしまっているので、少しだけ高花さんのゲームの出来具合を見ることにした。


 そして、見ていて抱いた感想が「そりゃ勝てないだろうな」だった。


「何でそのモンスターで戦ってるんだ?」


「え、だって一番かわいいから」


 高花さんはモンサーの中でも最弱の「カラフルベイビー」という最序盤で手に入るモンスターを使ってボスに挑んでいたのだ。


 一応説明しておくと、このモンサーというゲームは回復アイテムなどの必需品は町で買えるのだが、モンスターの進化道具も防具も武器も全てドロップ品頼りになる。


 そして、高花さんの持っている「カラフルベイビー」の進化道具は現段階ではドロップしないため、全く進化せずにボスに挑んでいるのだ。


 しかも最弱だというのに使う技のタイプが場に出る時の色によって変わるという中々に癖の強いモンスターだ。普通ならだれも使わない。


 キーホルダーのモンスターからまさかなとは思ったが本当にこいつしか使わないのか。


「他のモンスターを使ったら?」


「え~、だってこの子が良いんだもん……あっま~たやられた。才司、これどうすればいいの?」


 敵の攻撃によって100%体力が残っていた筈のカラフルベイビーは吹き飛ばされる。


「そういう風に相手が集中を高めていたら防御するんだ。そしたらダメージは半減する」


 そしてもう一つ気になっていた事。それはゲーム中の高花さんは何故か俺のことを「才司」と呼んでくる。しかも、少し言葉がくだけている。


 普段親からしか呼ばれていないため最初の内はドキリとしたもののあまりにナチュラルにそう呼ばれるので今では少し慣れてきていた。


「そのモンスターだったらレベリングした方が良いんじゃないか? やられてばかりじゃ経験値はたまらないぞ?」


「レベリングはなんか嫌なんだよなー。負けた気がするし」


「でも多分高花さんのモンスター、おすすめレベルにすら達してないと思うんだが」


 最初のボスを倒すおすすめレベルは10。高花さんのカラフルベイビーのレベルは7であった。たかが3レベル、されど3レベル。序盤であればその差はでかい。


 しかもカラフルベイビーはモンスター等級というF~Sランクの中で最弱のFランクである。確実にレベリングはした方が良い、というかしないと勝てない。


 まあ、弱いモンスターで縛って勝ちたいというゲーマーならではの感覚は分からないでもない。


「あ~、また負けちゃった」


 これで4度目の挑戦だろうか。高花さんはまたもやあっけなく散っていく。しかし、その進捗は先程よりも好調で敵の体力を半分まで減らせていた。


「ねえ、才司。どうやって勝てるか教えてくれない?」


「良いぞ。ある程度こいつの技の効果が分かってきたからな」


 そうして敵のボスの行動パターンに応じて使うべき技がどれなのかを教えていく。


 そして、さらに防御のタイミングまでも教え込む。


「なるほど、ありがとう。次は行ける気がしてきた」


 そうしてボスに再戦を挑む。最初の滑り出しは好調。しかし、体力が3分の1になるとボスの挙動は先程までとは違った苛烈なものになる。


「くそ~、また負けたな。でも才司のお陰で何とか最高記録までこぎつけたね」


「ああ、いいんじゃないか。あと少しすればクリアできると思う」


 最初の島のボスには勝てそうだなと思い、俺は自分のゲームを起動する。


 今からやるのは主に探索だ。隅々まで探索してモンスターを倒し、この島で手に入れられる道具を全て手に入れるつもりだ。


 攻略サイトは最初の内は見ない派なのでどれくらい集めればすべてなのかは俺の感覚によるものだが。


「……やった! やっと勝てたー!」


 暫く探索していると、高花さんの喜ぶ声が聞こえる。ここまでで実に1時間くらいは経っているだろう。


 長きにわたって同じ敵と戦い続けるその集中力は俺ですらまねできない。


「おお、良かったな」


「これも才司のお陰だよ。ありがと」


 そこで高花さんは何かに気付いたかのようにハッとした顔をして口に手を当てる。


「あれ? もしかして私、今天野君の事、才司って呼んでた?」


「今どころかゲーム始めてからずっとだぞ」


 今更なにを言ってるんだろう?


 俺の言葉を聞いた高花さんは顔をボッと火が出たように赤くする。


「ご、ごめん! 私、ゲーム中は素が出ちゃうみたいで! ていうか天野君も気付いてたなら言ってよ!」


 素で俺のことを才司と呼んでいるのも中々だがな、と思ったが敢えて言わないことにする。


「今は他に誰もいないし大して嫌でも無かったからな」


 流石に学校でそう呼ばれると周囲の生徒からの突き刺さるような視線が痛いのでやめてほしいが。


「えっ、そう? じゃあ、同好会の時は才司って呼ぼうかな。才司も同好会の時は琴音って呼んでよ」


「嫌だ」


「何でよ」


「恥ずかしいから」


 それに隠れて下の名前で呼び合うというのはなにかいけないことでもしているかのような気分になる。


「ならせめて『さん』は取ってよ。学校でも」


「ああ、それくらいなら良い……学校でもだと?」


「はい、もう言質とったから変更なしね」


 だ、だまされた。まさか末尾に学校でもという言葉がついてくるとは思わなかった。


「だがいきなり俺が高花って呼びだしたらおかしいだろ」


「大丈夫だよ。あっでも私は天野君って呼ぶよ」


 それじゃ完全に俺が勘違いしてる奴じゃねえか。


「せこい」


「了承したのはそっちだもん。今度『さん』を付けたらジュースおごりね」


 な、なんたる強引さ。


「わ、分かったよ、高花」


 そうして俺達は再度ゲームにのめり込むのであった。一抹の不安を抱えて……


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