8話 同好会
指定された集合場所に着いた俺は辺りを見回してまだ高花さんが来ていないことを確認する。
「高花さんは……まだ、か」
特に座るところもないため、俺は端の方で突っ立って高花さんが来るのを待つ。
「お待たせ~」
暫くすると、俺の背後から高花さんが歩いてきた。どうやら制服から着替えたらしい。可愛らしい私服姿である。
「あれ? 着替えなかったんだ」
「別にゲームするだけだろうしな」
「そんなんじゃ、モテないわよ?」
「大きなお世話だ」
女性にモテる……それは俺がこの世で最も関わりのない言葉である。
「じゃあ、行こうか」
「行くってどこに行くんだ?」
「ん? 決まってるじゃない。私の家だよ」
「はい?」
いきなり女子の家に行くと告げられ、少し動揺する。まあ、考えてみれば確かにゲームするなら普通は家の中だよな。近くの公園でのんびりやるもんだと思っていた俺が悪い。
「こっちよ」
高花さんはそう言ってスタスタと歩いていく。俺はその後ろをついていく。
「家に行くってわかってたらなんか持ってきてたのに」
「あーそういうの気にしなくて大丈夫だよ。私一人暮らしだから」
いや、初耳なんですけど。才華高校は国内でも有数の進学校なため、下宿してる生徒もいるとは聞いたことあるけど。ちなみに俺が才華高校を受けた理由は家から一番近い高校だったからだ。
広場を抜け、大きな道路を横断する。
「え、ここに住んでるのか?」
俺が前を通るたびにいつも見上げていたタワーマンション。その中に入っていく。
「そうだよ。うち、金持ちだから」
そう言いながらマンションのロックを開け、豪華な装飾が施されたエントランスへと入ると少し細い通路の先にあるエレベーターに10という数字を押す。
「10階なんだ」
タワマンのことはあんまり知らないが、2桁くらいいってたら相当高いんじゃないか?値段的に。しかも学校の下宿のためだけにかよ。聞いたことはないが、高花さんの家はかなりの金持ちだな。
「私は2階とかそこら辺の方が良いんだけどね。親が勝手に契約しちゃったから」
チーンという音がした後にエレベーターが開く。
そして、凄い速さで上昇する。
10階に着くまでにかかった時間はわずか1分ほどじゃないだろうか。
「へえ、凄いな」
ゆったりとした感覚で部屋が並んでいる。これは相当部屋が広いんだろうな。
「こっちだよ」
そう言ってエレベーターに背を向けて左側へと歩いていき、角部屋に来たところで足を止める。
「鍵開けるからちょっと待っててね」
ガチャッという音がして扉が開く。
「さ、入って入って」
「お、お邪魔します」
女子の家にあがるのなんて小学生以来の俺は少し緊張しながら玄関に入る。
玄関もやはり広い。
靴なんて2足しかないのにたたきの部分だけで人が一人住めそうなほどのスペースがある。
長い廊下を歩き、その先にある大きな扉を開いて学校の教室くらい広いリビングに入る。
「そこのソファとかに座って待ってて。部屋からゲーム機取ってくるから」
「分かった」
未だに緊張感が凄い。他人の家に上がるのなんて何年ぶりだろう。
「お待たせ。じゃあ、やろっか。同好会」
「同好会って、ただゲームして遊ぶだけだろ?」
「別にいいじゃん。同好会で」
「良いけど」
何故かそこにこだわりを持っているらしく、呼び方なんてどうでもいいと思っている俺はそのまま押し切られる。
「それでどうする? 最初にゲーム同好会の活動時間を決める?」
「活動時間って、別に遊べる日に遊ぶとかで良いんじゃないか?」
「だから遊びじゃなくて同好会なんだってば。じゃあもう私が決めちゃうよ。土日以外で」
「は? 土日以外だと? そんなにやったところでモンサーをクリアした後はどうするんだ? 一応クリア後のオンライン対戦はあるみたいだけど」
「天野君はクリアできるかもしれないけど私がクリアできないから問題ないよ。だって私、前作をクリアするのに毎日やって1年くらいかかったもん」
「遅っ!」
確かに他のゲームよりもやることが盛りだくさんではあるが、丁寧にやって2か月くらいだぞ。勿論、モンスターを全部そろえるまでで。
「うん、どうしてか中々ボスに勝てないんだよね。だから天野君に教えてほしいなーって」
「ネット見ろよ」
「ネットを見ても分かんないから天野君に教えてほしいんでしょ」
そんなさも当たり前みたいに言われてもネットよりわかりやすく教えられる自信なんてないんだが。
「それで活動時間は週5でいいよね?」
「分かった。それでいい」
花音の宿題を手伝う以外は基本暇だし。自分の宿題なんてすぐ終わるし。
「同好会の目標は二人ともモンサー2をクリアすること。その後はどうする?」
「高花さんはモンサー2をクリアするのに1年かかったんだろ? てことは高3になるわけだしぼちぼち受験勉強で忙しくなってゲームなんかできなくなるんじゃないか?」
「それもそうだね……じゃあその時考えるという事で早速ゲームしよっ!」
いそいそとゲーム機の電源を入れる高花さんに倣って俺も電源を入れる。
「友達と一緒にゲームするなんて初めてだよ」
「俺もだ」
ほとんどボッチのまま生活してきた俺にとってゲームが友達みたいなところがあったくらいだ。
二人だけのヒミツの同好会が始まる。




