6話 話
「さあ、席替えをするぞ! 出席番号順にくじを取りに来い!」
黒板には1から40までの数字が書かれている。その数字はランダムに配置されており、俺が欲しい窓際の角の席は23という数字が書かれている。
俺は出席番号が若いためドキドキする暇もなく引く順番になる。
恐る恐るその白い紙を開くと……23番。
その数字を見た瞬間に心の中でガッツポーズを決める。
普段運がない俺にも運が回ってきた。
実はこの席決めというのは俺にとって死活問題にも近いものがあり、最前列なんて引こうものなら絶望だ。神様っているんだな。
「またその席か。運のいい奴だ」
不服そうにしつつも柊先生は黒板に書かれている23という数字に丸を付ける。先程から埋まった席にはこのようにして丸を付けているのだ。
「ちえっ、狙ってたのに取られちまったか」
「てかまたあいつ、あの席じゃね? ずりーよな」
最早俺の名前など覚えられていないのかあいつ呼ばわりだが気にすることはない。俺だってあいつの名前を知らない。
「絶対に引いてみせる! この指で!」
クラスのお調子者であり、よく高花さんたちのグループに居る高沢和樹が大声で叫ぶ。よくあんな恥ずかしいことができるなと遠巻きに見ていたが、残念ながら敗北したらしい。膝から崩れ落ちているのが見える。
「奏多の隣の席になれなかったぜ……なんてこった」
「はははっ、また次回頑張れ」
意気消沈する高沢の背中を柊先生が豪快に叩き、慰める。あれは慰めるというか楽しんでいるという表現が正しいか。
そういえばさっき引いたのが高沢だからもうそろそろ高花さんか。昨日の事もあって少し気になる。あれから大した会話を交わすことなく過ごしてきたから実は気にしていたのだ。
高花さんは少しドキドキした様子で紙を引き、そして白い紙を開いた後、一瞬ちらりと目が合った気がした。
……気のせいか。
こういうので目が合った気がしたというのが通じるのは天城のようなイケメンだけである。俺のようなクラスで目立たない奴がそんなことを言えば勘違い野郎として血祭りにあげられてしまう。それは非常に良くない。
「なになに、琴音。どこの席引いたのよ」
「さ、最後尾だから結構いい所引けたよ」
お友達の桜川さんに問いかけられて少し焦ったような雰囲気を見せるもすぐに平常運転に戻る。
それから少しして出席番号が最後の生徒がくじを引き、全員の席が決まる。
「じゃあ皆! その番号の席に移動してくれ」
柊先生の言葉により一斉に俺を除くクラス全員が移動を始める。
自分の席以外特に興味が無い俺は早く終わらないかなと祈るばかりである。
「よ、よろしくね。天野君」
どうやら俺の隣の席は高花さんらしい。昨日の事があってか少し上擦った声でそう呼ばれる。
「あ、ああ、よろしく。隣の席だったんだな」
「うん、そうなんだ」
そこで会話は途絶えた。
周りを見渡すとどうやら高花さんと仲の良い天城や高沢、桜川さんとは席が離れてしまったらしいな。そんなことをぼんやりと考えていると、柊先生の言葉で帰りの会が終わる。
♢
「天野君、今日の放課後空いてる? ちょっと話したいことがあるんだけど」
帰りの会が終わり、鞄を肩にかけて席を立つと唐突に高花さんからそう言われる。
「ん? ああ、空いてるぞ」
話って何だろう? 昨日の事か? まさか愛の告白なわけないし。
「私、先生にちょっと呼び出されちゃってるから学校近くの公園で待っててくれない? すぐ済むと思うから」
「分かった」
と平静を装いながら言いつつも内心はドキドキしている。主に見つかったら他の男子生徒にしめられるんじゃないかという恐怖に対して。
ちなみに恋という意味でドキドキすることはない。彼女が俺に対して恋心を抱いているなどというものは幻想にすぎないと理解しているからである。
「こっとね~! 今日、私部活休みだから一緒に帰ろっ!」
「ごめん、凛。私ちょっと用事があるの」
「用事?」
断られるとは思っていなかったのか桜川さんはキョトンとした顔を浮かべたのちにニヤリと笑う。
「あの琴音もとうとうそういうお年頃になりましたか~」
「そういうお年頃って何よ。ホントにただの用事だから」
「ホントかな~?」
俺はその状況に耐えられなくなって鞄を持ってクラスを出る。
「いや~、マジで居心地悪かった」
教室を抜け出し、下駄箱で靴に履き替えながらそう呟く。
別に高花さんが会う相手が俺だとしても桜川さんが彼氏認定することはないだろう。だが、お前のせいで一緒に帰れなかったと言われて詰められれば面倒な事間違いなし。
校門を抜け、下校時とは違って横に曲がる。
まっすぐ進んでいくとそこには大きな公園があり、端の方に二人掛けのベンチがある。そのベンチに腰を掛けて空を見上げる。
そう言えば今日は寝不足なんだった。ちょっと寝ようかな。
すうっと目を閉じるとすぐに眠りの世界へと誘われ、俺の意識はいつの間にか深い所に沈んでいた。
♢
「冷たッ!」
眠っている俺の頬に突如としてキンキンに冷えてやがる感触を覚え、体を起こす。
「よっ」
現れたのは軽い感じの高花さんであった。手にはジュースが2本握られている。
「これあげる」
「ああ、ありがとう」
高花さんから差し出されたジュースを素直に受け取る。
「こんなところで寝てたら風邪引くよ?」
「それを言うならさっきので風邪ひきそうだ」
「それもそうだね」
学校の時とは違う、少し軽い感じの高花さんに戸惑いながら俺は答える。
「それで話って?」
「……昨日の事なんだけど」
俺が問いかけると高花さんは少し恥ずかしそうに毛先に指を絡ませながら答える。
「あー、あれってやっぱり高花さんだったんだな」
高花さんだと確信していたものの敢えて似てると思った奴を装ってそう答える。すると、高花さんは手を前で合わせて頭を下げる。
「皆には黙っててほしいの!」




