3話 帰り道
どうしてこんな事になってしまったんだろう。クラス内でも孤立している陰キャの俺の横に並んで歩いているのは才華高校一のアイドル、高花琴音。最早、最上級の陽キャである。
帰り道が一緒だというだけの理由で一緒に下校している。
正直、気まずいです。何も接点が無いし。
ふと、高花さんのカバンについているキャラクターもののキーホルダーが目に入る。
「あれ? それって」
俺がそう言うと、どれの事を言おうとしているのか分かったのだろう。高花さんはサッとそのキーホルダーを隠す。
「何でもないただのご当地キーホルダーみたいなもんだから!」
「す、すまん」
そんなに取り乱すとは思っていなかった。しかし、俺の記憶が正しければあれは「モンサー」に出てきたキャラだったと思うんだが、高花さんが言うのなら違うのだろう。俺はそのキーホルダーを気にしないことに決めた。
俺のそれって発言から余計に二人の間に気まずい空気が流れる。高花さんはあれからずっとキーホルダーを握りしめてるし。
「じゃ、じゃあ私はこっちだから。また明日」
「あ、ああ」
そう言うと高花さんは逃げるようにして走り去ってしまう。
週番一日目の接触としては失敗と言っても過言ではないだろう。明日からこの気まずい空気のまま過ごすのか。
少しばかり憂鬱だが、明日のモンサー発売という楽しみでその不安を払拭することにする。
「ただいま」
「あっ、お帰り。お兄ちゃん」
家に帰ると妹である花音が出迎えてくれる。俺の家は両親が共働きのため、基本的にはこの時間には俺と花音の二人しかいない。
「遅かったね」
「そう言うお前は早かったな。今日は遊びに行かないのか?」
花音は友達の家で遊んでから帰ることが多いため、俺より早く帰ってくるのは珍しい。
「今日はちょっと課題が多いからね~。遊んでる暇がないんだよ~」
「そりゃ、大変ですな。じゃあ、ちょっとお兄ちゃんは部屋で寝てくるから」
嫌な予感がした俺は早々に自分の部屋へと向かおうとするが、その腕をガシッと掴まれる。
「手伝って?」
上目遣いで花音が言ってくる。嫌な予感というものは往々にして当たるものだ。
俺は自分の第六感の正確さに感心すると同時にもう少し早めに報せてくれよとも思う。
「ダメだ。来年受験だろ? ちゃんと勉強しろ」
花音は今年で中学3年生。来年に高校受験を控えている。
「だって学校の課題なんてお兄ちゃんと同じ高校に行くためにはあんまり役に立たないんだもん。だからさ、早く終わらしておきたいんだ。どうせお兄ちゃん、ゲームするだけでしょ?」
痛い所を突かれてしまった。仕方ないな。
「……はあ、分かったが、解く奴は自分でしろよ? 作業系のやつはやってやる」
「わあ、ありがとう! 正直作業だけのやつの方が面倒だったんだよね」
これも明日のモンサー2を買うための試練だと思えば良い。
そうして花音の部屋に入り、俺がやる分と花音がやる分とに分ける。
「そういえば俺が中学生の時もこんなのやらされたな」
俺は花音と同じ中学だったため、課題を見て少し懐かしい気分になる。
「お兄ちゃんって凄いよね。過去問を解いてて思うけどあんまり勉強しないでよく才華高校に受かったよね」
「勉強していないわけじゃなかったぞ。普通に課題と数学の月刊誌はやってたしな」
「数学の月刊誌は普通じゃないんだよ。あれってほとんど大学受験向けでしょ? やるとしたら参考書とかじゃん」
「参考書には俺の解ける問題しか載ってないからつまらない」
「ほら、普通じゃない」
のほほんと会話しながら俺は横に書いてある英文を黙々と写し取るという課題をする。これが実に7ページもあるらしい。
筆跡がバレないように筆記体で書く。
「まあ、運が良かったんだよ。正直、数学以外はそんなに得意じゃないし」
数学以外に関して言えば、中学の時の俺の成績と比べて花音の方が上だしこいつなら受かるだろう。
「ねえ、これが終わったら勉強教えてよ」
「……数学だけなら」
「むう、ケチだね」
「仕方ないだろ。数学以外は全く以て自信がない」
「堂々と言う事じゃないよ。お兄ちゃんも再来年受験なんだから他人事じゃないんだよ?」
「まあ、その時考えるさ」
妹とはこんなに喋れるのになんで高花さんとはあんなに話が出来ないんだろうな。密かにそう思いながら俺は黙々と英文を写し取るのであった。




