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28話 柊先生の勧め

 昨日はゲームやり過ぎたな。


 ボーっとした頭のままで机に突っ伏しながら学生たちの往来を眺める。高花はまだ来ていないため、話しかけられることはない俺はゆっくりと惰眠をむさぼっていた。


 そういえばこんな時は大体、イヤホンで焚火の音なんかを聞きながら眠るんだけど、またしても肝心のイヤホンが無い。高花に没収されてからというもの、わざわざ買い替えるのは面倒という理由で結局買っていなかった。


 高花も忘れているだろうし、俺も高花に話しかける時に忘れているため、最早あのイヤホンが返ってくることはないのだろう、そう思っているとストンと頭の上に何かが置かれるような感触がする。


「おはよ。ごめん、これ返し忘れちゃってた」


 重たい瞼を擦りながら見上げるとそこには申し訳なさそうな高花の姿があった。ポトンと頭の上から落ちてきたものに目を凝らすとそれはいつぞやに高花から没収された俺のイヤホンであった。


「あー、大丈夫だ。どうせ最近あまり使ってなかったからな」


 そう言いつつイヤホンをポケットの中へ仕舞う。


「眠そうだね」


「まあな」


 そんな他愛もない話が交差する。この暇な朝の時間も高花と話すようになってから段々と少なくなってきた。だからイヤホンも要らなかったのかもな。


 そんな事を考えながら高花と話していると、何やら周りが騒がしいことに気がつく。


「あんな可愛い子、うちのクラスに居たっけ?」


「いやでも見たことあるよーな」


 内容を聞いて俺に関係ない話だな。


「ね、ねえ天野君。あの子ってそうだよね?」


 高花が驚きの混じった声とともに指を差した方向を見ると、そこには意外な人物がキョロキョロと辺りを見回している姿があった。その人物は俺達に気が付くとこちらに歩み寄ってくる。


「ねえ、オレの席ってどこ?」


 制服姿の龍崎がそう話しかけてくるのであった。



 ♢



「まさか龍崎が学校に来るとはな」


 柊先生が書類を眺めながらそう呟く。俺も龍崎がまさか学校に来るとは思わなかったから滅茶苦茶驚いた。高花に至っては龍崎の事を可愛い男子だと認識していたらしく別の意味でも驚いていたけど。まああの時の龍崎の格好はどちらかと言えば女の子っぽくはなかったからな。


「それで俺はどうして呼び出されたのでしょうか?」


「お前はもう少し先生との会話を楽しもうと思わんのかね。こんなに美人な先生が話しかけてやっているんだぞ?」


 美人という所は別に否定しないがそれを自分で言うのもどうかとは思う、とは絶対に言わない。


「まあ良いさ。それでな、天野。お前はいつも桜井先生の授業を寝ているよな?」


「そうですね」


「正直、結果さえ出してくれていたら何の文句も無い。実際、今回のテストでも満点だったらしいじゃないか」


「一応」


「それに最後の東大の過去問も解いてしまったのだろう?」


「そうらしいですね」


 暇だったからコラムになっていた問題を解いて出したのだ。暇だからテスト用紙に落書きするのと似た感じだな。


「だったら一度、これに挑戦してみないか?」


 そう言って先生が出したのは一枚の紙きれであった。


「数学オリンピック……ですか」


「そうだ。数学オリンピックだ。どうだ? 受ける気は無いか?」


 興味津々といった感じで柊先生はこちらを覗き込んでくる。正直、興味が無いと言えば嘘になる。しかし、単純にこれを受けるための労力が面倒で断念した過去がある。


「次受けるとしたら来年の1月とかですか?」


「そうなるな」


「もうほとんど高三じゃないですか。受験勉強もありますし」


「別に良いだろう? 腕試しみたいな感じで受ければいいじゃないか」


 腕試しねぇ。興味はあるんだよな~。


「考えておきます」


「また出る時は教えてくれ。先生が車で会場まで送ってやるからな」


 そんな柊先生の言葉をハハッと乾いた笑みで返して職員室を出る。数学オリンピックか~。進学校の中で数学が得意な奴でも予選落ちが当たり前ってところがそそられるんだよな。


「帰りに数オリの本でも買って帰るか」


 そんなことを考えながら帰路に就くのであった。

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