26話 思わぬ事態
この状況をどう説明しようか。今、俺の前には紅茶とクッキーが二人分置かれた小さなテーブルをはさんで黒髪ボブの少女が座っている。当然ながら二人とも無言である。
先程、帰ってきた龍崎に一瞬無言になった後に、久しぶり元気してた?、という言葉を軽はずみに口にした結果、龍崎の母親によってこんな場がセッティングされてしまった。流石に断るというのは申し訳なさが勝つため、押しに負けてここまで来たわけだが。
喋ることがない。もうこれは完全にない。教室で喋っていた時も、一番最初に近くの席で自己紹介するみたいな事をさせられて話しただけだし。それは喋っていた内に入らないって? 俺にしては喋った方なんだよ。高花と喋れてる今の方が珍しいんだよ。
じゃなくて何かこの気まずい状況を打破する良い案は無いだろうか。
「あのさ」
「ヒャイ!」
俺が思考をフル稼働していると、いきなり龍崎から声を掛けられて変な声が出る。
「あっ、いやその……ゴメン」
何その反応。何か言いたかったけど結局何も思いつかなかった奴だよね、それ。まあ、終始無言でいる俺よかマシだけどさ。
そんなことを思いながら俺も何かないかとバレないように目だけで部屋を見る。やたらと電飾が付いた机、背もたれが大きな椅子、そして机の下にあるのは小さな棚くらいはあるだろうパソコン、机の上には大きなモニターがある。
あのパソコンはいわゆるゲーミングPCっていう奴か? 大分本格的なゲーム部屋だな。てことは俺と同じゲーム好きだと言う事。ただ、俺や高花のような家庭用ゲーム機ユーザーではなく、ネットゲーマーってとこだな。自分では揃えられないその光景をゲーム好きの俺は羨ましくさえ思う。
「ゲーム、好きなんだな」
「……一応」
何とか会話をつなげようとするが、すぐに途切れてしまう。う~ん、やっぱりさっさとお暇した方が良いのか?
「じゃあ俺はそろそろ……」
そう言って腰を浮かした時、一瞬だけ目の前の少女の表情が変わるのが見える。なんだこの表情の変化は。俺が早く帰ってくれて嬉しいと思っているのかそれとも早く帰り過ぎて悲しいと思っているのか。何とも難しい二択を迫られた俺はなるべく傷つかない方法を取る。
「や、やっぱりもう少しいるよ」
俺がそう言った瞬間、どこかホッとしたような顔をする。どうやら選択は正しかったみたいだ。にしてもこれからどう話題を展開するのか。俺に出来る話と言えばモンサーだけだが。まあ、良いか。それで。
「なあ、モンサーって知ってるか?」
「モンサー……ああ、モンスターズサーチの事?」
「そうそれそれ。やったことある?」
「いや、無い。PCゲーしかやったことないから」
だよね~。知ってた。俺がそうやって諦めようとした時、ふと龍崎の口が開かれる。
「でもやってみたいかもと思って今日買ってきたの。モンサー2」
そう言って持っていたトートバッグの中からモンサー2のパッケージを取り出す。
「食わず嫌いだったから。やるゲームも無かったし」
予想外の出来事に一瞬、言葉を失う。マジかよ。何てタイミングで答案返しに来たんだ、俺は。
「良いじゃん! やろうぜ、モンサー!」
俺が突然大声を出したからか龍崎がビクッと体をのけ反らせ、目を見開く。やっべ、ミスった。
「あ、すまない」
反省した俺はそのままシュンとなり、自分の膝を眺める。せっかく共通の話題が出来たと思ったのに。そう悔やんでいると不意に目の前からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「何それ」
そう言って笑う龍崎の顔に少しドキッとする。いつもは無表情だったから何とも思わなかったが、こうして笑う顔を見ると可愛いんだなと思う。ってなんだよ。別にやましい気持ちはないからな。
「……ごめん、ちょっと意外でさ」
「にしても笑い過ぎだ」
腹を抱えるほどの事かね? まあ、あれで一つ心の壁を取り去ったって考えればいいか。
「てか、モンサー始めるんだ」
「うん。だから色々教えてくれると嬉しいな」
「別に良いぞ。何なら連絡先交換しておくか?」
「良いの?」
「良いのって俺から言ってるわけだしな。ほら」
そう言って携帯電話を取り出し、連絡アプリのアドレスを交換する。
「あっ、そうだ。少し待っててくれ」
「?」
モンサーを始める、と聞いてあることを思いついた俺はその連絡アプリを開くと、とある人物にトークを送る。少ししてその人からの返信を確認すると、龍崎の方を振り向いて告げる。
「今から友達と一緒にモンサーするんだ。龍崎も一緒に来ないか?」
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