25話 不登校の生徒
「そういえば天野。この後時間あるか? あったら職員室まで来てほしいんだが。頼みたいことがあるんだ」
答案返却期間が終わった次の日の終礼で柊先生にそんなことを言われる。これからゲーム同好会に行くにしろまだ時間はあるな。それに数学の授業で寝ているのを注意されたことを考えると柊先生からの頼み事はどうしても断りにくい。
「分かりました」
俺が素直に従うと、柊先生は満足そうに頷き、連絡事項を終えた。
♢
「それで俺に頼みたいものって何でしょうか?」
職員室の柊先生の机の前で尋ねる。引き受けたは良いものの今までこういった頼まれごとは週番の時くらいしかなかったから少し疑問に思っていた。
「うちのクラスの龍崎って知ってるだろ?」
「ああ。あの不登校の子ですか?」
1学期の本当に最初の2週間ほどしか来ていないのに不登校になった子だ。たまに喋ってはいたがそこまで仲が良いという訳でもなかったため、どうしてるのかなとぼんやり考える程度であった。
「その子がどうかしたんですか?」
「いやな、実は別室で中間試験を受けてたわけなんだが、その答案をな今日私に行くつもりだったんだ。ただ、私は少し忙しくて行けなくてな。代わりに天野が届けて欲しいんだ。ほら、クラスであの子と話していたのって天野しかいなかっただろ?」
そういえば席が近いからという理由と同じような空気を漂わせていたことから少し話していたが、俺以外にその子が話しているのを見たことがなかった。いつも窓の外を眺めてボーっとしていた気がする。
「分かりました。でも俺、龍崎さんの住所知りませんよ」
「住所については心配するな。教えるから。それにしても助かったよ。このままでは1週間後まで答案を渡せなかったからな。じゃあ準備をするから少し待っててくれ」
そう言うと柊先生は机の引き出しの中から分厚い封筒を取り出す。
「これが龍崎の答案だ。間違っても途中で開けるんじゃないぞ?」
「分かってますよ」
そんなフリみたいなことを言われても開ける勇気なんて無いよ。
「まあ別に郵送でも良かったんだがこれで龍崎に友達が出来れば……」
「ん? なんか言いました?」
「いやなんでもない。じゃあ頼んだからな」
隠そうとしているのが何か怪しい。他に目的とかあんじゃねえのか? とはいえ問いただすほどの事でもない。どうせここからそんなに遠くないだろ。
「それで、龍崎の住所なんだが……」
♢
「まさか本当にここだったとはな」
柊先生に聞いたときは半信半疑で来てはみたものの、やはりそうだったかと理解する。目の前に聳え立つ建物は見覚えのあるものであった。
「それにしても高花と同じマンションで良かった」
柊先生から住所を聞いた俺はゲーム同好会のために真っ先に家へと帰り、制服を着替え、ゲーム機を取ってきたのだ。これでゲーム同好会に遅れることなく行ける。
「えーと、番号は」
メモしてきたマンションの部屋番号を入力する。
「はい。どなたでしょうか?」
出たのは恐らく龍崎の母親であろう女性の声であった。
「同じクラスの天野って言います。担任の柊先生から答案を返すように言われましたのでお届けに来ました」
「ああ、同じクラスの。ちょっと待っててね。今開けるから」
そう言うとプツンと切れ、扉が開く。てっきりポストに入れるだけだと思ってたがそうでもないらしい。開けてくれたのにポストに入れるだけでスルーは流石に失礼なため俺はマンションの中に入り、エレベータで龍崎が住む階へ向かう。
そうしてメモに書かれた部屋番号の家の前まで行き、呼び鈴を鳴らす。
「こんにちは」
「いらっしゃい。わざわざ娘のためにありがとうね」
「いえいえ」
そう言いながら鞄の中から封筒を取り出す。
「これです」
「ありがとう。ごめんなさいね~、ちょっと今ハル出かけてて居ないの」
「大丈夫です。お気になさらず」
居たとしても逆に何を話せばいいか分からんから寧ろありがたいなんてことは到底言えない。ニッコリと微笑み、あくまで好青年を演出する。ふふっ、我ながら名演技だろう。昔なんてコンビニの店員に話しかけるのすら無理だったってのに。今は無理じゃなくて嫌にランクアップしたのだ。
「では僕はこちらで……」
そう言って立ち去ろうとすると、門扉を開く音が聞こえる。
「ただいま……?」
そうして現れた黒髪ボブの少女は俺の姿を見てピタリと固まる。
「ひ、久しぶり?」
俺もそれを見てどうしてよいか分からず苦し紛れの一言をボソリと呟くのであった。
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