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23話 答案返却

「ではこれから数学の試験を返し……たいところだが、今回は平均点が50点とかなり悪かったため、まずは解説から始める」


 桜井先生がそう言った瞬間、教室中がざわつく。それもそうだろう。今までのテストでは平均点が50点という低さになったことはない。高一の時は最低でも70点はあった筈だ。


「むずかったよね」


「今回の数学はノーカンノーカン」


「私なんて半分しかわかんなかったからね。半分、白紙だし」


 至る所でぼそぼそと自身の点数を予想し憂う声が聞こえてくる。今回の数学は平均点を見れば明らかなように大半の人が自信が無いように見える。ただ一人を除いて。


「絶対一位絶対一位絶対一位」


 隣から怨念のような呟きが聞こえる。ちらりと横に目をやると机の上で合掌して祈っている高花の姿が見える。


「まずこの大問1だが、(3)までは皆出来ていたが、(4)、(5)に関しては完璧に解けている者は10人しかいなかった。今からポイントを解説していくからよーく復習しておくように」


「うん大丈夫。ここは才司に教えてもらったところだからできてる。えっでもそれなら才司もできてるってことだよね。ま、まあ流石にこれくらいは」


 うん、お察しの通り俺も完璧にできてるな。というか大問1から完答させないように引っかけ問題を用意するとか性格悪すぎだろとは思わないでもないけど。


「大問2は皆よくできていたな。ここはよくある数学的帰納法で証明していく問題だから解説は配った解答の通りだ。ここを間違える者はいなかったから飛ばすぞ。次からが問題だ」


 確かにここら辺から難易度が少し上がってたような気がするな。まあ、解けなくはないけど満点を取るには十分性の証明とかをしないといけないからおっちょこちょいには厳しいかなといった難易度である。だから問題だと言えど正答率は80%くらいはあるんだろうな、とぼんやりと考えてみる。


「正答率は40%だ。最後の十分性の証明が出来ていなくてもおまけで丸にしたが本来なら正答できていたのは二人だけだったんだぞ。お前達、授業でも散々説明していただろ」


 40%、まさかの驚異的な数字である。俺が考えていた通りの問題であればそこまで低いのはおかしい。もしかして俺としたことが間違えてしまったか?


 そう焦るも、桜井先生の解説を聞いて合ってることを確信する。ふー、怖い怖い。こんなところでミスってたら数学の授業中寝ていることを滅茶苦茶叱られるだろうし。


 そうして延々と大問3の解説がされていく。余程、解いて欲しかった問題らしく、解説にはいつもよりも熱がこもっている。


「そして大問4と5だが、正直これは出来なくても良い。だからこれまでの大問で80点、この2問で20点という配点にした。今回のテストは80点は取れて欲しい物だった。今から答案用紙を返却するが、そこを踏まえたうえで自学習に励むように。先生に聞きに来てくれても良いからな?」


 すっかりと静まり返った教室に桜井先生の苦言が響き渡る。間違いなく高一までの難易度ではない。その厳しさをまざまざと味わうことになったのだ。


「今回、80点を超えたのは5人だけだ。その人たちは素晴らしいから引き続き頑張ってくれ。では出席番号順に取りに来てくれって、そうか。席順が出席番号順じゃないのか。じゃあ廊下側から取りに来てくれ」


 いや出席番号順じゃないんかい。出席番号順なら俺は2番目だからと思って控えていたのに。


 それから桜井先生から様々な言葉と共に答案用紙が渡されていく。厳しい言葉をかけられる者、普通に無言で渡される者、それはさまざまである。


 おっ、天城の番だな。


「天城か。今回も良くやった。このテストで90点越えとは驚いたぞ」


「ありがとうございます」


 天城はそう言い、答案用紙に目を落とすと、自信満々な笑みでこちらに目をやってくる。天城の点数が90点を超えているという事を聞き、周囲から賛辞が飛ぶ。周りの友達に凄いや高すぎという声を掛けられながら自分の席へと戻っていく。


「高沢もまずまずだな。この調子で頑張れ」


「ありがとうございます! よっしゃあ! 意外とよかったぜ!」


 天城の友達である高沢も良い点が取れたみたいでガッツポーズをして喜んでいる。


「桜川も良かったぞ! 頑張ったな」


「ありがとうございます。今回は私頑張っちゃったからね」


 そうして桜川の答案用紙も返される。それからしばらくして、とうとう高花の列の人が呼ばれる。


「行ってくるね。負けないんだから」


 一人また一人と答案用紙を受け取り、遂に高花の番となる。その時の桜井先生の顔と言ったらもう満面の笑みであった。


「高花。かなりの成長だな! まさかこのテストで満点を取るとは」


 桜井先生の言葉と同時にこれまで以上のどよめきが走る。満点とか凄すぎ、この難問だらけのテストで満点ってどういう頭してんだよ、と賛辞が止まない中、本人は余裕綽綽の笑みでこちらへと戻ってくる。


「どうよ」


「凄いな」


 そして最後の列、つまり俺の列の生徒たちが取りにいきはじめる。そろそろ俺の番だな。


 じゃあ行くか。3人くらい前の生徒が渡されたのを確認すると、俺はスウッと立ち上がり、答案用紙を取りに行く。


 俺を目の前にした桜井先生の表情はまさに複雑そのものである。


「天野か。正直驚いたよ。まさかいつも寝てるお前がこれだけ取れるとはな」


「……ありがとうございます」


 受け取った答案用紙の右上に書かれている数字を見て首を傾げる。何だこの点数。どういうことだ。


「それだけじゃない。最後に解かせるつもりのなかった問題を解いてた奴なんてお前しかいなかったよ。この先生殺しが」


 答案に書かれていた数字は105点。どういう訳か100点満点のテストで100点越えの点数をつけられていたのであった。

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