22話 誤解
「おはよう、天野君。今日の一限、数学のテスト返ってくるね!」
朝、俺が自分の席に座っていると登校してきた高花が満面の笑みでそう話しかけてくる。なんでこんなにテンションが高いんだ?
「覚えてる? 点数勝負の事」
「ああ、そういえばそんなのあったな」
高花に言われてようやく思い出す。確かテスト最終日に同好会でそんなことを言われた記憶がある。最近、モンサーでようやく第三の島に行けるかどうかってことに集中しすぎていてすっかり頭の中から抜け落ちていたようだ。
「それで勝った方が何だっけ? 飯奢るんだったか?」
「違うよ。負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くんだよ」
何でもなんて言ってたか? 駄目だ。はっきりと覚えてないから何の文句も言えない。
「あっ、でもずっとは可哀想だから一回だけにしてあげるね」
「やけに自信あり気だな」
「当然! この勝負は貰ったも同然!」
ドンと胸を叩いて勝利宣言をする高花。まるで既に点数を見たかのようなその自信っぷりに最早嫌味を感じることはない。
「な~に? 二人で勝負しちゃってる感じ?」
「凛ちゃん!」
二人で話しているところに高花の友達である陽キャ女子、桜川凛が会話に混ざってくる。何回か話したことがあるだけあって、クラスで二番目には喋れるくらいの仲にはなっている。まあ、クラスで二番目に喋れると言っても二人きりで話すとかは不可能なんだけど。
「実は二人で数学の試験の点数勝負してるんだよ」
「へえ~、そんなことしてたんだ~。仲良いね~。何か勝った方にご褒美とかあんの?」
「負けた方が勝った方の言う事を聞くんだよ」
「キャー、いやらしい! いやらしいですわー。この男、琴音に何をしようって言うのー」
俺のことを何だと思ってやがる。流石にそっち系の要求はしないだろ。言い方がやけにわざとらしい所も相まってより鬱陶しいんですけど。
「な、何だと!?」
桜川のわざとらしい言葉に大袈裟に反応した人物が一名。天城奏多君である。おいおい、何てタイミングで登校しやがる。唯一、聞き逃してほしい所だけを抽出しやがって。
「おいお前! その話は本当か!?」
案の定、話を聞きつけた天城君がこちらへと歩いてくる。
「いやいや、奏多驚きすぎでしょ」
迫りくる天城の形相に若干引きながら桜川が言う。でも事の発端はあなたがわざとらしく大きな声で言ったからなんですけどね。
「そりゃそうだろ。琴音が嫌がってるってのにそんなことを押し付けるなんて最低だ!」
なんという曲解の仕方か。まるで俺がそういうことをしたいがために無理やり点数対決を持ちかけたみたいに変換されている天城の脳内に怒りよりも心配が勝つ。この人って一応頭良いんだよね?
「なに言ってるの? 奏多。対決しようって言い出したのは私の方だよ」
「え? なんだそうだったのか。いや何でも言う事を聞かせられるってのは問題だ! おい、天野。お前、高花に勝ったら何を要求するつもりだ?」
「ん?」
天城に言われて一瞬考える。俺が高花に何でも言う事を聞かせられるとしたら、か。う~ん、普通に考えてあれしかないんだよな~。でもこんなところであのことを言うのは不味いし。
「なになに? もしかしてここじゃ言えないことなの!?」
「いや、別にそういう訳じゃないんだが、あんまり人が多い所で言うのは憚られるというか」
しかし間違いなくこの場では言ってはいけないことではあるためどういえば良いのかよくわからない。そのままなにか無難な案でもないかと真剣に考え込んでいると、桜川の顔が満面の笑みになる一方でみるみるうちに天城の顔が険しくなっていく。
「くそっ! こうしちゃいられない! 天野! 俺とも勝負だ! もし俺が勝ったらたとえお前が高花に勝っていたとしても勝負は無効だ! どうだ!」
いや、何でそうなる。てか俺が勝っても意味ねえじゃねえか。
「まあ別に良いけどさ」
「言ったな! 約束だぞ!」
「てか天城。そろそろ席に戻らないと。先生にめっちゃガン見されてるよ」
「おっと、それは不味い。天野、約束だからな!」
そう言って天城と桜川が自分の席に戻っていく。はあ、朝から騒がしい奴等だな。
「……才司のエッチ」
二人が居なくなって一息を吐いているところに先程から無言になっていた高花からボソッと呟かれる。
「いやだからそういう意味じゃないって……」
「おい天野。静かにしろ。もう点呼始めてんぞ」
間違いを正そうと声を出したら数学担当の桜井先生から注意を受け、口を噤む。違うんだ。俺のせいじゃないんだ! あらゆる誤解が解けぬままただ時間だけが過ぎていくのであった。
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