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20話 勉強会

「来週から中間試験が始まる。皆、この一週間は部活動も休みのようだし勉強に励むように。さようなら」


 柊先生の言葉で教室中がガヤガヤとし始める。ある者は試験勉強のため颯爽と帰る支度をするもの。またある者は試験勉強期間だというのに遊びの計画を練り始める者。


 俺? 俺は別に遊ぶ相手なんて居ないしな。強いて言えば高花くらいだが、試験期間はゲーム同好会はお休みだとラインが来たため、その選択肢は消滅したわけだが。


「ねえ、天野君。今から暇?」


 俺がささっと帰る支度を済ませると隣の席に座る高花が声をかけてくる。


「暇だな」


「だよね」


 おい、何だその返しは。まるで俺なんかに用事などあるわけがないだろうと言わんばかりのその返事は一体何だというのか。確かにありませんよ。ええ、そうですとも。宿題が出されたわけでもありませんし、試験勉強をするにしても今から始めるつもりもありませんし。


「良かったらさ――」



 ♢



「ねえ、琴音。一回遊んでからにしない?」


「ダメだよ凛ちゃん。まだ第一回の復習すら終わってないじゃん」


「でへ~、助けて~」


 目の前にはキャピキャピした陽キャ女子が二名。そしてその前に鎮座するのは全く以て光の要素を持たないであろう俺。説明しやがれ。こいつは一体どういう状況だ。


「あのさ。それでここが分からなかったんだけどさ」


 そう言って高花が見せてくるのは勉強用ノート。そこにはびっしりと数字が書かれている。今回俺が呼ばれたのは数学を教えて欲しいからだそうだ。高校一年生の頃、俺がいつも数学で満点を取っていたのを知っていたらしい。


「あー、それはこの公式を使えば案外楽に変形できる」


「うわ、ホントだ。気付かなかったよ。ありがとう、天野君」


 ちなみに余談だが、桜川は完全にただの被害者である。高花に付いてきたらこうなっただけで元々勉強などするつもりはなかったのだとか。


「それにしても琴音と天野っちって仲良いんだね~」


 天野“っち”? おいおい、俺はいつからそんなゆるキャラみたいな名前になったんだ。


「どうしてそう思ったの?」


「だって琴音って家に男子を入れたがらないじゃん? 奏多と和樹ですら断ってたくらいだし」


「確かに言われてみればそうだね。一人暮らしになってからは奏多も家にあげた記憶ないかも」


 へえ、意外だな。天城と高沢ですらあがったことがないのか。二人の会話を若干盗み聞きしながら筆を進める。俺がやっているのは数学の問題集だ。それも高校の教科書ではまだ習っていない範囲まで手を伸ばしている。


 もう高校二年生だからな。流石に学校のペースで受験勉強をやっているとしんどいものがある。


「天野君は安心できるからなのかな」


「安心できるぅ? えぇっ? それって告白ってこと!?」


「違う違う。そういう意味じゃない!」


 おい、目の前に俺がいる状況でそのやり取りをするな。恥ずかしいのも俺だし傷つくのも俺なんだぞ。


「ほら! そんあことより凛ちゃんも天野君を見習って勉強勉強」


「私別に勉強しなくても良い点とれるのに~」


 ぶつくさと文句を言いながら勉強をさせられる桜川。桜川が勉強を始めたのを見て高花も勉強を再開する。それから高花がちょくちょく俺に質問をし、それに俺が答えるというやり取りを交えて刻一刻と時間が過ぎていく。


 いつの間にか高花の見ている本が授業のノートではなく、違う問題集に変わっていることに気が付く。あれ見たことあるな。俺が二年前に解き終わった数学の問題集だ。それも数Ⅲの。


「高花って理系だっけ?」


 数学という文字に好奇心が抑えられなかった俺はつい高花にそう問いかけてしまう。


「うん、理系だよ」


 問題を考えているようで高花はノートと向き合いながら俺の質問に答えてくれる。


 ただの試験勉強であればあの問題集を解く必要は無い。最低限、授業で渡されたプリントをやれば点数はとれるし、点数を取るだけならそっちの方がむしろ効率が良い。


 それなのにこの問題集をやるという事は恐らく受験勉強のためだろう。さっきも熱心に数学の事を聞いてたし、もしかしたら行きたい大学が決まってるのかもしれない。


「琴音はね。医者目指してっからさ」


「そうだったのか」


 いつの間にか高花の横から俺の隣へと移動してきた桜川によって頭の中に浮上した疑問が解消される。


「凛ちゃん。天野君の邪魔しないよ!」


「はーい」


 こうして帰る時間になるまで三人の勉強会は続くのであった。

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