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19話 お揃い

「ただいま」


 結局あの後、天城を含む三人で帰ることになったわけだが、本当に精神的に辛かった。三人で高花の家まで行き、そこからは別々に帰った。本当にどうしてこんなところまで来たのか不思議なくらい、それまでの道を引き返していった天城の後姿が印象的だ。


「それにしても幼馴染の割に住んでるところは遠いんだな」


「なに言ってんの? お兄ちゃん」


 靴を脱いでいる俺の頭上から汚物でも見たかのようなトーンで声がかかる。


「花音か。ただいま」


「おかえり。ずいぶん楽しかったみたいだね」


「まあな。独り言が出るくらいには」


「お兄ちゃんは別にいつも独り言してるけどね」


「なんだと」


 それは流石に言ってほしかった。普段から独り言してる奴だったのかよ俺。学校で喋る相手が居なさ過ぎて身に付いてしまったのかもしれない。


「そんなことよりもうすぐ晩御飯だよ。荷物置いてきて降りて来てね」


「はいよ」


 今日の晩飯担当は確かお父さんだったな。そんな些細なことを考えながら二階へと上がる。


「はあ、明後日からの学校が憂鬱になってきたな」


 今日あった出来事で絶対、天城に絡まれることを考えれば学校へ行きたくなくなってくる。まあ、行くんだけどさ。


 高花とゲーム友達だってことを隠しながら違和感なく俺が高花とショッピングモールに居たのかということを説明しなければならない。いや、いっそのこと無視しよう。よし、それが良い。


 そう思いついたとき、ふと俺の傍でコンコンという音が聞こえる。


「ねえお兄ちゃん? すぐ出来るから降りてきなって言ったよね?」


「わ、悪い花音。ちょっと考え事してたんだ。すぐ降りるから」


 不機嫌そうに空いているドアをノックして報せてくる。そんな妹に俺は焦りながら食卓へと向かうのであった。



 ♢



「おっはよー!」


 クラス一番のお調子者の声が聞こえてくる。高花たちと同じグループに居る高沢和樹だ。高沢はいつも天城と一緒に登校してくる。ということは既に奴は近くにいるという事だ。


 いや待てよ。どうして俺があんな奴なんかに気を揉まないといけないんだ? 第一、あいつが理不尽な因縁をつけてきただけじゃないか。そう考えるとビクビクしているのもアホらしくなってきた。


 そう考えた俺は音楽を聞こうと思い、いつも入っているポケットの中を探る。あっ、そういえばイヤホン取られたままだった。


 流石にボッチが一人でスピーカーをオンにして音楽を聴く勇気はなく、机の上で突っ伏して仮眠をとることに決める。


「おい」


 何だろう。近くで聞いたことのある声が聞こえる。だがこの声は高花じゃない。なら声をかけられている相手は俺じゃないな。朦朧とした意識の中では俺の頭からはすっかりと天城の記憶が消し去られていた。


「おいって」


 誰かが俺の体を揺らす。それにイラっとした俺は顔をゆっくりと上げ、声の主の方を見る。天城であった。一瞬怖気づいたものの毅然とした態度を保たなければやられると察知した俺は気にしていない風に返事をする。


「何か用か?」


「いや、その……」


 用があって話しかけてきたんじゃないのかよ。なぜか言いづらそうにしている天城に新鮮味を覚えると同時に違和感を抱く。


 昨日、あれだけの剣幕で迫ってきたというのに今日はやけに弱々しい。そして次に飛び出してきた言葉は更に俺を驚かせるものであった。


「昨日は、すまなかったな」


 すまなかったな。そんな言葉が出てくるとは思わなかった俺は一瞬、思考が停止する。俺が無言でいることに焦りを感じたのか、天城は次から次へと言葉を紡いでいく。


「その、なんというか急に見ちゃったからさ。ついカッとなって少し言い過ぎてしまった」


 そう言って天城が頭を下げる。


「そ、そうか」


 いきなりしおらしくされてもこっちが困る。こういう時、何て返せばいいんだ? それに天城とかいうクラスでかなり目立つ生徒が全然目立たない生徒に向かって頭を下げるという非常にレアなイベントのせいでクラス中の視線が俺に集まってるんだが。


「もうわかったから頭を上げてくれ。目立って仕方がない」


 俺がそう言うと、天城は素直に従って頭を上げてくれる。


「ありがとう。だが勘違いするな。琴音にちょっかいをだすことを許したわけじゃないからな?」


 そう言うと天城が俺の下から去っていく。何あの人、もう意味わかんないんだけど。


 先程の出来事のせいで周囲からは高花さんの事守ろうとする天城カッケー、なにあの人高花さんのストーカー? などと風評被害も甚だしい会話が聞こえてくる。


「おっはよー!」


 そのタイミングで高花が元気よく教室へと入ってくる。挨拶をしたのは勿論、天城と高沢に対してである。そのまま歩いていき、俺の隣の席へと腰掛ける。


「おはよう、天野君」


「おはよう」


 何気ない挨拶。しかし、今回は少し違うようですっとこちらに高花の手が差し出されてくる。掌の上に載っているのはイベントで貰ったあの限定品のカラフルベイビーだ。しかしどうやら様子がおかしい。


「あれ? ハートは?」


「それを今日謝ろうと思ってさ。実はあの後、取っちゃったんだよね。ハート。ごめん!」


 そう言って掌を合わせて謝ってくる。今日はやたら人に謝られるな。とはいえ、何故あれほど悲しんでいたのにハートを自ら取るのかは気になるな。


「いや別にそれは構わないけどなんで取ったんだ? 気に入ってたんだろ?」


「だってもう一つと合わせてもハート完成しないじゃん。ならせめてお揃いの方が良いなって」


「へえ、そういうモンなのか」


 まあ二つともあげるって言っても頑なに一人ずつ持ってたいんだって断っていたし、そういうこだわりでもあるのかもしれない。


「それにさっ!――やっぱり何でもない」


 そこまで言って高花は何かを言うのをやめる。


「そうか」


「な~に? 聞いてこないの?」


「聞いても答えないだろ?」


「そうだけどさ」


「なら良いじゃないか」


「そうだけど、違うじゃん。えーと、天野君の馬鹿」


 そう言って席を立ってどこかへと言ってしまう。馬鹿と言われ、さらには俺の前からの逃亡。天城とのやり取りを踏まえたうえで、周りの反応たるやそれはそれは恐ろしいものであったとさ。

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