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17話 トラブル

「うわ、サイン会かなり並んでるね」


 高花の言う通りサイン会ではこれ以上ない程の行列が出来ていた。何だこの数。こんな長い列が四回ぐらい折れ曲がってるじゃないか。


「整理券とかないんだね~」


「並ぶしかないな」


 ぶつくさと文句を垂れながらもサイン会には参加したいということで列の最後尾に並ぶ。それから10分は経っただろうか。二人で購入したグッズを見せ合い、モンサーについて語り合っていた時、横からスッと黒い影が視界を横切る。


「キャッ」


 並んでいる高花の肩に黒い服を着た男がぶつかってきたのである。突然ぶつかられた高花がその場でよろけたためサッと手を伸ばして体を支える。


「大丈夫か?」


「痛ててて。ありがと」


 そう言って体勢を戻した時、高花が突然アッと声を出す。


「私の鞄が無い」


「何だって!?」


 そう言われて瞬時に男が去っていた方を見る。居ない。どこに行きやがった!


「どうしよう。一杯グッズ買ってたのに」


 今にも泣きそうな表情の高花を見て居ても立っても居られなくなった俺は列を抜け出す。


「色紙は俺の奴あげるからサインだけ貰ってきな。俺はひったくりを追いかけてくる」


 俺がサインをもらう用として持っていた色紙を高花に渡し、急いで男の向かった方へと走っていく。


「見つけた!」


 早歩きで歩いていた男の後姿を見つけて追いかける。それに男も気付いたのか最早なりふり構わずに走り出す。たくっ、人混みが激しいってのに走り出す奴があるかよ。


「すみません! その男ひったくりです!」


 声を張り上げながら男を追いかけると、周りの人も俺のために道を開けてくれる。もう少ししたら外に出てしまう。人気の少ない所に逃げられまいと一生懸命に追いかける。だが、日々ゲームに勤しんでいる俺の体力など成人男性の全力疾走に追いつけるはずがない。


 それでも必死に追いかけ続けたその時、前方から怒鳴り声が聞こえてくる。


「くそっ! 放せ!」


 そこには警備員数名によって取り押さえられていた男の姿があった。誰かが知らせてくれたのだろうか。一先ず安心した。


「すみません!」


 切らした息を宥めると、俺は取り押さえている警備員の一人に声をかける。


「捕まえていただいてありがとうございます。その鞄、僕の友達の物なんです」

 

「ん? 君の友達の物? 何か証明できるものはあるかい?」


 証明できる物。それを聞いてピタリと止まる。それもそうか。俺が追いかけていたことを知らない警備員からすればこの鞄が俺の友達の物であるという保証はない。しまった。何か高花からもらってこれば……ってそもそも盗まれてるから関係ないじゃないか。


「その人がさっきこのひったくりを追いかけていた人なんですよ」

 

俺がどうしようとあたふたしていると近くの人がそう口添えしてくれる。しかし、それでも本人確認が出来ないとだめだと言われて困ってしまう。こんなのだったら自分で捕まえられたらよかったのにと不運を嘆くが、そもそも捕まえられたかというと時の運というまたもや運任せになってしまう。


 渋々、高花を呼ぶためにサイン会場へ戻ろうと振り返ると、人混みの中になぜか高花の姿があった。


「高花!? どうしてここに!?」



 ♢



「あははっ、そんなとこだろうと思ったよ」


「面目ねえ」


 あれだけ威勢よく駆け出していったというのに結局はただただ泥棒を追いかけただけの人になってしまった。その羞恥心と言い、無力感と言い泣きそうになるぜ。


あの後、高花の顔と学生証の写真が一致したため、鞄は引き渡された。つまり俺は最初から要らない存在だったんだ。


「でも才司が居てくれて助かったよ。私ひとりだったら怖くて追いかけられなかったもん。ありがと」


「いやホントに俺は何もできない雑魚です」


 結局は二人ともサインを貰えずじまいになってしまった。俺がもらえないのに自分だけ貰うのは違うと思ってこっちを追いかけてきたらしい。それが功を奏して早期解決に至ったわけだが。


「でも才司が追いかけてくれたおかげでお客さんが警備員さんに通報を入れてくれたんだよ?」


「まあそうだけどさ」


 慰められたらそれ目的でいじけているようでどうしようもなく惨めになってしまう。かといって開き直るほどの精神力は俺にはない。それに追いかけたことを後悔しているわけでもない。無性に恥ずかしいのだ。


「それ……」


 恥ずかしがっている横でふと、高花の鞄に付けてあったあのカップル限定のカラフルベイビーが持つハートが欠けていることに気が付く。先程のもみ合いで壊れてしまったのだろう。

 

「いやホント勘弁してほしいよね。多分限定品だから壊れたって言っても在庫が無くて換えてもらえないし」


 気に入ってたのに、そうポツリと呟き、高花は少し泣きそうな顔になる。そうだ。本当に辛いのは俺ではなく当事者である高花なのだ。それをくよくよして慰められていたなんて情けない。


 俺は持っていた限定のカラフルベイビーを高花に差し出す。


「交換しよう」


「えっ、良いの?」


「良いよ。だって高花の方が俺よりもカラフルベイビーの事好きだろ?」


 そう言って俺はハート付きのカラフルベイビーを差し出す。ハートって言っても片割れだけどな。


「……ありがと」


「良いさ」


 そうして半ば強引にハート付きのカラフルベイビーと何も持たないカラフルベイビーを交換する。それから念のためサイン会場の方へと向かってみるが、既に締め切られてしまっていた。それに関しては本人確認のいざこざやらなんやらで覚悟していたため割り切ることができた。


「サイン会は残念だけど仕方ない。もう帰ろうか。送ってくよ」


「うん」


そうして立ち去ろうとした時、ふと俺の視界を見知った顔が横切る。

 

「あれ? 琴音。それに天野?」


 俺の名前を呼ぶときだけ嫌そうに言うんじゃない、天城君や。


 こうして俺は今一番見られたくないやつと遭遇するというひったくりに続く第二の不幸へと誘われるのであった。

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