15話 料理
「外で食べるつもりなんだったらせっかくだし私が何か作ろうか? 料理の腕は自信があるのよね」
そう言って高花はキッチンの方へと向かう。作ろうかと聞いてきた割には作る気満々のようだ。
「普段はデリバリー頼んでるとか言ってなかったか?」
「そりゃあ一人だしね。自炊するにしても作り過ぎちゃうのよ」
「それもそうか」
そうして料理器具を取り出す高花を見て、黙って待っているのも悪いと思った俺もキッチンの方へと向かう。
「高花。俺も何か手伝うよ」
「ホント? じゃあ玉葱の皮を剥いてもらえる? 私、お肉切っておくから」
「オーケー。一つ包丁貸してくれ」
「分かったー。怪我しないでね」
「大丈夫だって」
料理の腕に自信はないが、流石に二箇所切り落とすだけの単純作業が出来ないわけではない。てっぺんを切り落とし、玉ねぎの皮を剥いていく。
「ていうか何を作るつもりなんだ?」
玉葱を二つ剥き終わったタイミングで冷蔵庫から何かを取り出そうとしている高花に声をかける。
「うん? 簡単に生姜焼きでも作ろうかなって。ほら。これ入れたら一瞬でできるしさ」
良くスーパーで見るような生姜焼きのたれを見せられる。普段デリバリーの癖になんで置いてあるんだよとは思うが、こうして友達が家に来たら料理を振舞えるように置いてあるのだろう。
「ふーん、じゃあ適当に玉葱切っとくぞ」
「ええ~? 大丈夫? 怪我しない?」
「俺を何だと思ってるんだよ」
ぶつくさ言いながら玉葱を半分に割ってそのまま刻んでいく。大きめで良いか。生姜焼きだし。
「あれ? 意外と手際良いんだね」
「まあな。たまに料理くらいはするし」
と言っても雑に余った食材を適当に切ってフライパンに突っ込んで焼くだけだけどな。調味料も目分量だし、あまりにも適当だから人に振舞えるほどには至っていない。
「ゲームばっかりしてるからてっきりうちのお兄ちゃんみたいに料理できないと思ってたよ」
「おいおい、偏見だしそれを言うなら高花も俺とゲームしてる時間変わらないだろ」
「えへへ、そういやそうだね」
というか高花にお兄ちゃんが居たのか。意外だな。てっきり一人っ子だと思っていた。それにお兄ちゃんと呼んだその声はどこか楽しげでもあった。
「よし、出来た!」
そうこうしている間に生姜焼きが出来上がる。結局、具材を切るのが俺でそれを炒めるのが高花という構図で料理を進めていった。
「うん! 味見はしてないけど多分美味しいよね」
「まあ、あの具材を入れて不味くなったら天才的だな」
そんな時ふと自分がこんなにも自然に他人と会話が出来ていることに驚く。少なくとも今までの俺は話しかけられてこうも冗談を交えながら自然な会話が出来ていたことはない。それこそ、妹や両親と話すときくらいなものだ。
人は成長するもんだな。
「才司どうしたの? そんな気持ち悪い顔して」
「少し物思いに耽っていただけだ。って誰が気持ち悪い顔だ」
「さ~て、冷めないうちに食べよっか」
濁された。小学校の時に言われたような悪意は感じなかったし寧ろ心地良さまで感じたから別に良いけどさ。いや、俺は決してそういう癖があるわけじゃないからな!
「いただきまーす!」
「いただきます」
やけにテンションの高い高花を横目に炊いてあったご飯と具材が少し不格好な生姜焼きを交互に見る。何だろう、人様の家で食べるご飯ってなんだか妙にソワソワする。まずは箸を生姜焼きの方に伸ばし、次にご飯に伸ばす。
「うん! 美味しい!」
「美味しい」
たれだけの素朴な味わい。だがそれが良い。繊細な味なんてまだ若い俺の舌では感じ取ることはできない。
「そういえばさ、夕方言ってたモンサーのイベント。カップル限定で貰えるキーホルダーあるらしいよ」
「カップル限定か……」
限定とつけば何かと欲しくなるお年頃だ。ただ、問題はカップルという点にある。そこがどうしても越えられない。
「欲しいけど無理だよなぁ」
「え? なんで? いけるでしょ」
「いやいや、高花はあと数日で彼氏作るぐらい造作ないだろうけど俺は無理だよ。早くても十年はかかる」
「なに言ってんのよ。私だって数日で彼氏作るなんて無理だし死んでも嫌だよ。そうじゃなくて私達がカップルの振りをすれば良いじゃない」
「え?」
カップルの振り? 俺と高花が?
「いや絶対バレるだろ」
「何でよ」
「考えてもみろ。俺みたいな素朴な顔をした奴が高花みたいな美人と付き合えるわけがない」
「び、美人ッ!?」
その瞬間、高花の顔が火がついたか時のようにボッと赤く染まる。あれ? 美人って言われ慣れてるだろうと思って言ったのに。何か、そんな照れられるとこっちもイケナイことを口にしたかのような気持ちになる。
「と、とにかく! カップルの振りをしたら貰えるんだから! 良い?」
「は、はい」
それからその日は二人とも異様に気まずい空気が流れながら完食し、俺はそのまま帰途に就くのであった。
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