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11話 電話

『ねえ、今良いかな?』


 送られてきたのはそのたったの1行だけであった。俺に聞きたいことと言えばモンサーの事か同好会の事だろう。そう思って返信する。


『良いけどなんだ?』


 う~ん、思ったよりもぶっきらぼうになってないか? もうちょっと絵文字とかを使って柔らかくした方が良いのかもしれない。


『ちょっと同好会のことについて話し忘れてたことがあって』


 その一文の少し後にもう一度送られてくる。


『私ってゲームが好きなことをあんまりバレたくないんだよ。それでね、同好会の事も皆には黙っててほしいんだ』


『まあ、別に話す相手もいないし大丈夫だ』


 我ながら言ってて悲しくなってくるぜ。


『ありがとう。後、ゲーム機を取りに帰ってから来るときはそのまま私の家に来てくれたらいいから。部屋の番号は覚えてる?』


『ああ、覚えてる』


『じゃあ、また明日』


『ああ』


 そこで会話は終わる。


 全然気が利かない自分のコミュニケーション能力を呪い、俺はスマホをベッドに向かって放り投げる。


「ここでモンサーのあそことか凄い謎解きだったなとかあのモンスターカッコいいよなとか話せたらいいんだがな」


 せっかく共通の話題があるというのに俺はそんなことすら話題作りできないのか。自分の能力の無さにため息を吐く。


 ……いや、一回俺から送ってみるか。


 高校に入って初めての友達だ。恐らくクラス内で話すことはほとんどないだろうけどそれでも他の時間では仲良くなりたいという気持ちがある。


 ベッドに放り投げたスマホをもう一度拾い上げ、アプリを起動する。その瞬間、またもやピロンという音が聞こえ、高花から送られてくる。


『……さっきの同好会について話し忘れてたっていうのは嘘。ホントはちょっと話したくなっただけ』


 な、なんだこのデレは!?


 遭遇したことのない状況に俺はまたもや思考が停止する。さっき俺が送ろうと思っていた『カラフルベイビーって可愛いよな』とかいう陳腐すぎる言葉が恥ずかしくなってきた。


 何が可愛いだ。こっちの方が可愛いじゃねえか!


 コホン、少し取り乱しました。


「さて、なんて送ろうか」


 普通に考えれば俺も話したいと思ってたとかだよな? だがそれでは会話は終了することだろう。最早オウム返しに近い。


 よし、これでいいか。


『電話でもするか?』


 我ながら名案だ。文字ならば続かない会話も通話ならば普通に続けることができる。それは夕方で証明されている。


『えっ、電話?』


 うん? 電話って意外と躊躇するものなのか? どっちかっていうとそっちの方が良いと思ったんだがな。


『うん、電話。良いね。じゃあかけるよ』


 ピロロンと受信音が鳴り、俺は通話ボタンを押す。


『急に電話するかって聞いてきたからびっくりしちゃったよ』


「何だよ、そっちが話したいって言いだしたんだろ?」


『そういうつもりで言ったわけじゃなかったけど、結果オーライね』


「ん?」


『あっ、こっちの話だよ。そういえばさ、もう一つ才司に言いたいことがあったんだった』


「何だ?」


『才司って週番の時、1回も号令しないよね? たまにはしてよ』


「そ、それは高花が好きだと思ったから」


 言いながら言葉尻がすぼんでいく。苦手なことを彼女に任せっきりであることを自覚しているのだ。


「すまん。だが、朝の会と帰りの会に言うのは無理だ。恐らく悲惨なことになる」


 朝の会と帰りの会は授業の前よりも雑談している生徒が比較的多い。そんな中で無理して大声を出したら変な声になってしまいそうだ。歌うときは普通に出るのにどうしてあの時は出ないんだろう。


『仕方ないなー。じゃあ才司は1限目から3限目の号令をお願いね』


「分かった」


『あと今日ゲーム教えてくれてありがとう』


「う、うん? 急だな」


 サブリミナル的に早口で紡がれたその言葉はかろうじて俺の耳に引っかかる。


『べ、別にいいでしょ。今思いついたの』


「そ、そっか」


 少し沈黙が生じる。しかし気まずさはない。それすらも楽しさを見いだせる奇妙な静寂だ。


『才司ってどうしてそんなにゲームが上手なの?』


「俺のゲームの腕は中の上くらいだ。別に言うほど上手いわけじゃない」


 モンサーのオンライン対戦だって勝率は半々くらいだ。勝率が7割とかある本物の強者には敵わない。


『でも私よりは上手じゃん』


 それは高花が異常に下手過ぎるからだとは言わない。下手ではあるのだが、どうしようもないほどという訳ではない。単純にゲーム理解が無さすぎるのだ。


 例えるなら説明書も読まず、チュートリアルを連打して通り過ぎた人みたいな理解度だ。ちょっとやり込めばすぐに上達するはず。


「単純にゲームをしてる時間が長いからだな。高花も同じくらいゲームしたら俺くらいのレベルにはなれるだろ」


『私、幼稚園くらいからずっとゲームしてるよ?』


 前言撤回。これはどうしようもない程なのかもしれない。何なら俺よりゲーム歴長いじゃないか。


『やっぱり私が下手過ぎるのかな?』


 落ち込んでいる様子がその言葉から伝わってくる。何とかしてフォローせねば。


「高花は王道の強いキャラクターを使わないだろ? そもそもその時点で縛りになってるんだ。普通の人より進度が遅くても仕方がない」


 嘘ではない。今日見た感じだと、最弱キャラクターであるカラフルベイビーを使っていた。恐らく他のゲームでもそんなことをしていたのではないだろうか。


『う~ん、そのせいなのかな。私が好きだなって思うキャラクターっていつも弱いんだよね』


「最弱のキャラクターでストーリーを進めるのもゲームの醍醐味だ。別に良いんじゃないか?」


 それにモンサー2には前シリーズにはなかったカラフルベイビーの進化形がある。もしかすれば化けるかもしれない。


『ふふっ、ありがとう才司。優しいんだね』


「なに、ゲーム好きの同志が悩んでいるのなら親身になって考えてやるのがゲーマーってもんだ」


『ありがと……ていうかもうこんな時間だね。私、まだ課題終わってないから切るね。また明日』


「ああ、また明日。それと、おやすみ」


『うん、おやすみ』


 ぶつんと電話が切れる。その静寂はなんだか寂しいものがあって……


 コンコン。


「お兄ちゃん、お風呂入んないの?」


「入るよ」


「だったらお兄ちゃん最後だよ。お風呂掃除よろしくね」


「分かった」


「あと、高花さんによろしく~」


 あいつ聞いてやがったな。茶化すようにそう言うと、花音が扉の前から離れていくのが分かる。


「そんなんじゃないからな」


 俺は妹に精いっぱいの抵抗をした後に風呂へと向かう。手をつけていない宿題を置いたまま。

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