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ヲタッキーズ62 怪盗"RQマスク"

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

彼女が率いる"ヲタッキーズ"がヲタクの平和を護り抜く。


ヲトナのジュブナイル第65話「怪盗"RQマスク"」。さて、今回はレースクイーン姿の美術品強盗が出没w


ネオナチブームで高値のついた絵が消え、殺人も起き、背後に異次元人スーパーヒロインの影がチラつき…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 ネオナチ婆さんの嘆き


地下アイドル通り裏の空き地。コンビニが何軒も潰れた曰く付きの土地に小綺麗な美術館がオープン。

こんなヲタクの街の裏通りに客が来るのかと思ったら真夜中というのにレースクイーンがやって来るw


「2F、異常なし。1Fへ降りる」

「了解。モニターしてるが、コチラも異常なし」

「こんな美術館に泥棒ナンか来ないさ」


巡回中の警備員が無駄口を叩きながら通り過ぎた後でエレベーターのドアが開くと…レースクイーンw

谷間強調の純白ブラトップにショートなジャケットを羽織り、お約束の超ミニスカに畳んだパラソル←


おお!ヘソ出しキュートなレースクイーン参上!


奥の特別展示室にカードキーで入場。慣れた手つきで警備装置を切り、バインド線でバイパスを作る。

監視カメラにループ画像が流れたのを確認し、スプレーを噴霧し張り巡らされたレーザー光線を確認。


「さ、お仕事お仕事」


レースクイーンは歌うような口調で独り言。パラソルを開いて侵入探知用レーザー光線をカットする。

一方、ループ画像にダマされていた警備主任は、画像の中の時計が現在時刻とズレてるコトに気づくw


「おい!特別展示室に戻ってくれ」

「え。何?」

「良いから早く!」


階段を逆戻りスル息遣いは聞こえるが画面は全く変わらない!ヤラれた!ループ画像を噛まされてる←

一方、2Fに戻った警備員は特別展示室のドアが開いていて肝を潰す!室内照明オン!ソコにいたのは…


「…レースクイーン?」

「いやん。見つかっちゃった」

「な、何か御用ですか?」


美女に弱く下手に出たのが運の尽き!開きっ放しのドアから青白い光線が飛び出し警備員を直撃スル!


「ぎゃあぅうぅ!」


その瞬間、マンガみたいに髪の毛を逆立たせ警備員は蒲田行進曲そこのけの派手な階段落ちをキメるw


「シャロ!どうした!応答しろ!」


警報ブザーが鳴り響き、階段の下で警備員が激しく痙攣する中、エレベーターのドアが静かに閉まるw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


1時間後。現場は制服・私服の警官でゴッタ返す☆


「外部から侵入の形跡はなく、恐らく閉館後、内部に潜んでいたモノと思われます。全館に使えるカードキーを使用した模様」

「目撃者は?」

「ソレが…感電してて…」


万世橋警察署の敏腕警部ラギィはビニ手をしながら、黄色い規制テープをくぐり美術館に入る。

先行した部下はテキパキと状況を報告スル…だけに、目撃情報のトコロが異様に歯切れが悪い。


「いや…その、あの、実は感電して髪の毛がチリチリだし何か言うコトも支離滅裂で、あんまり、信頼が出来ナイような…」

「キチンと報告して。犯人を見たの?」

「ソレが…レースクイーンを見たとか何とかwパラソルをさしてたし、コロナでマスクもしてたとかで、顔は見てないらしくて…」


怪盗"RQ(レースクイーン)マスク"!


「な、何なのソレ?で、被害は?」

「アドルプ・ツィーグラーの風景画です。画風は凡庸ながら、折りからのネオナチブームで海外のオークションでは推定2200万ドルの高値がついてます」

「貴女は?」


話に割り込む、地味スーツに黒縁メガネの女子。間違いなく高校時代に生徒会長やってそうw巨乳だけど…


「アキバ造形美術院の院長でマリカと申します。自宅で就寝中、知らせを聞いて飛んで参りました」

「万世橋警察署のラギィです。ヲタクの…いや、失礼お宅のセキュリティ体制は?」

「小さい美術院ですがシステムは最新のモノを導入しています」

「パスワード変更や警備の入れ替えローテーションは?不定期に変更(セコム)してますか?」

「YES…もしかして、内部の者の犯行を疑ってらっしゃる?」

「とりあえず、従業員の名簿と防犯カメラの映像をお願いします」

「もちろん、提出します。しかし、ウチが1番目の公開なのでタイミングとしては最悪ですわ」

「どーゆー意味でしょう?」

「来月から展示ツアーで全国を回る予定でした」

「当然、保険には入ってらっしゃるのでしょ?」

「実は…あの絵は個人から借りているのです。持ち主は休暇中で留守です」

「随分と気前の良い方ですね」

「美術館に貸し出すコトで保険料を節約出来ると考えたのでしょう。何しろ銀行の金庫並みに安全と思われてますから」

「今回は見込み違いでしたね」

「残念です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


昼下がりの"潜り酒場(スピークイージー)"。


元は御屋敷(ミユリさんのバー)のバックヤードだったが、改装したら居心地良くなっちゃって常連の溜まり場になり困ってる…

とか逝いながら、実はオーナーの僕自身、会社をサボりアキバの街を見下す…あ、タワマン最上階ナンだ←


「テリィ様!マグを片付けてください!」

「夕方までに帰って来て片付けるょ」

「ダメです!立ち飲みコーヒー店じゃナイですから」


カウンターの中でミユリさん(私服ver.)は怒っている。


「僕はオーナーだぜ」

「テナントとしてお話しがあります」

「え。賃借権を買い取る?」

「買い取りません!マトモな管理をお願いしたいだけ」

「マグカップを片付ければ良いの?」

「先ず空調性能が劣化してます。サブスクも映りません」

「マジ?いつから?」

「3回目の宣言の辺りからです。大家さんとしてキチンとした対応をお願いします」

「わかった!わかりました!リストをください」

「もう作ってあります」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)に設置された捜査本部。


「警部。美術院のスタッフには問題ナシです。現在、監視ビデオを精査中」

「犯人は、何らかの手段でカードキーの電子データを盗み、レーザーセンサーを突破して潜入してます」

「プロだわ」

「Ms.ラギィ。盗まれた絵画を回収スルためには、初動が肝心ょ」

「貴女は?」


話に割り込むハデ柄スーツのピンヒール女子。間違いなく高校時代にチアガールやってそうw微乳だけど…


桜田門(けいしちょう)の美術捜査官、マナカょ」

「あらあら。美術捜査官の定番は、地味なスーツに黒の角縁メガネだと思ってたわ。所轄のラギィです」

「レーザー手術でJK時代に角縁メガネとはオサラバしたわ。今は見てのオラオラ系ょ」←

「で。何しに来たの?」

「あのね。この手の作品は転売が難しい」

「価格のせいで?」

「YES。でも、真の理由は来歴のせいょ」

「来歴?」

「作品の出所や所有者の記録のコト。このツィーグラーはワケありなの」

「ワケありって?」

「盗まれたのは、今回で2回目」

「2回目?じゃ最初はいつ?誰が盗んだの?」

「1945年。陥落寸前のベルリンから。盗んだのはナヂス」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻のジャドー司令部。


ジャドーは、アキバに開いた"リアルの裂け目"からヲタクを護る首相直轄の秘密防衛組織だ。

僕の推しミユリさん率いるスーパーヒロイン集団ヲタッキーズはジャドー傘下の民間軍事会社(PMC)


ジャドー司令官であるレイカのブリーフィング。


「地下アイドル通りの美術館強盗は、異次元絡みなので、ウチと万世橋(アキバポリス)との合同捜査になったわ。ヲタッキーズのマリレ、今回はナヂス絡みだけど、何か知ってる?」

「はい、司令官。盗まれたツィーグラーは、総統の寵愛を受けた画家です。折りからのネオナチブームのお陰で、画風は凡庸なのに、結構なお値段で取引されてるとか」

「ソンな曰く付きの絵が何で秋葉原に?」


解説してくれるマリレはヲタッキーズのロケットガールだが、実は彼女も陥落寸前のベルリンからタイムマシンで現代に脱出して来た"時間(タイム)ナヂス"。


平時はアキバでブラックメタルメイドカフェのメイド長だから今もメイド服。あ、彼女は国防軍だけどねw


「何でナヂスが絵画ナンか持ってるの?」

「もともと総統は画家志望で…ユダヤ人に財産を登録させ、目星をつけては家財を奪い、住人は収容所送りにしては略奪を繰り返してました。その後、ベルリンがヤバくなって、一部の美術品を遣日潜水艦で日本へ運び込んだ」

「ソレが回り回って秋葉原に?美術窃盗犯のデータベースとか当たってくれる?ソンなデータベースが有ればの話だけど」

了解(ROG)、司令官。ルイナに相談します」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。同じジャドー司令部のラボ。


ルイナは、史上最年少の首相官邸アドバイザーで、ヲタッキーズの科学顧問も兼務の、いわゆる天才だ。

オフでは御屋敷(ミユリさんのバー)のヘルプもやってる関係で、コチラも今はメイド服を着ている。マリレがラボに入ると…


乾電池を繋いだ磁石の上でネジが回転してるw


「うーん電気と磁気って表裏一体だわ。秋葉原とメイドみたい」

「あらあら。今度は何かの発表会の練習?」

「テリィたんが面倒見てるJAZZキッズにフレミングの左手の法則を教えるコトになった。せっかくだから、コリオリの力にも触れ、北半球で台風が左巻きになる原理も解明してあげようと思うの!」

「詰め込み過ぎw」

「…用件は?」

「ツィーグラーの絵が盗まれたの」

「誰ソレ?美味しいの?」

「曰く付きの絵を6分以内に盗み出している。手際が完璧で、実はウチ(時間ナヂス)の戦闘工兵じゃないかなって疑ってる。でも、ナゼだかRQ(レースクイーン)らしいのょねwそんなこんなで、ルイナにはデータベースからの絞り込みをお願いしたいってレイカ司令官が」

「あっそ。2次判別分析が使えるわ。一致するデータから複合的特性を求める手法ょ」

「そう?じゃウチのデータベースを使って。パスワードは…」

「この場合、窃盗犯も変数だわ。他に盗品の種類、美術品、警備、手口の詳細ね。で、最も大切な変数は、盗まれた絵に秘められた、犯人にとって魅力的な"何か"ょ…で、マリレのデータベースって、あの"南極要塞"の?」

「YES。ウチ(時間ナヂス)の"南極要塞"には、ナヂスに関する完璧なデータベースがある。現在に至るまで全ての情報を網羅してるわ」

「花畑では、特定の花が特定の虫を惹きつける。逆に虫が好む花も決まってる。窃盗犯も虫と同じで、特定の好みがアル。今回の盗難の特徴はわかったわ。2次判別分析で過去の盗難と比較すれば、容疑者の候補を絞り込めるハズょ」

「と、とにかく…頼むわ(言ってるコトが半分ぐらいしかワカラナイけどw)」


第2章 ツィーグラーを追え


ジャドー司令部。


「レイカ司令官。ルイナが容疑者の候補を見つけました。8年前、アートロスレジスターがヘルマ夫人に例の絵の売り出しを通知してます」

「何レジスター?」

「盗まれた美術品の世界的なデータベースのコトょ」


マナカ美術捜査官が教えてくれる。


「現時点で唯一の容疑者候補であるヘルマ夫人は、件のツィーグラーは自分が所有していたが、ナヂスに接収されたと主張。現在の所有者であるシメカ氏を提訴しました。しかし、証拠不全で敗訴しています」

「ナヂスの証拠隠滅は天才的だから…」

「ヘルマ夫人は、戦後のナヂス狩りの生き残りなの?お年はおいくつ?」

「107歳です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


アキバ造形美術院。


「院長。貴女、あのツィーグラーの来歴は知ってるの?」

「おや?誰かと思ったら、万世橋の腕利き警部さんね?もちろん、院長として当然承知です」

「曰く付きの絵画を展示しても気にならないの?」

「当然、問題視しました。でも、所有者であるシメカ氏の書類は満足に足るものだった。来歴に問題のある絵画は多い。でも、その全てがナヂスの盗品とは限らないのです」

「ヲタク…じゃなかった、このアキバ造形美術院だけど、このツィーグラーのおかげで、入館料収入が5割の増収になったンだって?」

「誰からソレを?確かに、当院の大きな目玉展示です。大きな美術館と違って来歴で絵の選り好みなど出来ません」

「民族の悲しみと不幸を利用して金儲けってワケね?」

「…出てって」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヘルマ夫人宅。


「あら。誰かと思ったら、万世橋のおまわりさんなの?あの絵はね。ベルリンの家にあって、幼い頃、あの絵を見て私は育った。父は、いつも大きくなったら、みんなでベルリンに引っ越そうと言ってたわ。結局、実現しなかったけど」

「大事な家族を失った貴女にお話を伺う事情を、どうかお許しください」

「構わないわ。でもね、おまわりさん。ガッカリさせて悪いけど、私は犯人じゃないの。もちろん、この手にツィーグラーを取り戻したい。戦争は全てを奪っていったから。絵だけじゃない。家族の写真は1枚もない。でも、あの絵を見ていると、幸せだった頃の家族と出会ったような気持ちになれる」

「…犯人にお心当たりは?」


男が入って来て夫人の頬にキスをスル。


「100年前の犯人ならね。道路が混んでてゴメン」

「孫のジョエょ。こちらは万世橋のおまわりさん。そして、コチラは…」

「"国民的ヲタク"のテリィです。次回"地下鉄戦隊メトロんV"のネタ探しでお邪魔しました」

「多分、ジャドーょ」←


惜しい!おばーちゃんスゲェなw違うけど。


「とにかく、秋葉原地裁は、我々の訴えを退けた。ナヂス同様、法律が敵に味方したンだ。裁判資金も尽きた」

「でもね、おまわりさん達。私達は、本来の争点において負けたわけじゃない。私の記憶力のせいで負けたの」

「ツィーグラーが家にあったと証言出来るのは祖母だけナンだ。残りはみんな戦後のナチ狩りで殺された。現在の持ち主シメカ氏は、ソコを突いた」

「年寄りの記憶は、裁判で証言として使えないと言われたの。私には7人の姉妹がいたわ。おまわりさん、貴女、御家族は?」

「父と妹がいます。母は数年前に他界しました」

「じゃ辛さはわかるわね」

「あの…通話と銀行口座の記録を調べたいのですが」

「未だ祖母が犯人だと疑ってるのか!」

やめて(プリーズ)、ジョエ!私は盗んでないわ。考えたコトは何度かアルけど。わかるでしょ。家族は、人生の錨なの。失えば漂流してしまう」

「なるほど」

「でも、おまわりさんには想像つかないわ。家族でただ1人生き残る辛さを。その理不尽さを」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕がラボを訪れると、ルイナはデータベースの検索作業(後で聞いたら市ヶ谷(ぼうえいしょう)をハッキングしてたw)に没頭w


「あ、テリィたん。ねぇナヂスが果たした役割って、皮肉だと思わない?」

「何のコト?」

「ツィーグラーと同時代の作家の構図を見て。当時、ナヂスの画家は、みんな屋上からベルリンの街を描いているわ」

「へぇ。気持ち良さそうだな」

「ソレがツィーグラーだけは、路上からベルリンを描いてる。等身大のベルリンがココにアルわ」

「写実主義?芸術的な試みかな」

「…生き残るためょ。敗戦前夜なの!ナヂスにとって、当時のベルリンの街は、常に危険に溢れてた。路上で何が起こってもおかしくなかった」

「へぇ詳しいンだね?データベースに載ってた?」

「…父が画家なの」

「え。ソレは初耳だ」

「親の失望と言う絵の具で塗り潰された黒歴史ょ」

「御両親は画家になれと?」

「特にパパがね。自分と同じ視点から世界を見ろと。親って愚かょね。特に父親は。でも、その愚かさに応えなかった悔いも残ってる」←

「大家?」

「いいえ、親。何?テリィたん、テナントと何かモメてるの?まさか、いつもラブラブのミユリ姉様と喧嘩でもした?」

「僕の不動産管理能力に意見すルンだょ!」

「チャーンス!…あ。データベースの検索結果が出たわ。ヒットした美術窃盗犯は3人ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その3人の検索画面がモニターに大写しの捜査本部。


「今回の事件との共通変数を求めることで3人の容疑者を特定出来たわ。ウィラ、ネスコ、ラキンょ。この内ネスコは服役中ね」

「運が良いわね」

「ラキンは死亡。3年前に殺されてます」

「残るはウィラか」

「彼はカナダ人ね」

「トロント在住」


即座に応えるのはイケイケ美術捜査官のマナカ。


「ホント、生き字引なのね」

「でも、この3人の抽出の速さには驚くばかりょ」

「入国の記録はありません」

「でしょうね。いつも偽造パスポートを使ってるから」

「ホテルと神田リバー水上空港、秋葉原駅に写真を回そう」

「高級ホテルから当たれば?2200万ドルにふさわしいホテルから当たってね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ココは…2200万ドルにふさわしいホテル。


「しかし、承ってるお名前ではゴーティエ様ですが」

「本名はマイケ・ウィラなの」

「ゴーティエ様?」


ノックするホテルマン。左右にヲタッキーズ。


「御不在カモです」

「とりあえず、音波銃のお出迎えはナシみたい」

「下がって」


マスターキーを差し込みドアを開けて飛び込む。


「ヲタッキーズよっ!話がある!」


メイド服の2人組が音波銃を構えて、お互いにカバーし合いながら、ホテルの部屋の奥へと入って逝く。


「クリア!」


2人で入っていくと…


「火薬の匂いがするわ。空気がイオン化してる?」


テーブルの向こうにバスローブを着たまま倒れている血染めの射殺死体。


「いよいよ美術品盗難の域を越えたようね。殺人課の出番ょ」

「絵をめぐってついに死人が出たわ」

「初めての死者ね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。


「ナヂス盗品の裁判は多いの。ある美術館からクリムトの絵を取り返した女性は、半生をかけて裁判をしたわ」

「ヘルマ夫人は人生唯一の品だと」

「でも、秋葉原地裁は、夫人の主張を認めなかったわ」

「所有者の方が優秀な弁護団を雇ったというだけの話ょ。シメカ氏は、いつ休暇から戻ったの?」

「え。彼を疑ってるの?」

「売りに出して夫人に訴えられたのは彼だし」

「保険会社には無い発想ね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「あら。テリィ様、いつ御帰宅を?」

「1時間前かな」

「物音はお聞きになりました?」

「うんにゃ」

「シーラカンス水槽の循環ポンプが故障中です」

「え。"彼"は無事?」

「"彼女"です。バケツリレーで救いました。修理が必要だとリストに載せときましたが?」

「え。悪いけど…忙しかったから」

「ヲタクの言い訳ですわ」

「大家稼業もヲタクも僕のやり方でやるから」


唇を噛むミユリさん。

僕はお出掛けをスル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


シメカ氏はタワマンの中層階に住んでいる。

ラギィ警部の部下達にくっつきピンポーン。


「ツィーグラーは、父から相続したモノだ。最初に買ったのは、私の父」

「売主は?」

「ガード下の古美術商だ。戦後(湾岸戦争w)すぐの秋葉原で、傭兵だった父は、あの絵に一目惚れした」

「出所を調べたのか?」

「ガード下で買ったンだ。追跡ナンか困難さ」

「だから!どれぐらい調べたのかな?」

「父は、正当な金額を払って合法な美術商から買っている。当時の領収証もアル…何処かにw」

「7500円?」

「当時としては相当な額だ!」

「今時ラッセンのコピー画だって、もっと吹っかけるぞw因みに、8年前にネオナチがつけた値段は2200万ドルだ」

「ソレは、絵の出所が知られたら困る人がいるからだろ?曰く付きの絵だ。どーせその値段では売れないし」

「何が言いたいんだ?」

「保険金さ。2200万ドル、マル得だ」

「そういうコトか。盗まれて保険金が出て初めて金のなる木になルンだ。お前、実はツィーグラーが盗まれて喜んでルンじゃ…」

「だったら何だ?とにかく!ウチには、ヘルマ夫人には悪いが、証拠があるンだ」

「最初から夫人に勝ち目はなかったのか?」

「だからこそ、示談を申し出た。訴えを取り下げれば売却代金の3割を出すと、弁護士から持ちかけたのに…」

「夫人が拒否したのか?」

「いや。夫人ではなく、彼女の孫だ。彼がニベもなく断った。私は、父の命を高齢者の衰えた記憶から守ったと思ってる。君が私なら何を信じる?」


僕は、刑事さん達と顔を見合わせるw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラボでルイナがホワイトボードに数字を書き殴る。


「ありゃ取込み中だったか」

「大丈夫ょ。ミユリ姉様に言われてテリィたんの小切手帳の残高を確認中。銀行に残高がマイナスだと言われたンだって?」

「よ、よく知ってるなwしかし、官邸最年少アドバイザーの天才であるルイナが会計士の真似ゴトか?才能の無駄遣いだろ」

「私は、姉様の御屋敷のヘルプメイドでもアルから…テリィたんみたいなヲタクが姉様をテナントに持つナンて最初から無理なのょ」

「あのさ。育った家や家族と同様、初めて御給仕した御屋敷がメイド人生の錨になるンだょ」

「マジ?テリィたん、無宗教でしょ?」

「何だょソレ?逝ってるコト、ヘンだろ?」

「あら。事件のせいかしら」

「少しね。で!力を貸してくれょルイナ」

「イヤ。またミユリ姉様に怒られちゃう」

「ウィラが死んだ今、犯人が次に向かう場所は何処だろう?選択肢は多くないハズだけど」

「ツィーグラーが行き着く先は、数カ所に限られるし、ソレはネットワーク拡散確率モデルで…」

「あ。簡単に頼むょルイナ」

「車の移動をイメージして。乗用車なら、どこでも行けるわ。でも、商用トラックは、通れる道が限られるし、危険物を運ぶトラックなら、さらに限定される。で、核廃棄物なら、更に限定されて行き着く先はわずか数カ所。ツィーグラーの絵も同じ。行く先は、実は限られてるの」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。腕利きの部下達からも続々情報が集まる。


「あの孫は、確かに怪しいですね。示談交渉してた頃の通話記録を入手しました」

「危ないコトするわね。それで?」

「盗難美術品の回収を専門に請け負うネスコに電話をかけてます」

「プロの回収屋ね?」

「YES。目下、ウィラが服役してた事件に関与した疑いで係争中」

「もう一つ防犯カメラの映像から3ヶ月前のこんな画像が見つかりました」


カメラ画像。カーディガン姿で腕組みして柱の影からそっとツィーグラーを見てるのは孫。ラギィが叫ぶ。


「スゴい!」

「警部!コレ、ヘルマ夫人の孫ですょ!」

「犯行の下見をしてるの?」

「わかりません。ただ3年前、彼は闇の回収屋ネスコと接触してます」

「そして、ツィーグラーの奪還をネスコに依頼した?」

「ところが、ネスコが逮捕されてw」

「それでもツィーグラーを諦めなかったのね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


孫を取調べ室に招き入れる。


「ウィラなんて名前は聞いたこともない」

「まぁ座って」

「俺は何もしてない」

「ネスコとの関係は?」

「確かに3年前に会ったコトは認める」

「裁判で負けた頃ですね」

「頭に血が昇って馬鹿なコトをした」

「貴方は、おばあさんを助けられなかった」

「シメカ氏は、医者を呼び祖母に恥をかかせた」

「3ヶ月前、美術館にいた君の写真だ」

「ソレも認める。実際、良く行くンだ。ツィーグラーの近くにいると、なぜか心が安らぐ」

「手元にあれば、もっと安らぐだろう」

「違う…ってか状況証拠ばかりだ。私は何もやってない」


ラギィは、腕組みして考え込む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のコーヒーブレイク。


「警部、どうです?」

「やはり、彼がやったとは思えないわ」

「証拠の隠滅も図ってませんしね」

「それじゃあシメカ氏の保険金詐欺で決まり?」


ココでイケイケ美術捜査官のマナカが口を挟む。


「でも、所有者と犯人との接触を示す記録は無いわ」

「うーん確かに仲介者もいないわね」

「絵はどこかしら?」


第3章 スーパーヒロインと倦怠期


ジャドーのラボ。


「膨大な数だわ。ナヂスが略奪した美術品は、数十万点にも昇ルンだなー」

「でも、テリィたん。その全てが、今は美術館や収集家のもとにあるのょ?」

「マリレ。所詮は血塗られた商売だから」


ルイナの身も蓋もないまとめ発言w


「さ。パターンが見えて来たわ。盗まれた美術品の流通ルートが浮かび上がった」

「行き先は…slow boat to China?」

「YES。中国行きの slow boat に御用心だわ」


マリレのスマホが鳴動。


「ミユリ姉様からです。多分テリィたんに御用だと思うけど」

「いないと逝ってょ。また小言だ」

「え。テリィたん、姉様と倦怠期なの?やった!」

「偉大な芸術家のトリビア。モネは、大家に食料商になれと薦められたそうょ」

「聞き入れなくて正解だった」

「みんな身近な人に望みをかけるモノなの」

「ミユリさんと僕の話は、そんな大層なモンじゃナイょ。ゴミ出しをしないのと、何ゴトもスローモーションなのは根が同じだとミユリさんは思ってる」


マリレは、ニヤニヤ笑いながら首を振る。

ルイナは、何だか急にハッピーな感じにw


「一理あるかも。さすがは偉大な芸術家のトリビアだわ」

「何処が?」

「ただの感想ょ」

「何の話だっけ?」

「I'd love to get you On a slowboat to China(君が何度も何度も逝くまで楽しみたい)」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


潜り酒場(スピークイージー)"。


「おかえりなさいませ、お嬢様…あら、ルイナ?」

「ミユリ姉様、ただいまー!テリィたんは?」

「推しゴトでしょ」

「わ!テリィたんが姉様を避けてるの?」

「え。何か聞いてるの?」

「いいえ、何も。でも…喧嘩中なの?」

「御屋敷のオーナーはテリィ様。私は雇われメイド長ょ。この御屋敷にいる限り、私は前に進めない」

「おお!かなり深刻だわ!」

「ルイナ、うれしそうwとにかく、テリィ様は、テナントのコトなどお構いナシなの」

「他の御屋敷への御帰宅で手一杯なのょ!男はみんな浮気者!」

「噂に火をつけて回る放火魔なの?でも、小言は嫌いだけど、将来のために御屋敷を守る術も知って欲しいわ」

「ムリ。何人もテリィたんに押し付けは出来ないわ。ソレは姉様が1番御存知のハズ」

「…で、ルイナ。何か御用?」

「戦後のナチ狩りの生存者とツィーグラーの絵の件なの」

「ヘルマ夫人ね?彼女は孤立無縁だわ。家族と共に自分の人生も失ってしまったンだわ。地下アイドル通りに出来た"シャルンホルスト"のアンナと同じ」

「アンナ?」

「"リアルの裂け目"を通る時に家族と離れ離れになり、アキバに来て以来、家族をずっと探し続けてる。ねぇ想像出来る?錨となるハズだった家族を失ったのょ」

「で、家族は見つかったの?」

「いいえ。1人も見つからないわ」


ルイナはポシェットからスマホを出し絵の画像を呼び出す。


「ルイナ、その絵は何?」

「…私が美術学校の入試で提出した作品ょ。失われたキャリア。技術と独創性は別ね。全部名作のコピーなの。パパは独自の創作をする前に先人の作品から学べと。いつも八方塞がりになった時、この絵を見るコトにしてる」

「コッチの赤い書き込みは?」

「実は、データ分析が行き詰まってるの。中国にツィーグラーの絵が現れないの。どうも何処かで計算ミスをしたようだわ」

「宇宙論の誤りには仮説の段階のミスもあるそうょ。テリィ様の受け売りだけど。テリィ様は、最近天文学にお熱なのょ。推しゴト絡みかしら」

「六本木に天体観測ダイナーが…って"仮説"が違う?仮説、か」

「現在の"仮説"に拠れば、ナヂス絡みの絵画が闇市場で売れる可能性は低いのでしょ?」

「うーん低いけどゼロではないわ」

「でも、実際に売買の痕跡はナイ」

「そーなの。やっぱり、中国は空振りね」

「ねぇルイナ。多分そのツィーグラーは売られてナイわ。何か売るに売れない事情がアルのょ」

「でも、ミユリ姉様。訳ありでも、折からのネオナチブームで高値がつくのょ?なぜ売買がナイのかしら?」

「つまり…私達の"仮説"のドコかが間違ってるってコトね」


その瞬間カウンターを叩き駆け出して逝くルイナ。

ソレを見て、ミユリさんは長い長い溜め息をつく。


「何なの、あの子」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ほどなく捜査本部でルイナが声を張り上げてるw


「盗まれたツィーグラーが見つからない理由がわかったわ!画質を上げた写真をコンピュータで分析したの。使った基準は2つ。1つはクラックょ」

「クラックって言うのはね、絵画の表面に出来る絵の具の亀裂のコトょ」


すかさず、イケイケな美術捜査官の解説が入る。


「亀裂のパターンから描かれた背景がわかる。パターンは、絵の具や筆などの画材によって決まるの。15世紀のフィレンツェの画家と17世紀のロンドンの画家では使ってる画材が違う。画材と時代の違いで生じるクラックのパターンは、数学的なモデルにより解析するコトが可能だわ」

「で?基準は2つあるのでしょ?」

「もう1つの基準は、表現(ビジュアル)スタイル。実際の筆遣いのコトょ」

「描いた絵から筆遣いがワカルの?」

「YES。ほとんど署名に近いわ。絵画の分析にはウェーブレット変換ではなく、より高度なカーブレット変換を使うべきなの。そーすれば、絵画を3次元で分析するコトが出来るから。カーブレット変換で筆の軌跡と深さを測定し、その画家に特有の筆遣いを数式化するの。その数式を使えば、他の作品も同じ画家が描いたかを判断出来る。カタログの写真を画質を上げて分析し、他の美術館のツィーグラーの作品と比較したの。結果は明白だったわ」


誰かが唾を飲み込む。


「盗まれたのは、ツィーグラーの絵じゃない。贋作(フェイク)ょ」


捜査本部の全員が顔を見合わせるw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


美術院長に盗まれたのは贋作だと告知スルw


「贋作?ありえません」

「数学アドバイザーによる分析の結果です」

「写真で鑑定しただけでは?」

「画質を上げて鑑定した結果ょ」

「そのアドバイザーの完全な間違いです」

「その可能性は極めて低いわ」

「1年半前のツィーグラーの取得時に徹底的な鑑定を行っています」

「では、鑑定後にすり替えられた可能性は?」

「鑑定後に?いつ?どうやって?」

「一年半の間にツィーグラーにクリーニングを行ったコトは?」

「モチロン定期的に行っています。ただし、職員の厳重な監視の下で、その都度、鑑定を行った上で行っています」

「鑑定は誰が行うの?美術館内で行うの?」

「当院の修復部門です」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


鑑定を行った修復部門の責任者は禿げた小男w

小さい引き出しをいくつも開け記録を調べる。


「ツィーグラー、ツィーグラー…あ、ありました。私は、修復部門の責任者ボルデです。ツィーグラーのクリーニングは6月3日に行っています」

「鑑定を行ったのは?」

「私です」


小男ボルデは、ヲタッキーズを見上げ応える。

メイドを下から見上げるとは…小男の特典かw


「おや?ツィーグラーが美術院に到着した時の鑑定も貴方ですね(そのイヤらしい視線ヤメてw)?6月3日にクリーニングしたツィーグラーは、美術院に到着した時と同じ絵だったでしょうか?」

「ボルデさんとは20年来の仲です。彼の判断に間違いはありません」

「何か変わったトコロはありませんでしたか?」


割り込む院長を無視して切り込むマリレ。


「いいえ、メイドさん。確かに鑑定した時と同じツィーグラーだったょ」

「決まりょ!あのツィーグラーは、ウチの看板商品です。ケチをつけて市場価値が下がれば警察に損害賠償を請求します」


マリレ、切り口チェンジ。


「…おや?ボルデさん、展示のカタログ制作も貴方が行っているの?」

「YES。展覧会ごとに作成してる」

「ツィーグラーの写真の撮影時期は?いつのツィーグラーを撮ったモノかしら?」

「知らん」

「おやおや。ソレはナゼ?」


美術院長が割り込む。

ナゼか少し慌ててる。


「ソレは、所有者から提供された写真だからょ」

「え。シメカ氏提供の撮影なの?」

「作品を貸し出す時に写真を添えるコトは、業界的に良くあるコトだ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。イケイケ捜査官も交えケンケンガクガク。


「シメカ氏は、ツィーグラーの貸し出し時に写真をつけてる」

「その写真をルイナが贋作と判定した」

「というコトは…盗まれたツィーグラーは贋作?」

「シメカ氏が贋作を作らせ、その贋作を貸し出して、そうとは知らない怪盗"RQマスク"が盗んだ?」

「うーん確かに所有者が盗難に備えて贋作を作るコトは良くアル。不慮の事故に備える意味もアルし」

「ヘルマ夫人が盗むとか?…ま、まさか彼女がレースクイーンのコスプレして…」

「ヤメて!想像したくないwあとボルデの女装も封印!」

「ナヂス絡みの美術品には、この手の係争が繰り返されるのが常。ネオナチ以外の収集家が敬遠するのは、ソレが嫌だからでもアル」

「ヘルマ夫人が新たな証拠を見つければ再提訴される可能性もアル」

「万一に備え贋作を制作し、ソレを貸し出せば保険料の節約にもナルわ」

「さらに、貸し出し先で盗難に遭えば、保険金をせしめ、モノホンを後でコッソリ売れば、同じツィーグラーで2度オイシイわ」

「でも、なぜ展示して1年半も経ってから盗むコトにしたのかしら?」

「確か全国展示ツアーに出るとか言ってたわょね」

「来月からです」

「行く先々で異なる鑑定人が新たな鑑定を行うわ。さすがに、誰かが贋作と気付くでしょう」

「そっか。じゃ後は…モノホンは何処かしらってコトね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ジャドーのラボでルイナをからかってたら、何処からともなく、カレーのスパイシーな匂いが漂って来るw


「テリィ様」

「ミユリさん、じゃなかった、ムーンライトセレナーダー?今度は…何が壊れたの?水回り?」

「変身コスプレして和睦の貢ぎ物をお届けに上がりました。マチガイダのダカレードッグです」


ムーンライトセレナーダーは、僕の推しミユリさんが変身した姿で黒のセパレートにヘソ出しのコスプレ。

マチガイダサンドウィッチズは、僕達の溜まり場のホットドッグ屋でチリが絶品で、カレーは裏メニュー。


「え。ダカレーがドッグになったの?いやぁ悪いなソンな必要ナイのに!いっただきまーす☆」←

「召し上がれ。ホンの気持ちです」

「僕のコトを心配しすぎだょ」

「でも、テリィ様は大人だけど頭が5才のママだから…重要なのは、テナントのお守りをするコトではありません。御主人様としての責任を負うコトです」

「御主人としての責任?」

「テリィ様は、ヲタクです。でも、他の人生も必要です。今は、おわかりにならないでしょうが、いつの日かヲタクとして廃人になるか、一般人(パンピー)としてアキバを去るかの選択を迫られる時が来る」

「でも、ソレは今じゃない」

「テリィ様のコトは大好きだし、尊敬もしています。でも、とりあえず始めないと。ある日突然では、余りに悲し過ぐる」

「ミユリさんが心配してたのは、僕の人生がどうなるかってコトだったのか。確かに、僕も心配になる。手本になる人がいないからね…アインシュタインは、最初の妻を捨てて従姉妹と結婚したし」

「…私を慰めているおつもりですか?」

「僕もたくさんの難問に直面してると逝うコトさ。会社のコト。アキバのコト。ミユリさんとのコト。でも、未だ答えは出ない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


シメカ氏の絶叫が響き渡るw


「ソ、ソンな権利は無いだろっ!」


お構いナシに飛び込む捜査員、鑑識、ラギィ警部←


捜査令状(オフダ)が出たの。諦めなさい」

「馬鹿げてる!写真分析だけで贋作と決めつけるナンてw」

「貴方が提供した写真だし。あ、保険会社は支払いを留保するって」←

「訴えてやるっ!」

「観念して。今度は秋葉原地裁は騙せないわ」

「ヘルマ夫人だな?怪しい専門家を雇って、ソイツに贋作と言わせたんだ。汚い手を使いやがって!」


万世橋警察署の黒いウィンドブレーカーを着た鑑識がアチコチから大小様々なモノを次々と押収して逝くw


「専門家は、首相官邸のアドバイザーなのょ」

「何が悲しくて自分のツィーグラーを盗む?贋作ならなぜ4年もかけて裁判をしたンだ?!」

「警部、ヤバい。証拠ぽいモノが見つからないw」


鑑識の弱気な発言にシメカ氏の怒りが沸点に達スルw


「当たり前だ!私は盗んでないし、RQのコスプレもしてない!私の父は国に仕えた尊敬すべき人物だ。父も私も断じて犯罪者ではナイ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部に戻って…頭を掻きむしるラギィ警部w


「やっぱりシメカ氏が怪しい!モノホンを何処かに隠してるわ!」

「贋作の事実を知る証人を既に1人消してるし」

「ウィラね」


性格がイケイケ同士でラギィとマナカは話が合うw


「ねぇ警部。贋作にだって作者はいるハズょ」

「見つければ2人目の証人になるわ」

「贋作画家を探さなきゃ!」

「でも、特定が難しいわ。このレベルの贋作者なら、ざっと見回しても星の数ホドいるし。候補が多過ぎるw」

「でも、贋作の写真はあるし、桜田門(けいしちょう)には押収した贋作のデータベースがある。ルイナなら写真とデータを照合して贋作画家を探し出せるカモ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


1時間後の捜査本部。


「見つけたわ!」


会議アプリからルイナの興奮した声が飛び出すw


「ICPOの贋作データベースをハッキングして、ツィーグラーの贋作データと照合した。その結果、最も類似度の高い絵が1つ抽出されたわ。精度は89.9%」

「画家が割れたの?」

「YES」

「誰?」

「グスタ・スピバ」

「今、何処にいる?」

「ヘルシンキの墓地。1948年に死亡」

「70年も前に死んでる?」

「それだけ贋作も年代物と言うコトね」

「グスタ・スピバの情報です。1946年に詐欺で有罪。2年後に獄死。フィンランド警察は贋作の絵を5点押収。リストの4つ目は…ツィーグラーです!」

「フィンランド警察は、5点とも贋作だと思ってるが1つはモノホンなんだ!」

「そして、70年間フィンランド警察の倉庫に眠ってた?!」

「北欧の人はモノを捨てないからな」

「ヘルマ夫人の父親は、贋作を依頼する一方でモノホンを預けたワケね?」

「シメカ氏は、贋作とは知らなかったのかな」

「シメカ氏どころか、恐らく誰も」

「…待って!でも、展示ツアーの前に盗まれたのはナゼ?偶然なの?」


イケイケ美術捜査官のマナカが叫ぶ!


「しまった!修復担当のボルデよっ!恐らく彼は全てを知っている!」


第4章 スーパーヒロイン vs スーパーヒロイン


「冗談じゃない!鑑定には命を賭けてる!」


修復部門の責任者ボルデは狭いオフィスで仁王立ちw


「…しかし、モノホンが発見されたのなら、もしかしたら私の鑑定ミスかもしれないよーな気もしないでもないカモしれない」←

「あのね!結局、ツィーグラーが贋作だと知ってたの?どっちなの?アンタ、この道20年のベテランなんでしょ?」

「最初から贋作だと知っていた」

「死人が1人出てる。殺人共謀罪にも問われるわょ?どんな報酬も割には合わナイけどOK?」

「報酬だって?美術を愛する者が良心を金で売る苦しみに見合う報酬などナイ!彼女が美術院の破滅だと泣きついて来たンだ。曰く付きの絵画を展示するのと、贋作を展示スルのとでは大違いだ。だのに、その時、院長の、あの女の目が、妖しく、蒼く、光って…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日のアキバ造形美術院。


ツィーグラー展初日のオープニングパーティだ。

華やかなパーティドレスの女性達に優雅な談笑。


メイド服のミユリさんとボルデが入って来るとホステス役で微笑を振りまいてたマリカ院長の顔色が急変w


「マリカ院長。ボルデが吐いたわ。大人しくすれば、人前でコトは荒立てない。手錠はかけるけど」

「私は、アキバ造形美術院に人生を捧げたまで」

「殺人はやり過ぎだわ」

「ウィラは悪党でした。ツィーグラーが贋作と知って脅迫して来たのです。小さな美術院にとってツィーグラーの獲得は夢でした」

「でも、貴女が獲得したのはツィーグラーじゃなかった。70年前に描かれた贋作なのょ」

「わかった時は手遅れでした。発表済みで後には引けなかった」

「だから、展示ツアーに回して贋作とバレる前にツィーグラーが盗まれればと?」

「YES。誰も損をしない。保険金が出れば、美術院も守れる。ソレをアンタは!さぁ貴女も変身しな!サイキック抑制蒸気の中で肉弾勝負だよっ!」


シックな黒のパーティドレスを脱ぎ捨て、谷間強調の純白ブラトップにヘソ出し超ミニスカにパラソル傘!

怪盗"RQマスク"が出現!マナカかどっちかフラグは立ってたが、ギャップ萌えの方だったか!お約束だw


「ナンかウレシそうですね、テリィ様」

「え。そんなコトないょ。さぁミユリさんもムーンライトセレナーダーに変身して、メチャクチャにやっつけちゃってくれ!」

「敵は巨乳。相手にとって不足はありません!」


ミユリさんが変身するムーンライトセレナーダーは、黒のセパレートにヘソ出しコスプレだ!微乳だけど…

レースクイーンvsスーパーヒロインがロックアップ!男の好きなコスプレの順列組合せNo.1だ!ところが…


「アラ…」

「え。何?」

「この"年増(アラフォー)貧乳"って言ったのよっ!」


RQがガヤって均衡を破り、押し倒してマウントを奪だて、馬乗りからの両手抑えつけての手4つから胸4つw


「貴女、スーパーヒロインな上に…異次元人だったの?」

「ソレも巨乳のね。今まで何人もの貧乳スーパーヒロインを葬って来た技でトドメを刺して、ア・ゲ・ル」

「うぷっ」


深い谷間で巨乳窒息固め!ムーンライトセレナーダーが暴れるけど"雷キネシス"もパラソルで弾かれて…


「テ、テリィさま…助けて…」


マ、マズい!推しのピンチだ!その時TO(トップヲタク)は…

(国営放送"プロジェクトX"の声で↑)


「痛っ!痛ーい!ヒップに盗撮ビーム?レースクイーンの弱点をナゼ?」

「さぁRQの天敵カメラ小僧(カメコ)の皆さん!冬コミ再開前の腕試しにゼヒどーぞ!」

「おぉ!年末のパンもろ(パンツ丸出し)視姦チャンスだ!テリィたん、ありがとう!」


馬乗りになってムーンライトセレナーダーを抑え込むレースクイーンの丸出しパンツ目掛けてカメラ放列w


「嫌ぁ!カメラ小僧、そのアングルはヤメて!」

「ムーンライトセレナーダー、今だ!」

「テリィ様、ありがと!"アキバライザー"!」


瞬間の隙を突いて放たれた"光のビッグバン"がヘソ出しレースクイーンを貫き、さらに後方のカメコへ…


「ヲ、ヲレ達も道連れかょ?ぎゃあああっ!」


みんな真っ黒焦げw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「幼い子供にとって、家は安全に満ちてるわ。ある日ソレが全て消え去る。両親、家族、知っているモノの全てがね」

「最後に残った1枚の絵がヘルマ夫人の人生の錨」

「でも、彼女にはソレで十分なのょ。だって、もう漂わなくて良いのだモノ」

「あ。来週、北欧から夫人の下に絵が届くそうょ」


そんな会話を聞きながら、僕は御帰宅スル。


「みんな、いつから話してルンだ?」

「さぁ1週間ぐらい前かしら…ミユリ姉様とテリィたんって結局元鞘ナンだって?どーして?」

「どーしてって何が?」

「2人の間にどんな溝が出来ても、みんなが世話を焼きたがって、結局元鞘。何で?」

「うーん真夜中に中華を食べに行くと良いカモ」

「馬鹿なの?」

「ヲタクには、家がナイ」

「え。」

「でも、眠りに帰るトコロが家じゃない。迎えてくれる人のいる、アキバが僕達の家ナンだょ。あとソレから…」

「ソレから?」

「履き慣れた靴は足にピッタリ」

「テリィ様!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今は亡き皇女達の星で

ミユリは亡霊と踊る

彼女が亡くした者

めぐり逢った者

そして彼女が最も愛した者


長い間ゆくえも知れず

名さえ忘れ去られた

ヲタクどもと踊る

湿った石の上で

荒ぶり高まり悲しみを踊る


そして彼女は

秋葉原を離れられず

ずっと離れられず

ずっと離れられず

ずっと離れられず



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"ネオナチ"をテーマに、異次元人でレースクイーン姿の美術強盗、ネオナチの老婆、闇の盗品回収屋、イケイケな美術捜査官、贋作と知らずに購入した収集家、贋作画家、強盗を追う天才や敏腕警部などが登場しました。


さらに、主人公とヒロインの仲違いと再生、ナヂスと"タイムナヂス"との関係などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、新型変異種コロナを打ち負かしつつある?秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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