迷う装備
第ニ騎士団と言えば、代々騎士を輩出している大貴族たちのご子息の集まりであり、時間と金に余裕があり、栄養価の高い食事で育ったため体躯もよい。
そして、何より効率的で計画的な訓練を行っている。
それとは真逆な平民上がりの第五騎士団。
どう考えても勝ち目がない。
「なんだ? 騎士になったことを後悔しているのか?」
パーズから見透かされたような質問が飛んでくる。
正直言えば、騎士に幻滅している。
だけど幼くして病死したハーレンスの夢を託された俺達に、騎士を辞めるなんてことは絶対にない。
「んな訳ねーだろ。ここに来るまでどれだけのものを犠牲にしたか……忘れてねーよ。ちゃんと覚えてる」
騎士学校に入るための入学金やら何やらで両親には寝る間を惜しんで働かせた。
両親に甘えたい弟たちには辛い思いをさせた。
年寄りの村長には騎士学校に入学するためのコネクション作りに片道何週間もかかる王都へ何往復も足を運んでもらった。
友人たちは剣の稽古のためにと骨折しても手伝ってくれた。
そして何より青春の全部を賭けて騎士になったんだ。
「当たり前だ。俺達が騎士でいる。それだけで村は王都に認知されることになるし、村の希望にもなる。今は恩返しだと思って耐えるしかないだろ?」
「あぁ……。そうだな」
俺はパーズが差し出した手を取り起き上がる。
「でも、昼飯は軽めにしておかねーとな」
「ゲロってもカッコ悪いしな」
◆
何週間ぶりだろう?
俺は第五騎士団専用フルプレートの前で悩む。
重装備かそれとも軽装備か?
重装備は骨の部分や鎧のない部分に攻撃を受けた時に悶絶する。
重装備だけに生半可な力で攻撃してもびくともしない反面、本気で攻撃しくる相手の攻撃を受けてしまうと大ダメージであり大怪我に繋がる。
また重装備は剣など通さないためネチネチとダガーで隙間を狙われるか、組手で地面に叩きつけられる。
軽装備は大ぶりの攻撃を受けただけで悶絶する。
隙間を狙われたりしないが何処を攻撃されても、力の入った攻撃ならばそれなりに有効打になる。
「いい加減観念しろ」
「前回はよ。フルプレートで投げられて気絶しているのに、股間を木刀で何度も刺されたんだぜ?」
「じゃ……軽装備にしろよ」
「うーん……。何か落とし穴がありそうで怖い。パーズもフリクセンも軽装備なんだな」
「重装備なんて重くてやってられん」とフリクセン。
俺がウダウダと時間を無駄にしていると、隊長に肩を叩かれ「お前、フルプレな」と却下不可能な命令が下る。周りを見てみると圧倒的に軽装備が多い。
重装備の生贄が必用ってことか……。
「おい、パーズ、フリクセン。フルプレ着るから手伝え」
一応、中に鎖帷子を着込む。
第二騎士団の連中はマジで残虐だから徹底的に防御力を上げておかねば大怪我するんだよな。
ヒータシールド、木剣、木刀を装備して、いざ王宮の訓練場へ!! って、そんなにノリ気じゃないんだが。
ヘルムの中で浮遊する光る球に話しかける。
「おい、視界が悪いから、相手の攻撃を教えてくれよ」
『そのぐらなら手伝ってやる。じゃが、相手を怒らせてボコボコにされるんじゃないぞ』
「ったり前だ! この前なんて、金玉潰されそうになったんだぜ?」
『それがどのぐらい重要なのかわからんが、大変そうじゃな』
「なぁ、産まれたときから光の球だったのか?」
『産まれるという概念がわからん』
「そうなんかよ……」
軽装備と違い歩くスピードも遅く、金属を引きずるような音が、街の大通りに響く。
光の球とウダウダ離していると、王宮の訓練場が見えてきた。
実を言うと、歩いているだけで……かなりの体力を消費してしまっていたのだ。




