03:役者の資質
ギルドを後にした流は、あれから日本と異世界の中間にある、「異怪骨董やさん」へと帰る。そこで「新たな神の宿る骨董品」を手にし、このトエトリーと言う街へと戻って来たのだった。
そんな街であるトエトリーを歩くと、領都内の定期馬車が忙しそうに道を往復し、買い物客や仕事帰りのワーカーで溢れていた。
子供連れの親子がバスケットいっぱいに詰まったパンを購入し、嬉しそうにそれを持つ子供。
巨大な肉の塊を男二人で回し焼している屋台や、不思議な果物が山積みになっている店が隣にあるかと思えば、キノコ専門店まであり、屋台だけで数えるのが馬鹿らしいほどずらりと並んでいる。
ふと少し離れた広場を見れば、大道芸が始まると宣伝をしている。
すると子供から大人まで殺到し歓声が上がり、その大道芸の客達に飲み屋の呼び込みを明るく元気にこなす娘達など、見ていて飽きないどころか興味が尽きない。
「この時間が一番活気がある感じだな……それに大抵の人の顔が明るい。ここの領主はよほど善政を敷いているのかね」
中央広場を抜け、しばらく歩くと遠くに正門が見えて来た。その傍に冒険者ギルドがあるためか、正門から少し行った場所には人が沢山集まっていた。
「ギルドもこの時間は大忙しか? こんな時に昇級試験をするなんて、ジェニファーちゃんも何を考えてるんだ?」
さらによく見ると、今夜の案内看板があちこちに見える。
「おいおい、まさかこれって……原因は、俺? うっそだろ、アホなのか異世界……」
思わずそう口から出てしまうほど、異様な雰囲気が伝わって来る。
朝には無かった屋台が道の領端にところ狭しと並び、飲み物や食べ物を大声で売っており、更に「場外賭札場」とデカデカと看板が上がり、そこへ人が殺到していた。
よく見ると、その屋台群の中に見知った顔を見つける。
「ファン! 一体これは何事だ!?」
「おお!! ナガレか! お前のお陰でうちの奴らも大助かりだぜ!」
「やっぱり俺がこの騒ぎの原因か……で、オッズはどうなってる?」
「流石商人、切り替えが早いな!」
そう言うとファンは豪快に笑う。
「今の所お前が劣勢だ。何せ相手は巨滅級だろ? しかも単独討伐だ。普通に考えりゃ無理つーか、死ぬ。そんな負け勝負に誰が賭けるか? って話よ」
「だよな~。で、お前はどうしたんだ?」
「ばっか、聞くなよ恥ずかしい! 当然お前に全ツッパよ!!」
「お前なあ~商人なら手堅く行けよ? ギャンブルは身を持ち崩すぞ?」
「それこそまさかって奴よ、こんなんギャンブルにすらなってねーだろ? 何せ確実にお前が勝つんだからな!」
「おいおい、勝負は時の運だぜ? まあ、負ける気はしないがな」
そう言うと二人はニヤリと口角を上げる。
「死ぬなよ、ナガレ。お前にはまだまだ、返さなきゃいけない借りがあるんだからな」
「貸したつもりは無いが、死ぬつもりもない。だから安心して商売してろ」
「はは、相変わらずだな。俺も始まる頃には他の奴に任せて見学に行くわ。あ、そうだ! この串焼きを食べてけ。最上級の力豚の頬肉だ、力が湧くぜ?」
「おお~そりゃいい。丁度腹も減ってたから、うさちゃん特製の弁当でも食べようかと思ってたんだよ」
「うさちゃん? まあそれなら丁度良かったな。ほれ、焼きたてだ!」
ファンは流に焼いていた串焼きを全部渡す。
「おいおい、食いきれないぞ」
「そん時はギルドの奴にやればいい、まあ持ってけ」
ファンは串焼きを包み、周囲を見渡しながら流に面白そうに語り掛ける。
「こいつ等はお前のショータイムに期待して、今や噴火間際の活火山だぜ。無論俺もだがな!」
「お、ありがとうよ、串焼きは貰っておく。じゃあ後で来てくれ、俺に役者の才能が求められているのなら、主演としては最高のショーを演じてみせようじゃないの」
「はっはっは、そうさせてもらうぜ」
「あっと、ファン。これを俺に全額賭けといてくれ」
そう言うと流はファンに、腰の袋を放り投げる。
「ッハ! 勝負は時の運だと? 良く言うぜ」
返事代わりに流は右手をヒラヒラ振りながら、振り返らずにギルドへと歩く。
相変わらず無駄に誘ってる、バニー人形を一瞥しながらギルドの前に到着すると、ウエスタンドアを思いっきり「押して」入る。
引けば無音で開くドアは、押して入ることで〝ギィィッ〟鳴り響く。
そんなよそ者来客アラートが、喧騒のギルドに一時の静寂をもたらす。
シンと静まり返るギルド。そして入り口には歓迎するかのように奴らがいた。
「おい、挨拶はどうした?」
「ヒィ! ヒ、ヒャッハー!」
「ココ、ここは通さねーぜ~!」
「よし、合格!! やれば出来るじゃないか、これで立派な特級雑魚認定だな。うむ、実に清々しい」
「へい、アニキ! これからも精進しやす!」
「誰がアニキだ、誰が。人聞きの悪い事を言うな」
そんな手下? との温かい交流をしていると、ギルド内部が徐々に騒がしくなる。