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038 盗賊VS大盗賊

 いっちにっ、いっちにっ。

 昨日は大雪だったから、雪かきにたくさん時間がかかっちゃった。

 今日は雪が降っていないから雪を道から退けたら困ってる人のお手伝いかなー。


「あら、キャスヴァニア。今日も精が出るわね」


 あっ、おばさんだ!

 俺様はおばさんに元気を込めて手を振った。


「そろそろ雪かき終わるから、お洗濯の水運び手伝えるよー!」

「あら、助かるわ。ついでに魔法でぬるま湯にしてくれると手が冷えないで済むからお願いね」

「はーい!」


 おばさんは俺様にお手伝いの予約をして、お給料としてお菓子を前払いしていった。

 バナナを粉で練って焼いた小さなケーキ。

 素朴な味。おいしいかおいしくないかで聞かれると微妙。

 俺様がケーキを食べているとおばさんが続けてお願いをしてきた。


「うちのレイにも食べさせる予定だから、見つけたら帰ってくるように言ってくれない?」

「うん、いいよ」


 レイくんはこのおばさんの子供で、茶髪に茶色の目をしている。

 おばさんと似ているところはどこかって聞かれたら尖った鼻が似てると思う。

 俺様は約束をして雪かきの続きを始めた。

 いっちにっ、いっちにっ。


*


 雪かきが終わって、おばさんのために井戸の水を汲んで持っていってる最中。

 子供たちの集団が俺様の前を横切った。

 アスレイナちゃんと一緒に遊んでいるみたい。あ、レイくんもいる。

 俺様はみんなを呼び止めて問いかけた。


「何してるの?」

「あ、キャスヴァニアだ!宝探しして遊んでるんだ!」


 レイくんたちがそういって見せてきたのは子供が描いたような宝の地図。

 同じものをみんなで持っているみたいだね。

 いいなぁ、お宝探し。

 俺様の盗賊の血が騒ぎ出しちまうなぁ……!

 だけど、今はお手伝い。

 遊ぶのは諦めてちゃんとお水を運ばないと。


「そうだ!キャスヴァニアも一緒に遊ぼうよ!」


 子供たちの中から声が上がると、次々とそれに賛同する声が聞こえてくる。

 だめだよ、俺様お手伝いあるから。


「賛成!キャスヴァニア、宝の地図をあげるから追いついてきてね!」


 ええ、アスレイナちゃんまでそんなに張り切っちゃって。

 前はお仕事サボるなって口を酸っぱくして言ってたのに。

 うーん、いいのかな?


「じゃあ、これは君たちのお願いってことで!受け取っておくね」


 ちょっとズルだけど、俺様はそういうことにしてアスレイナちゃんから宝の地図を受け取った。

 子供たちはみんな大喜びで俺様を歓迎する。


「キャスヴァニアが居たらすぐにお宝が見つかるよ!」

「私、キャスヴァニアが来たら一緒に探すの!」

「あ、ずるい!俺が一番最初にキャスヴァニアと見つけるんだからな!」


 ありゃりゃ、みんなで俺様を取り合い始めちゃった。

 俺様もいつの間にか人気者になっちゃったんだね。

 まだ、大人の人は俺様を認めてくれない人もいるけれど、子供たちは全員俺様を許してくれた。

 あっ、でもアスレイナちゃんはまだダメって言ってるからまだかな?


「そうだ!キャスヴァニア、合流する時に場所がわからなかったら困るでしょ?私の腕輪とキャスヴァニアの腕輪交換しようよ!」


 アスレイナちゃんはそう言って俺様に監視の腕輪を渡してきた。

 だけど俺様は少し戸惑っちゃった。


「俺様の腕輪は鍵が無いと取れないよ」

「大丈夫!あの真っ白白の人から鍵を貰ったから」


 そういうとアスレイナちゃんは鍵を取り出して、俺様の腕輪を外してくれた。

 そして、俺様に監視する方をつけて、アスレイナちゃんは監視される方をつけた。

 俺様の腕輪についた水晶にはきちんとアスレイナちゃんの姿が映っている。


「これでちゃんと合流できるね。ちゃんと来ないと怒るよ!」


 腰に手を当てて張り切るアスレイナちゃんに、俺様はしっかりと合流するように約束した。

 おっとっと、レイくんに伝言を伝えないと。


「レイくん。おばさんがバナナケーキ作ったから一旦帰って食べてね」

「わーい!わかった!宝を見つけたらすぐに帰る!」


 それって結構かからない?

 おばさん怒るだろうね。俺様しーらない。

 とりあえず子供たちと約束をすると、俺様はお願いされている水の入った桶を持ち上げておばさんの家を目指した。


*


 お願いが水汲みだけじゃなくなっちゃった。

 ついでに洗濯も手伝って干してってやってたら、他の大人の人にも頼み事をされちゃった。

 気づいたらあれからだいぶ経っちゃったよ。

 体感時間は三時間くらいかな?もうみんな宝物を見つけちゃったんじゃない?


「レイー!レーイー!」


 そんな時、レイくんのおばさんが大きな声でレイくんを呼びながらやってきた。

 あれ?まだ戻ってきてないの?

 バナナケーキを喜んでいたし、お宝を見つけたら帰るって言ってたけど。


「あ、キャスヴァニア!レイを見なかった?まだ帰ってきてないのよ」


 おばさんは困った表情で俺様に問いかけてきた。

 俺様も一緒に頭を抱えながら返事をした。


「俺様、三時間前くらいに宝探しをしていたみたいだからちゃんと言ったよ?」

「おかしいわね。あの子、ケーキが大好きだから飛んでくるはずなのに」


 うーん、と悩んで少し。

 あっ、そうだ!監視の腕輪があったんだった!

 これで今、皆が何をしているかわかるはず。

 俺様は早速腕輪の水晶を覗いた。




 みんなが拘束されている。

 口には猿轡が咬ませられていて薄暗い部屋の中、一か所に固められて放置されている。


「あら、それは何?アクセサリーかしら。素敵ね」


 俺様の腕輪を観察しようとしたおばさんから慌てて水晶を隠す。

 隠してどうしようなんて考えていなかった。

 ただ、みんなのこんな姿、大人たちが見たら騒ぎになっちゃう。


「こ、これね!人から貰った物だから大事にしないといけないの!だから見ちゃダメ!」


 俺様は笑顔を作ってごまかした。

 おばさんは残念そうに笑うと俺様から離れる。


「じゃあレイを見かけたら、今度は今日のおやつはお母さんが食べちゃいましたって言っておいて」


 おばさんはそういうと何も知らずにこの場から去って行っちゃった。


 どうしよう。

 俺様はもう一回水晶を覗き込んだ。

 さっきと同じ状況。耳を澄ませても子供たちの鼻をすする音が聞こえるくらい。

 どうしよう。

 俺様がお手伝い中にもちゃんと水晶を確認していればみんなの異変に気付けたのかな。

 すぐに助けに行けたのかな。

 みんな怖い思いをしなくて済んだのかな。


 ううん、まだ落ち込むのには早いよ。

 どうすればよかったかを考える前に、みんなを助ける方法を考えないと!

 となると、まずは協力者を募った方がいいかな?

 と思ったけれど、クレイたちは今日は森で修行だからどこにいるかわからない。

 しかも今日に限ってアルちゃんもついて行っちゃった。

 大人たちに教えて騒ぎになっちゃったら大変。

 じゃあケインはどうかな?


 と思って兵舎を訪ねたけれど、これまた巡回で不在!?

 みんなタイミングが悪すぎるよー……。

 村長もお歳だから話したところでどうにもならないし……。


 うーん、悩んでいる間にも子供たちに何が起きるかわからないよね。

 俺様がなんとかしないと!

 といっても、どうやって探せばいいの?俺様わからないよ。


「お?どうしたキャスヴァニア」


 と思いながら兵舎の前で立ち尽くしていたら丁度ケインが帰ってきた!

 協力者の出現!心強いね!


「あのね、あのね。大変なことになったの。こっち来て」


 俺様はいそいそとケインの腕を引っ張って近くの茂みの中に隠れた。

 ケインは不思議そうに顔を歪めながらちゃんと付いてきてくれる。

 俺様は小声でケインにお願いした。


「あのね。今から見て欲しいものがあるんだけど、絶対に騒がないでね。それで、どうしたらいいか相談に乗ってほしいの」


 ケインは何を勘違いしたのか微笑みを作ってわかったと言ってくれた。

 だけど、俺様の腕輪に映っている光景を目にして、口を押えて叫ぶのを我慢した。

 そして、怒った顔で俺様を睨みつけてくる。


「おい、これどういうこった!きちんと説明しろ!」

「それが俺様にもわからないの!とにかく、知っていることは全部話すから、どうするか一緒に考えて」


 俺様は話の順序を組み立てて、きっちりとケインに説明できた。はず。

 ちゃんとケインにも伝わったみたいで、顔色を悪くしながらも一緒に頭をひねってくれる。


「そうだな、俺の推理では子供たちはその宝の地図を頼りに移動していたはずだ。俺たちも地図通りに目指せば痕跡が見つかる可能性は高い」


 なるほど!ケインは頭がいいね。

 俺様は早速地図を広げてケインと確認した。

 地図にはご丁寧にぐにゃぐにゃと赤いインクで村から宝までの道が引いてある。

 だけど、絵が汚くてしっかりとした順序がわからない。


「はー、これだからガキの遊びっていうのは……せめてもうちょっときちんと描いてくれよ」


 ケインはため息をつきながら宝の地図を解読しようとしている。

 だけど、俺様には()()()()()()()()()平気だよ。


 スキル『トレジャーハント』を使用!

 宝が存在する地図にこのスキルを使うと、どんなに難解な暗号が描かれていようと直感的に理解できる。

 そして、その宝までの道順が視覚化されるんだよ。


「ケイン、宝までの道がわかったから俺様行けるよ!」

「こんなデタラメな地図でよくわかったな?だが、それならさっさと出発するか!」


 俺様が先に走るとケインは後を追って走ってきてくれた。

 視覚化された道に沿って二人で急ぐ。

 水晶を確認するとまだ変化はないみたい。

 拘束されているってことは、この子たちを捕まえた悪い人たちがいるんだよね?

 その人たちがみんなに手を出す前になんとか見つけ出さないと。


 一、二、三、四……うん、子供たちは全員いるみたい。

 アスレイナちゃんとレイくんもちゃんといる。

 ひとまずみんなに怪我はないね。


「おいおい、森の中じゃねぇか。子供だけで入っていい場所じゃねぇぞ」


 気づけば俺様達は森の中を走っていた。

 雪の上には子供たちの足跡がはっきりと残ってる。

 あと、その辺にスライムがうじゃうじゃしているのが見える。

 この森ってこんなにスライム居たんだね。

 でも、いくら低級モンスターでも子供の手には余る相手だよ。

 もしかしたらみんなも見えないところに怪我を負っているかも。


「待て!キャスヴァニア!そっちじゃなくてこっちに子供の足跡があるぞ!」


 ケインに呼び止められて俺様は道を戻った。

 ケインが指を指し示す方向には確かに子供たちの足跡があった。

 この辺をよく観察すると、俺様が進もうとした方角に獣の足跡がある。

 みんな、獣にびっくりして道を変えちゃったのかな?


「わかった、こっちをたどろうね」


 俺様たちは子供たちの足跡を追いかける。

 本来の道から外れちゃうと、この辺は茂みが多くて前が見づらい。

 俺様は慣れているけれど、ケインが遅れちゃってる。


「早く!ケイン!急がないと子供たちが危ないよ!」

「わかってらぁ!お前だけでも先行ってろ!」


 ケインが面倒そうに怒鳴るものだから、俺様は急いで先に行った。

 だけど、すぐに足を止めることになった。


 俺様が進んだ先には少し開けた場所があった。

 そこにはつい最近誰かがここを休憩場所に使っていた焚火の跡がある。

 そして、ここで子供たちの足跡が途絶えていて、代わりに大人数の大人の足跡が付いている。


 ケインが追い付いたタイミングで、俺様はこの大人の足跡を追う提案をした。


「ああ、おそらくこいつらがガキ共を攫ったんだろうしな。ったく、偶然見つけた子供を何の目的かは知らんが攫うとは」

「子供は高く売れるからだよー。女の子は特に」

「おいおいおい、冗談言ってる場合じゃねぇんだぞ……」


 冗談のつもりは無かったんだけど?

 ケインは呆れながらも足跡を追い始めたから俺様も追いかける。


 ……あれ?この先って確か……。


「あのね、この先には確か使われていない狩り小屋があったはずだよ。俺様、前に見たことがあるよ」

「でかしたキャスヴァニア!おそらくそこだ!」


 俺様は記憶を頼りに近道に向かう。


「ケイン!ここを越えたらすぐだよ!」


 俺様は大きくジャンプしながらケインに呼びかけた。

 何故かって?


 大きな亀裂があるから。


 ケインは崖際で急停止すると、死にそうな顔をしながら反対側に渡った俺様を睨んだ。


「お前ーーーッ!!殺す気かーーー!!」

「ごめーん!」


 俺様には渡れたけれど、ケインはジャンプでは渡れないみたい。

 困っちゃった。ここが一番の近道なんだよ?


「早く来てー!みんなが危なーい!」

「んな無茶を言うなー!」


 俺様とケインは叫んで何度かやり取りをした。

 ケインはどうしようか悩んでる。うーん、俺様が何かしてあげられることも無いし。


「あー!クソッ、わかった!ちょっと待ってろ、本気で飛ぶから!届かなかったら意地でも助けろよ!」


 ケインは飛ぶ覚悟を決めたみたい。

 だけど、流石に一、二メートルしか飛ばなかったら助けられないよ?

 と思ったら、ケインは大きく深呼吸をすると気合を入れた。

 そして、大きく吠えたと思ったら近くに生えている長くて太い木を全力で殴った!

 すると木は殴られた個所から勢いよく折れて、俺様のいる方角に倒れてくる。

 でも、長さが足りなさそうだね。このままじゃ橋代わりにはできないと思うよ。


 と思っていたら、倒れている最中の木の上にケインが飛び乗って、そのまま俺様に居る方角目掛けてものすごい勢いで走ってきた。

 そして、木の先っちょで大ジャンプ。

 だけどあと一歩届かない。

 慌てて俺様がケインの伸ばした手を取ってあげた。

 ケインは亀裂の底に落ちていく木を眺めながら一言。


「もう、死んでもやるか……」


 顔を真っ青にしてそう言った。

 俺様はケインの勇気を称えながら地面に下ろしてあげて、案内の続きをする。


「ここまでくればもう目と鼻の先だよ!」

「お、おう!よし、万全の準備で行くぞ!」


 ケインが剣に手をかけて気合を見せたから、俺様もカトラスに手を添えていつでも抜けるように準備した。


 そして、ついに見えた!狩り小屋!

 小屋の前には馬が四頭。

 そして、見張りらしき男の人が一人。


「あの装備、盗賊だな。子供を攫ったのもアイツらでほぼ間違いはないだろう」


 ケインは落ち着いた声で言った。

 俺様たちは見つからないように死角に回ってからで足を止めた。

 水晶を確認。まだ子供たちは無事だね。


「作戦、どうしよう?」


 俺様はヒソヒソとケインに相談する。

 ケインはそろりそろりと忍び歩きで小屋の外側を見て回って戻ってきた。

 それで俺様に状況を説明する。


「小屋には大人が通れるほどの大きな窓があるが、手前だけ明かりがついてて奥はついていない。水晶に映っている部屋は薄暗いから全員奥に居るんだろう」


 ケインは作戦を提示してきた。

 まず、俺様が表で騒ぎを起こす。

 盗賊たちが異変に気付いてこちらに気を取られているうちに、ケインが窓から奥の部屋に侵入して子供たちを助け出す。

 シンプルでわかりやすい作戦でいいね!

 俺様も助かるよ。


「よし、じゃあ一、二の三で行くぞ」

「オッケー」


 ケインは真剣に小屋を見据えると走る構えをした。

 俺様も出撃準備万端。

 よし、じゃあ、一、二の、三!


 俺様は小屋の前へ飛び出した。


「あ?なんだ女」


 見張りの人は盗賊なのに大盗賊の俺様のことを知らないみたい。

 まあ死んだことになってるみたいだし、無理もないかも?

 でも、悪い盗賊なら懲らしめちゃってもいいよね?

 もし人違いだったらごめんなさーい。

 俺様は大きく息を吸って、スキル『挑発』を使用した。


「テメェら!俺様の縄張りで好き勝手しようったぁいい度胸だ!全員まとめてぶっ殺してやんぜ!」


 俺様の怒号を浴びせると、見張りの奴は冷や汗を吹き出してたじろいだ。

 小屋の中に居た野郎どもが挑発の効果でぞろぞろ出てくる。


「な、なんだ?やんのかこのクソアマ!」

「上等だ!こっちが何人いるかわかってんのか!」

「へ、へへっ。俺らに喧嘩売ったことを後悔させてやる」


 あーん?馬が四頭なのに盗賊は七人かよ。

 仲良く二人ノリのお客様が三組は居るみてぇだな。

 ハッ。幼稚過ぎて鼻で笑っちまったぜ。


 おっと、早速一人俺様に突っ込んできやがった。

 が、そんなトロい動きじゃ止まってるも同然だ。

 俺様は横に避けながらカトラスを抜き、柄で強めに首後ろをぶっ叩いてやった。

 一発かよ。チッ、張り合いねぇな。


「ひ、怯むな!まとめてかかれ!」


 今度は全員で獲物を抜いて一気に突っ込んでくる。

 おいおい、あぶねぇぞ?友達を殴らないように注意しな!

 俺様はその場で跳躍し、全員の攻撃を避け、空ぶった獲物の上に一旦降りてから奴らの背後に回った。

 あーあ、やっぱり空振りが互いに当ててやがる。

 素人かよコイツら。

 おっと、無事だった奴が一人こっちに向かってきたな。

 学習しねぇなぁ。だが、ちょっとくらい遊んでやるか!


 相手の獲物はトゲこん棒か。コイツは当たったらいてぇな。

 つまり当たらなけりゃいいってことだろ?

 相手の動きに合わせて右、下、右、左、右、と体を最低限に動かして避ける。

 こん棒は武器を扱う時の動きが大きくてわかりやすくて助かるぜ。

 おっと、遊んでたら他の奴らも起きてきた。

 片手剣に短剣とこん棒か。面白味のない装備だなぁ?

 ま、かかって来いよ。まとめて相手してやるぜ?


 後ろからの攻撃はバク転で回避。ついでに横っ腹に肘打ちを一発くれてやる。

 すかさず突っ込んできた二人には飛んで、両足でそれぞれの顔面にキックをお見舞い。

 着地を狩ろうとした奴には、そのまましゃがんでスライディングしながら金的。

 他二人の足もカトラスをもう一本抜いて、背で引っ掛けて転ばせてやった。


 体勢を立て直して突っ込んできた奴にはその場で回転をして、勢いを乗せたカトラスで獲物を叩き落とす。

 そのまま全力で腹を柄で殴って二人目ノックダウン!


「なんだこの女!?」

「俺たちで遊んでるとしか思えねぇ!」


 はっ、今更気づいたのかよ?だがそろそろお開きだ。

 ケインもそろそろみんなを助けてると思うからね。

 えっと、何か拘束できそうな物はないかな?

 あっ!馬を繋いでいる場所に長いロープが放置されてる!

 ちょうどいいからロープを手に取って、盗賊の周りをグルグル回る。

 逃げようとしてももう遅いよ。俺様の足の方が早かったからね。


 はい、残りのみんな拘束完了。

 ぎっちぎちに縛ったからちょっときつそうだけど、これに懲りたら反省してね。

 さてと、ケインはうまくいったのかな?

 俺様は小屋に近づいてみた。


 次の瞬間、小屋の扉が乱暴に開いて、中から小柄な男の人が出てきた。

 男の人は同じく盗賊で、俺様を見るなり顔を真っ青にする。


「う、動くな!このガキがどうなってもいいのか!」


 うそ、アスレイナちゃん!?

 拘束は解かれている状態だけど、この盗賊の男に人質にされちゃったんだ。

 細い瞳に涙を溜めて無言で助けを求めてる。


「キャスヴァニア!しくじった!一人隠れてやがった!」


 中からケインの焦る声。

 みんなを解放して安心しきってたところにこの盗賊が現れて、アスレイナちゃんを人質の取られちゃったのかな。


 盗賊はアスレイナちゃんに刃物を突き付けながら、ゆっくりと馬の方へと逃げていく。


「いいか、このまま俺を見逃せ……!じゃないとこのガキを殺すぞ……!」


 どうしよう……。

 このままじゃアスレイナちゃんが攫われちゃう。

 だからと言って下手に動くとアスレイナちゃんが殺されちゃう。

 打つ手が無いよ……。


 盗賊は馬に到達すると、馬を繋いでいたロープを切って飛び乗った。

 その勢いで短剣を放り投げた!

 今しかない!


 俺様は走り出す馬の後を全力で追いかけた。

 俺様の足なら馬の足の速度にも負けないからすぐに追いついちゃうもんね!

 待ってて!アスレイナちゃん!


 だけど、そううまくもいかないみたい。

 盗賊が走る馬の口に何かを放り込むと馬の走る速度が一気に上昇した。

 足が速くなる競争薬系を染み込ませた草かな?

 とにかくそれがなんでもまずいよ!このままじゃ逃げ切られちゃう!


 あれ、アスレイナちゃんが逃走に必死の盗賊の腕に何かを巻いてる。

 俺様は腕輪の水晶で二人の様子を確認した。

 水晶の中に映っていたのは、監視される側の腕輪を付けた盗賊。

 アスレイナちゃんは俺様に視線を送って合図をしている。


 なるほど、そういうことだね。

 俺様が今付けている腕輪に魔力を込めれば、あっちの腕輪の所有者が全力でビリビリするってカナトさんが言ってた奴だ。

 任せてアスレイナちゃん、俺様、全力で魔力を込めるからね!


 いけ!!俺様の全力のビリビリ攻撃!


 耳が割れそうなほど大きな音と共に、目の前の盗賊はアスレイナちゃんを抱きかかえたまま大きく飛び上がった。

 そして、空中でアスレイナちゃんを手放して二人とも落下してくる。

 間一髪のところで俺様は地面すれすれを飛んでアスレイナちゃんをキャッチした。


「だ、大丈夫?!」


 俺様は今の衝撃がアスレイナちゃんにも伝わったんじゃないかなってひやひやした。

 だけど、アスレイナちゃんはぽろぽろ涙を零しながらにっこり笑った。


「えへへ、大丈夫。助けてくれてありがとう、キャスヴァニア」


 よかった。全然平気そうだった。

 俺様はようやく安心できて、自然と笑顔が出てきちゃった。


「ごめんね、助けるのが遅くなっちゃって」

「いいよ。だって私生きてるもん」


 泣きながらにこにこするアスレイナちゃんを抱えたままゆっくりと立ち上がって、俺様はビリビリさせた盗賊の様子を見に行った。


 目を真っ白にして、全身を震わせながら泡を吹いている。

 えー……こんなのを俺様に付けてたの?

 カナトさん、あんなに普段ほわほわしてるのに怖い人だね……。

 もし間違えて魔力を送ってたらって考えちゃった。

 アスレイナちゃんもいつもは細い目を丸くして驚いてる。


「今回は助けられたけれど、この腕輪は封印しようね……」

「うん……」


 俺様とアスレイナちゃんは固い約束を交わした。


*


 俺様達は村に子供たちを送り届け、ついでに盗賊たちも兵士に突き出しておいた。

 レイくんたちはお父さんお母さんにこってり叱られちゃった。

 俺様とケインは逆にみんなから褒められた。

 悪い気はしないけれど、良い気もしない。

 だって、俺様がちゃんと見ていればもっと早くに気付けた事件だったから。

 そうやって落ち込んでいるとケインは俺様の肩を強く叩いて励ましてくれた。


「未来のことなんて誰にもわからねぇ。だから、未来がわからなかった過去の自分を責めるな。お前はよくやった」


 って。

 ケインがそうやって励ましてくれると、俺様もちょっとだけ元気が出てきた。

 なんだか懐かしいなぁ。

 ケインってノリちゃんに似てるんだよね。

 誰かが落ち込んでいるとすぐ励ましてくれたところとか。

 ちょっと乱暴だけど相手想いのいい人な所とか。


 ノリちゃん、俺様を殺しちゃって悲しんでるかな。

 本棚倒しちゃったくらいで死ぬなんて思わないもんね。


 あれ、なんで本棚を倒しちゃったんだっけ。

 二人で遊んでたんだっけ。

 うーん、なんでかは忘れちゃった。


 とにかく、今日はもう遅いし帰ろうかな。

 村の人からまたお礼で食べ物を貰ったから、カナトさんに料理してもらおうっと!

 いっひっひ、今日の夕ご飯何かなー!

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