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004 知らない母親と知っている父親

『おはよう、クレイ』


 ベッドの上から朝の挨拶を念じる。


『おはよ、アギラ』


 何故なら僕はクレイの中に住んでいるから。

 不安だったクレイとの初会話は、なんと思った以上に朗らかに、かつ円滑に終わった。

 クレイは早々に僕の存在を認め、僕の罪を許した。

 理由は、僕みたいな奴が悪い奴なはずないから。

 なんとも甘えた理由だ。


 今現在、僕らがいるのはクレイの家。

 村から少し外れた場所に隔離されて建っているここに、クレイは一人で暮らしているらしい。

 この歳で不便な場所に一人で住まわされているせいか、クレイはなんでもできる。

 すごいけれど、なんだかとても寂しい。

 本当は両親にとびっきり甘えるべき歳なのに。


『そういえばアギラ、お前は俺の見えているものが全部見えているのか?』


 僕がクレイに話しかけるとき強く念じるように、クレイも僕に話しかけるときは念じて話しかけるようになった。というかそうするようにアドバイスした。

 でないと、外で一人で虚空に向かって話し続けていたら、いよいよクレイが危険人物扱いされてしまう。


『うん、見えるよ。音も聞こえる。体の痛みも、全部わかる』

『そうか』


 申し訳なさそうにしているのがわかる。

 クレイはお人好しらしく、僕が全ての元凶だと言っているのに、僕に都合が悪いことがあるとすぐ自分のせいにするんだ。むしろ自分を大事にしてほしい。


『そうだ、その内昔の話とか、アギラから聞きたい。俺の知らないことがたくさんありそうだ』


 クレイは朝ごはんの豆を煮込みながら好奇心満々に頼んできた。

 さて、どうしたものか。

 ぶっちゃけ、一切話したくない。

 だって、僕に話せることといえば、相手の人体を最大限に有効活用した拷問術や、効率的な精神的苦痛の与え方くらいだ。

 こんなの話したら誰だってドン引く。

 百歩譲って魔王様の侵略日記と称して、どの町をどんな風に滅ぼしたかを詳細に語ることくらいしかできない。話のレパートリーが壊滅的すぎる。前世のゲームや漫画の話だったら好き放題話せるんだけど。


『そうだね。クレイに僕がとんでもない魔王だってわからせてあげるよ』

『へー』


 この子、本当に僕がやらかしてきたことを、一切知らないんじゃないかってくらいドライ。

 もっと関心持ったり、気持ち悪がってくれてもいいじゃん。


『クレイは僕のこと怖くないみたいだけどさ、僕がやってきたこと知ってるの?』


 流石に気になって聞いてみた。

 これで全く知りません、って返事が返ってきたら魔王様の侵略日記を引っ張り出さざるを得ない。


『知ってる。大勢殺して、大勢に嫌われた。それで、勇者様に封印された時、過程で母さんも死んだ』


 クレイの調理の手が止まった。

 想像以上に詳しかった。

 そうか、母親の最期を、この子は知っているんだ。


『誰から聞いたの?』

『村長から。封印は二つの過程があって、一回目が力を削いで短時間無力化する低度封印、二回目が低度封印を物や生物に宿して長期間のものにする高度封印。一回目はそれほど危険ではないけれど、二回目は膨大な魔力と術者の命と引き換えに発動する。一回目が勇者様、そして二回目が母さんだった』


 なるほど、脳筋だったから封印にあまり詳しくなかったけれど、二回目は命も消費するんだ。これって不死身の僕が使ったら死ぬんだろうか?教えて雑学王。


『そっか。お母さんのこと、恨んでる?魔王なんかを封印しやがってみたいに』

『ぜんぜん。俺の母さんがどんな人だったかは知らない。だけど、悪い人じゃないって信じてる。俺の身体にアギラを封じ込めたのにも、何か理由があるはずだ』


 まっすぐ、真剣な目で煮えたぎる豆のスープを見つめながらクレイは僕に伝えた。

 その念は、半分はクレイ自身に言い聞かせるような念じ方だった。


『あ、スープが焦げる』


 クレイは慌てて鍋をかき混ぜる。

 鍋の中をかき混ぜるように心の中も濁して、本心を隠そうとした。

 母親に疑念がないわけではないようだった。


『クレイ、あのね。僕は少しだけクレイのお母さんを知っているよ』


 再びクレイの手が止まる。

 僕の言葉を遮るでもなく、話の続きを急かすでもなく。

 ただ、僕の言葉の続きを待っていた。


 あの光景を思い出す。

 封印の術式の影響で苦しそうにしながら、それでもにっこりと笑顔を浮かべていた。

 クレイは母親似なんだろうなというくらい髪の色も目の色もそっくりで、だけど母親の目はまあるくて似ていなかった。


『クレイのお母さんは、とても穏やかそうな人だった。もうすぐ自分が死んでしまうというのに、クレイのことを心配していて、クレイのお父さんにひたすらお願いしていたよ。クレイをよろしくって』


 クレイは鍋を火から下ろして火を消した。

 そして、一言、口からそうかとだけ呟いて、器に豆のスープをよそった。

 クレイの心は温かかった。

 今まで抱えていた疑念が晴れて嬉しかったのかもしれない。


『あと、クレイのお父さんは』

『やめろ、アイツの話はするな!』


 一気に心の温度が冷え込んだ。

 良かれと思って父親の話をしようとしたけれど、クレイにとってはこの上ない地雷だったようだ。

 もしかしてRPGや少年漫画などでよくある展開、「母さんや僕を捨てて勝手に出て行った父さんなんて大っ嫌いだ」症候群だろうか。

 確かにクレイの父親は僕の尻ぬぐいのために旅に出て行ってしまったわけだし、無理もない。

 そうだとしたら、この問題を解決できるのは当人間の話し合いしかない。

 僕にできることはない。時間が解決してくれるさ。


『ごめんね』

『……悪い、俺もアイツのことになるとすぐカッとなる。それだけ大嫌いなんだ』

『オッケー、話題に出さないようにするよ』

『助かる』


 母親もそうだけれど、父親もいい人そうだったから、いつかは和解してくれたらいいな、なんて願う。でも、その時は今じゃない。今はとにかく食事でも楽しもうか。


 広い食卓に置かれた一人分の豆のスープと芋のペースト。

 質素だけれど、久々の食事だ。五感が共有されているなら味もわかるだろう。少し楽しみ。

 クレイは豆のスープを冷ましながら口に運ぶ。

 うーん……いかにも豆を煮たお湯って感じの味だ。

 芋のペーストは……これまた芋を潰したって感じの味だ。まだこちらのほうが甘みがあってマシ。

 しかし、薄味が大嫌いな僕にとって、どちらもクソまずいことは変わらない。

 せめて塩!塩が欲しいよ!


『クレイ、塩はない?贅沢なことを言っていたら悪いけれど』

『悪い、買い物の時、嫌がらせで調味料関係を買わせてもらえないんだ。一応あるにはあるけれど貴重だ』

『そんなこと謝らないでよ!むしろメインの食材を売ってくれててよかった!君が今まで餓死してこなかったことに感謝!』


 火種は僕だが、許せない。そこまでいびる必要があるかな。

 僕がおいしいものを食べたいだけかもしれないが、クレイにもちゃんとおいしいものをいっぱい食べてほしい。今が舌を鍛える大事な時期でしょうが。

 僕もこの頃に食べたゼリーが大好物になったんだからさ。


『いや、食材も売ってくれないことが多い。今俺が口にしている食料は……』


 言葉も食事の手も止まってしまった。

 クレイは何か覚悟を決めているようだった。


『これは、全部父親が寄越した食べ物だ。アイツは村の中心に住んでて、死なない程度の食事を俺に送ってくる』


 スプーンを持つ手が震えている。

 相当大嫌いなんだろう。

 自ら話題に出すだけでも覚悟がいる程度には。


 というか、父親今いるんだ。

 てっきりまだ世界中放浪して、僕の跡片付けしてくれているものかと。

 でもそうか。九年も経てば片付く、かな。

 ちょっと僕が暴れた規模と残した魔王軍のことを考えると、まだまだ時間がかかりそうだけれど。

 あの白おじさんが頑張ってくれたのかな?ありがとう、白おじさん。


 あれ、ちょっと待って。

 なんで父親がいるのに別居しているんだ。

 あの時、クレイの母親が必死に頼んだのに、なんでクレイを一人にさせているんだ。

 言われなくても迎えに行く?大ウソつきじゃないか。

 ああ、クレイが父親が嫌いな理由がわかったよ。


 いや、流されるな僕。落ち着け。よくよく思い出してみろ。

 クレイの母親と話す、クレイの父親の声を。


 姿は見えなかったけれど、とても優しい声をしていた。

 柔らかく、飄々としていてとらえどころのない声。

 だけど、約束した時の声には芯があった。

 絶対に守ると誓った芯が。

 その時の声は、しっかりとしていたんだ。いい加減ではない。


 そんな人が、愛する人との死に際の約束を破るのだろうか。


『それ、ほんとにお父さん?』

『ああ、認めたくないけどな』

『話題に出さないようにするって言ったけれど、その人が本当にクレイの父親かどうか気になるから、確認したいんだけど』

『なんだよ』

『君のお父さんは、君のお母さんと君のこと、絶対大好きだよ。違うなら、そいつは君の本当のお父さんじゃない』


 クレイの手にしていたスプーンが、派手な音を立てて床に落ちた。


『嘘だ。俺にはあのクズ親父しかいない』


 信じられない、信じたくないという心の葛藤がビシビシと伝わってくる。

 今まで父親と信じてきた大嫌いな男が、全くの赤の他人だったとしたら。

 僕の想像だけれど、この嫌い方は父親からも嫌がらせを受けてきたんだろう。

 肉親から受ける傷っていうのは、避けられないものだ。

 他人とは違って拒んではいけないと、無理にでも受けてしまうものだ。

 それが例え大嫌いな相手であろうと、肉親だから仕方ないって、諦めてしまうんだ。

 血の繋がりのせいで、クレイはそんな痛みや苦しみに耐えてきたんだ。


 でも、それが他人だったら?

 今まで肉親だと思い込んでいた相手が血の繋がりもない他人で、そんな奴のために声を上げるのも我慢してた。その苦労は全部しなくてよかったものだとしたら?

 クレイが信じたくない気持ちもわかる。

 僕だったら、そもそも家庭内暴力の時点で家出か、警察に相談しているけれど。


『僕は君のお父さんを声だけでしか知らない。だから声を聞けばわかると思う。わざわざ会いに行けとは言わないけれど、町中ですれ違った時とかは教えてほしい』


 クレイは、黙って落ちたスプーンを拾い上げて、服で拭うと食事を続けた。

 今のクレイの心はもやもやとした落ち着かない色をしている。

 今まで知っている父親とは別に、本当の父親がいるとしたら、会いたいんだろうか。

 やっぱり、自分のことを捨てたと思っているんだろうか。

 今、クレイは心の中を整理している。

 どうするかはクレイ次第だ。


 食事が終わり、器を片すとクレイは決心したように口を開いた。


『父親に会いに行く。アギラ、俺の本当の父親かどうか判断してくれ』


 クレイは強い。

 まだ九歳なのに、判断を先延ばしにしたいであろう事柄を、自ら白か黒か決着をつけることを決めた。

 自分の父親を知ることでこれから先の人生、大きく変わってしまうかもしれない。それはクレイにとってプラスに動くか、マイナスに動くかは僕もわからない。

 もしかしたら、僕が眠っている間に父親の心変わりがあって、クレイが嫌いに嫌っている人物になり果ててしまったのかもしれない。

 他にもイレギュラーな答えが返ってくるかもしれない。


 それでも、クレイは自分の父親を知ることを決意した。

 これからの人生に大きく変化を与える決断をした。

 ならば、僕もそれに応えよう。


『わかった。クレイ、本当の父親かそうでないかはまだわからないけれど、父親を知る覚悟はあるかい?』

『ああ』


 クレイの決意は固い。


*


 村の中心までやってきた。

 昨日は俯いて歩いていたけれど、今日はまっすぐ前を向いて歩いた。

 クレイの決意が感じられた。

 相変わらず村人たちからの視線は冷ややかで気持ち悪いし、陰口も延々と聞こえてくる。

 それでもクレイは視線を落とさなかった。

 まっすぐ、目的を達成するためだけに前を見ていた。


 ついに父親の家の前までやってきた。

 村の中では中の上くらいの家。庭もあって、なかなかの裕福さが伺える。

 クレイが住まわさせられている小屋とは大違いだ。

 クレイは到着して間髪入れずに扉をノックした。

 すごい勇気だな。こういうのってまず扉の前で心の準備をしてから、って決まってない?


 中からゆっくり足音が近づいてくる。

 そして、扉が開かれた。


「はい、どちらさま……ってお前かクレイ!」


 中から出てきたのは、見るからにがり勉研究者という感じの男。丸眼鏡に小さい黒い瞳。丸く小さな鼻。薄汚れた洋服。クレイと似ているのは髪の緑色くらいだ。

 そして第一声でわかった。

 このせっかちで図々しい声は、あの穏やかな声とは似ても似つかない。


『この人は君のお父さんじゃないよ』


 クレイの中の時が止まった。

 ただ、時はすぐに動かされた。


「お前がいると私まで邪魔者扱いされるのだ!消えろ!」


 男はそういってその辺の土を掴んでクレイに投げつけた。

 クレイは避けなかったから土クズは体にべしゃっと当たる。

 それでもクレイはそこをどかなかった。


「はんっ、痛い目を見ないとわからないのか!次は石を投げるぞ!さっさと」

「うるさい、実の父親でもないのに偉そうに」


 男の手が止まる。

 男の顔は驚きというより、恐怖に染まっていた。


「お前、そのことを誰から聞いた」

「お前なんかに教えるか。長年俺をだまし続けてきた偽物の父親なんかに」

「なあ待ってくれ。誤解なんだ。私は確かにお前を邪険に扱ってきたが、嘘の父親ではない。なあ、信じておくれ」


 必死に否定する姿はまるで命乞いだ。誰かから脅されでもしているんだろうか。


「もうお前の言葉なんか信じない」


 男はその辺の石を掴み取ると力いっぱいクレイに向かって投げつけた。

 クレイの身体が衝撃と痛みで揺れる。


「うるさい!!あと一年なんだ!あと一年すればお前の父親が帰ってくる!その時まで、お前はただ私のことを本物の父親と認識していればいいんだ!それが約束なのだ!村長からお前の世話と引き換えに、私には大金が約束されているのだ!黙って私の言うことを聞け!!」


 聞いてもないのにべらべらと話してくれた。

 自分がクレイの本当の父親ではないと、自白したんだ。

 この男が恐怖したように見えたのは、大金を失うのが怖かっただけなんだ。

 こいつは、クレイのことを金づるとしか思っていない、ただの卑しい男だ。


 クレイはその場から走り出した。

 周りの人なんてお構いなしに、村を駆け抜け、森を駆け抜け、昨日僕らが話した湖の畔までノンストップで駆けてきた。

 そして、湖の傍で立ち止まると、はち切れそうな肺を鎮めながら呼吸を整えた。


 僕は話しかけるでもなく、クレイが呼吸を整え終わるのを待った。

 今は、クレイから話しかけてくるのを待つべきだと理解していた。

 そして、クレイの息が穏やかになって、幾分かの時が経った。


『なあ、俺の父親ってどんな奴?』


 爽やかな心情だった。

 全ての気持ちをリセットして、なんでも受け入れる姿勢でクレイは僕の言葉を待った。

 クレイの心と同じように、辺りには爽やかな風が吹いている。

 僕も清々しい気持ちになった。


『うーん、この風と同じかな。穏やかで爽やか。ちょっといい加減な所も感じたけど』

『母さんと仲良さそうだった?』

『もちろん。それにお母さんと一緒で君のこと大好きだった。いつか絶対に迎えに行くとも言ってたし……さっきの人はあと一年って言っていたから、あと一年待てば会えるんじゃないかな』

『そうか』

『それに正義感に厚い人だったね!間違いない!僕の悪事の跡片付けするために、今は一生懸命戦っている最中だと思うよ!』

『そうかぁ』


 クレイはその場にどさっと腰を下ろすと、自信満々に笑った。


『なら、俺の父さんは自慢の父親だ。人を守るために働いてる。誇らしい。土産話が楽しみだな』


 空のかなたを見つめながらクレイは笑った。

 でも、まだ僕には不安があった。


『ねぇ、君のお父さんはきっと良い人なんだろうけれど、君は恨まないの?僕を封印するためにお母さんを差し出したとか、赤ちゃんだった君を一人置いて出て行ったこととか』


 少し聞くかどうか悩んだけれど、聞かずにはいれなかった。

 父親はいい人でした、終わり。で片付けてしまったら、実際に会った時に期待に裏切られるからだ。


『突っかかりがないわけじゃない。思うところはたくさんある。でも、それらは全部父さんが帰ってきてから聞く。今はまだ会ったことがない父親に夢を見させてくれ』


 前々から思っていたけれど、風当りの強い環境で育ってきたからか、クレイは歳以上に考え方を割り切った思考をしている。もっと年相応に幼くいるべきだとは思うけれど、周りがそうさせてくれない。

 

『よし、じゃあクレイのお父さんが帰ってくるまでは、僕をお父さんと思って接していいからね!』


 だからクレイをめいっぱい甘えさせてやろう作戦を発令する!

 さあ、日頃の鬱憤も愚痴も、まとめて僕に吐き出せい!


『いや、アギラはどっちかっていうと弟』

『うそでしょ!?年上ですらないの!?』


 ここ最近で一番ショックを受けた。

 魔王時代で数百歳、最低でも前世享年十九歳の僕が、九歳の少年に年下扱いされている。

 幼稚園児に喧嘩で負けた中学生のような気持ちだ。実に悔しい。


『厳密な年齢は忘れたけれど、我、数百歳ぞ!』

『信じられないな』


 けらけらと意地が悪そうに笑うクレイ。

 くっそう、勉強は確かに苦手な部類だけれど、なんとかこう、連立方程式とか本能寺の変とか古典文学とか小難しい言葉を並べて、ぎゃふんと言わせたい。

 って、本能寺はこっちには無いし、古典文学も全然様式が違うよね。

 一人で勝手に馬鹿をやらかしている気分だ。非常に空しい。


『でも、アギラのことは頼りにしている。俺の唯一の友達だから』


 ほわっと、僕の心があったかくなった。


 友達。

 前世の僕が強く望んでいたもの。

 友達ができて、強い体があったなら、チャンバラとかやってみたかったんだよね。

 今、クレイに()()って言われて最高にうれしい気分だ。

 いつか、クレイと力いっぱい遊びたい。


 って、ダメだな。

 僕が力いっぱい遊んだらクレイが消滅する。


『もしかして、友達って思っているの俺だけ?』


 いけない、僕が友達という言葉の響きに酔いしれて返事を忘れているうちに、クレイが不安がってしまった。


『ノーノ―!ウィーアーベストフレンド!親友!最高の仲間!オーケー?』

『うわ、なんだそのテンション』


 僕の返事に安心して、クレイが笑う。

 僕も、嬉しくて笑う。笑っている顔の感覚は無いけれど。

 ここには僕らしかいない。

 クレイをいじめる子供たちも、陰口を言う大人たちもいない。


 だから笑おう。めいっぱい。

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