037 アルビノスライムアルステムの初めての町探索
「おはよー!アルちゃん!」
私はキャスヴァニア様にお声をかけられ、試練の箱から目覚めました。
本日は朝から一際冷え込んでいますね。
気にしておりませんが、私のいる低位置はとても温度が低い様子。
キャスヴァニア様もさぞ足元が冷えていることでしょう。
私は炎魔法を調節し、火を発生させずに室温だけを上昇させ、自然魔法で緩やかな風を送って部屋中を暖めます。
「ありがとーアルちゃん」
「おはようございますキャスヴァニア様。どういたしまして」
キャスヴァニア様は私を抱えて部屋を出ると、生活スペースへと足を踏み入れます。
すると、既に皆さまお揃いのようで、朝食の香りと温和な声が我々を出迎えます。
私は部屋に到着するなり先ほどと同じように暖めます。
そして皆様に挨拶の返事を。
これが何事も無い冬の朝の風景です。
しかし、本日は少々違うご様子。
「なあ父さん。アギラと相談したんだけど、そろそろ俺も町に行きたい」
「お、いいっすね!ちょうど年明けましたし!」
おや、本日は新年最初の日なのですね。
人類の皆様はこの日をありがたい日として祝う習性があるのだとか。
しかし皆さま、まるで打撃魔法で後頭部を殴られたようなお顔。
カナト様だけが穏やかな表情をしております。
『新年だったらもっとやることいっぱいあるでしょうが!事後報告しないでよ!』
とても元気のよろしいアギラ様のお声が見えます。
大変に怒っている気持ちを、感情のままにカナト様にぶつけているご様子。
「いやー、だってこの村ではそんなに盛大に祝わないっすし」
『だとしても僕らだけでお祝いするとかさぁ……』
「なら、今日はお祝いついでにみんなで町に行きまっしょ!」
カナト様とアギラ様の口論はいつ見ても愉快な物です。
しかしみんな、と言いますと私も含まれているのでしょうか。
私はこの家で村の様子を眺めながら、ゆるりとした時間を過ごすことこそが幸せなのですが。
「俺様行けないよー。指名手配犯だし、死んだことになってるし、村の手伝いもあるからー」
「じゃあキャスヴァニアちゃんにはお土産を買ってくるっすよー。何がいいっすか?」
「えーっと、食べ物たくさん!」
キャスヴァニア様も辞退なされたようなので、私も遠慮をしておきましょう。
「では私も、この家を守らせていただくので」
「え、アルも行かないのか」
なんということでしょう。
クレイ様が私が不在の町散策を悲しんでおられます。
「これ以上減ったら父さんとアギラしか一緒に行ってくれる人居ないな……」
『寂しいよね。ちゃんとした理由があるキャスヴァニアはともかく、何の予定も無いアルまで来ないのは』
クレイ様は純粋に私の不在を悲しんでおりますが、アギラ様はそれを見かねて同調し、私に脅しかけるように遠回しに来るように伝えてきます。
脅さずともそれがお二人のお望みならば私も行かせて頂きますよ。
「では私もご同行させていただきます。ああ、大勢の人がいる町。少々緊張してしまいますね」
「大丈夫だ。俺たちが一緒にいるから」
なんと心強いクレイ様のお言葉。
私はスキル『変化』を使用し、町へ出るために人の姿へ擬態しました。
『行くのはアーデンモルゲンでいいよね?それ以上遠いと転移魔法でクレイを連れていけない』
「そうっすねー。じゃあ朝食食べたらアーデンモルゲンで遊びましょー」
本日の方針が決まると、皆様はカナト様の用意した朝食に手を付けました。
私も人の姿で食事を。
ふむ、本日も私の好みに届かないお味。
ですが、これもまた美味ですし、作って頂いている身として文句は言えません。
私は全て頂き、皆様がご出発の準備を終えるのを待ちました。
*
おお、これが町。
まだ外壁の外ですが、私にはわかります。
村とは比べ物にならない魂の気配の津波。
これはこれは、とても観察のし甲斐がありそうですね。
「これが町か……入口に人がたくさんいる」
「クレイは人攫いに会っちゃうと困るんで、僕かアルから絶対に離れないようにしてくださいねー」
「わかった。気を付ける」
クレイ様は約束を交わし、カナト様から加工した鉱物の塊を受け取りました。
「はい、今日のお小遣いっす」
『子供に金貨一枚を渡すな!大金過ぎるよ!』
ほう、これが通貨ですか。
等価交換の取引を円滑に行えるようにと作成された人類たちの制度ですね。
しかし、アギラ様に叱られたカナト様は渋々と金貨と小袋を交換します。
「じゃあハイ。大銀貨一枚分の小銭セットっす」
『それでも多いんだけど……クレイの金銭感覚狂っちゃうよ』
「大丈夫だ。大金だってことに気を付けるし、無駄遣いはしない」
アギラ様は少々不満の様子でしたが、クレイ様に言い聞かされて引き下がりましたね。
いつでもアギラ様はクレイ様のお言葉に弱いですね。
「あ、じゃあアルくんにもハイっす」
おや、私にもクレイ様に与えられた物と同じ小袋を頂けるのですか。
買い物、という行為は初めてですので、少々楽しみです。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
私が小袋を大切にしまうと、皆様町の中へと歩いて行かれます。
遅れぬように私もクレイ様方について行きます。
町へ入ってみると尚の事凄まじい人々の数。
覚悟はしておりましたが、これは愉快ですね。
「すごい!いろんな店がたくさんある!」
「こらこら、はしゃぐと目立つっすよー」
クレイ様は私同様、初めての町に感動しているご様子。
私も私で、今までに見たことの無い品の数々に胸が躍っております。
「よお!そこの羽振りの良い兄ちゃん!」
おや、私に向けた言葉が人気の少ない道から発せられました。
呼ばれたのならば少々お話をしてみましょうか。
「カナト様、あの方に呼ばれましたので行ってきてもよろしいでしょうか」
「え、どの人っすかー?」
カナト様が私の指し示す方角を確認すると、心に一瞬の歪みを見せました。
「いやー、あれは賭博の誘いっすよ。行かない方がいいっす」
賭博。
なるほど、あの方の後ろで感じる気配はソレですか。
人と人が賽を投げ、その出た目に合わせて勝敗を決め、負けた方が賭けた額の全額を勝者に持っていかれています。
しかし不思議ですね。
「賭博というものは、勝敗がわからないゆえに成立するものではありませんでしたか。彼らは賽の出目を故意に操作して自分の勝ちへと導いているようですが」
「ぶふっ」
おや、カナト様には私の発言の何かが面白かったご様子。
しばらく声を殺して笑うと私に囁いてきました。
「それがわかるなら行ってきてもいいっすよ。ただし、アルが今言ったのはルール違反なんで、見つけたらすぐに言うといいっす」
「なるほど。わかりました」
私はカナト様に言われたがままに私を呼んだ人の元へ向かいました。
「へっへっへっ、兄ちゃん、賭けに興味はあるかい?」
「そうですね。面白そうです」
「そうかいそうかい!ならこっちに座りな!」
この方は荒っぽい性格のご様子。
私の手を強引に引っ張ると奥の席に無理やり座らせました。
強引にせずとも私の足で向かわせていただくのですが。
そして、この方自身が私のお相手のようです。
私と同じく席に着くと二つの賽を入れた入れ物を振り、台の上へ賽の目が見えないように置きました。
「ルールは簡単!この入れ物の中の出目の合計が奇数か偶数かだ!」
「とても単純なルールですね」
「へへ、そうだろ?じゃあ早速だがいくらを賭ける?」
いくら……と言いますと通貨の事ですね。
彼らもそれが狙いのようです。
私はカナト様から頂いた小袋から一番価値の低い硬貨を見せました。
するとお相手様は如何にも機嫌を損ねた表情で私を睨みつけます。
「おいおい、冗談はその派手な衣装だけにしてくれ。持ってるんだろ?」
持っている、と言われましても。
仕方ないので私は中に入っている中くらいの銀貨を三枚、お相手様に見せました。
「ちっ、しけてんな。そこに置け」
これでもまだ足りなかったようですが、不満の表情のままゲームの進行を始めました。
「おら、言っとくがイカサマは無しだぜ。そっちが決めな。奇数か、偶数か」
ふむ、では賽の魂を見ずに運頼りで決めてしまいましょう。
「では奇数で」
「おう、なら俺は偶数だな!よし、開けるぞ!」
するとお相手様は入れ物に手をかけ……。
『最初は勝たせて調子に乗らせてやるか』
おや?不穏な心のお声。
私が即座に彼の手を取ると、彼の指が掴んでいた賽が地面へと転がりました。
「ちょっとお待ちください。何故今出目を変更しようとしたですか」
「はっ!?お、お前今のがよく……」
私は賽の魂たちに問いかけました。
真実の出目は四・二。物の魂はとても正直です。
「今、変更前は偶数だったようですが、何故私の勝ちに変更しようとしたのですか」
「ひっ、あ、あんた自分が勝てるってわかってんのに俺を止めたのか!?」
お相手様は何が何だか分かっておられないご様子。
「ええ。止めました。私が悪いのでしょうか」
「あんたもイカサマ見抜く力があるってんなら最初はわざと勝てる方向に俺を泳がせて、自分が負けるって時になってから止めるもんだろ!なーに初っ端から止めてんだ!?」
と言われましても、私は賭博のルールがわかっていないものですので。
イカサマがダメだと言ったり、自分でやったり、見逃すべきと言ったり。
この方は随分と意見をコロコロと変えてしまう方のようです。
ですが、私は自分の意見はしっかりと。
「私は純粋に賭けという物を楽しんでみたいのです。五戦まではイカサマ無しでやっていただけませんか。その後はご自由にしていただいて構いません。私も止めませんので」
お相手様は奇妙な物を見る目で私を見つめます。
おや、私の変化は解けていましたか。
いえ、そんなことはないようです。
しかし、お相手様は不思議と私を気に入ってくださったようです。
「ダメだ、あんたみたいな面白い人を騙そうとした俺が悪かった。いいぜ、普通にやろう」
「ありがとうございます」
すると、お相手様は今のルールに更にルールを足してきました。
奇数偶数の他に、賽の数を片方のみを宣言し言い当てたならば一.五倍、両方当てたならば二倍相手から奪うことができます。
勝敗は両方、片方、奇数偶数の順で強さが決まっており、二人とも外した場合には今回の賭け金は次の試合の勝者の物になります。
ルールがやや複雑な物になり、私も楽しくなってまいりました。
では、今度こそイカサマの無い賭けの開始です。
お相手様は約束通りに賽の目をいじることも、他の方がやっているように覗き見することもしないご様子。
それでは私も誠実に。賽の魂たちには問いかけずに勝負致しましょう。
「せっかくなので両方を。五・六などどうでしょうか」
「おお、最初から飛ばしていくな。なら俺は安全に奇数で行かせてもらうぜ」
最初の出目は……三・二ですか。
私の負けのようです。
「おう、あんたは俺がイカサマしなくても弱いみたいだな!まあ、欲張ったのが悪いと思うが」
「そうですね、運はよろしくないようです」
私はお相手様と笑いながら、愉快に賭けを進めました。
その後の試合は勝ったり負けたり、大勝ちしたり大負けしたりと激しい波がありました。
途中から見物人まで現れる始末。
最後の一戦では私の負け。
結果、中銀貨を六枚とられてしまいました。
「はっはっは、あんたやっぱり弱いな。だが、こんな気持ちで賭けをしたのは久しぶりだ。また来な。次は手加減してやるよ」
「ええ。私は良いカモですので、再び美味しい餌を持って戻ってきますよ」
「おうおう、言ってくれるな。なんなら酒場で飲むだけでもいいぜ」
お相手様は私を大層気に入ってくださったようです。
私はその場で対戦の礼を言うと、カナト様方の気配を辿り、合流を目指しました。
ちょうど昼食の時間だったようで、お三方は食事処の列に並んでおりました。
「皆様、お待たせいたしました。楽しかったです」
「おー、おかえりっす!どのくらい勝ったっすか?」
「中銀貨六枚分負けました」
「なんでっすか!?」
何故かカナト様はかなり驚いたご様子。
一方でクレイ様とアギラ様は同様に驚きつつも喜んでおりました。
『大穴当たったね』
「まさか当たるとは思ってなかったけどな。父さん、約束通り好きな物買ってもらうからな」
「はいはいっすー。負けても買ってあげるつもりだったっすっけど」
どうやらこちらでも私が勝って帰ってくるかどうかを賭けていたようです。
結果はカナト様の負け。
カナト様が勝っていたらクレイ様がカナト様のお願いを一つ聞くというものだったそうです。
お力が及ばずに申し訳ございませんでした。
「しかし、何で負けたんっすっか?イカサマは見抜けたんっすよね?」
「それが、私が最初にイカサマを止めるとお相手様も真面目に賭けをしてくださって。それで楽しく遊ばせていただいた結果負けてしまいました」
カナト様は私の説明を聞くと満足そうに微笑みました。
そして、食事処の席が空いたようで、店員様に案内されて我々は席に着きました。
「店で食事するなんて初めてだ」
「クレイと僕は舌が大変なことになるんで調味料少量で頼みましょうね」
『うえっ、そんなのただの素材の味じゃん。僕嫌だよ』
「……俺、調味料たくさんで食う」
『ごめん!無理しないで!?クジラさん!無理やりにでも少量で頼んでね!』
私の目の前では賑やかな会話がなされています。
カナト様は遠慮せずに好きな物を頼むようにと指示をしてくださりました。
そうですね。
困りますね。
どれがどのようなお味なのかわからないのですが。
「濃い味の物が食べたいですね」
「あ、そしたらこのレゾ・ンフラっていうのがいいんじゃないっすかね。こってりした特濃のソースがかかった白身魚のフライっす」
カナト様に教えられるがままに私はレゾ・ンフラを注文しました。
アギラ様から向けられた嫉妬の感情を感じます。
似た味覚の持ち主同士、同じものが食べたかったですね。
お二方はさっぱりとした冷製パスタを頼んだようです。
食事を待っている間はお三方が何をしていたのか話を聞いておりました。
なんでも新年ということで出店が増えており、それらを見回って遊んでいたようです。
殺傷能力の無い銃で的当て、くじの掴み取り、魔力診断など。
クレイ様の保有魔力はカナト様と同じく自然属性であると判明したようです。
二人はどこまでも似ていて大変微笑ましく思いますね。
我々が話に花を咲かせていると、食事が運ばれてきました。
私の元に運ばれてきたのは、中の白身魚のフライが見えないほどにソースがかけられた物体。
これは興味深いですね。とても食事に見えません。
添えられたパンが、これも同じ食べ物であると訴えかけています。
「すごいな。器の中にどろっどろにソースが詰まってる」
「僕も興味本位で食べたことあるんっすっけど、数日間舌が死にました」
『あはは……クジラさんには味覚激化の呪いがあるからね……』
皆様は私の食事に驚愕しながら、届いたパスタを先に口に運びます。
「美味しい!」
「いいっすね。ちょうどいい感じっす」
アギラ様を除いて満足なさっているようです。
では、私もいただきましょうか。
最初は試しにパンを一ちぎりした物をソースに付け、口に入れてみました。
これは……!
私は感動しました。
この世界にはこのような絶品の食物があったのですね。
このソースには数々の野菜の魂が溶け込んでおり、ただ味が濃いというよりも複雑な味をしています。
次は白身魚のフライごと食べてみます。
白身魚の優しい味とソースの強情さの何事にも言い換えられないこの相性。
「美味です。レゾ・ンフラはごちそうですね」
「よかったな。アルも食事を楽しめてるみたいで嬉しい」
これほど感動したのは同族の肉でできたゼリーを食した時以来です。
レゾ・ンフラは更に上を行く美食でした。
食事の手が止まりません。
あっという間になくなってしまいました。
ああ、スライム体になって皿に残っているソースを全て消化したい。
しかし、それは下品であると共に周りの人々を驚かせてしまう原因になります。
我慢しましょう。
アギラ様を除いてこの場に居る皆様が満足のいく食事ができました。
続いては再び買い物の時間です。
私は先ほどまで賭博をしていたので初めてですが。
「父さん、あそこは酒場か?」
「あ、そうっすね。酒場兼ギルドっすよ。見てきます?」
「アレがギルドか!見たい!」
クレイ様がカナト様に強請り、ギルドの見学を申し出ました。
「じゃあアルと見てくるといいっすよ。僕は入っちゃうと勧誘されまくっちゃうんで行けないっす。あ、アルも自分に鑑定拒否入れておいた方がいいっすよ!バレちゃうんで」
というとカナト様は入口から離れた所へ行ってしまわれました。
クレイ様はカナト様と一緒に入れなかったことが残念そうです。
しかし、それでも中に入りたいようで、私の服を引っ張りながら急かしてきました。
「早く行こう。どんな風になってるかな」
『入ってからのお楽しみだよ』
私はクレイ様に急かされるがままに鑑定拒否を入れてギルドの内部へと潜入しました。
これはこれは。
一言で言うと賑やかですね。
テーブルに着いている人はどの方も戦い慣れているような方ばかり。
皆様酒を片手に談笑しておられます。
中には酒を持たずに果汁を飲んでいる方もおられます。
その方々は魂が未熟。まだこの国では酒を飲んではいけない年齢の方々のようです。
「すごいな、カウンターにも人がいっぱいだ」
『あそこで依頼を受けたりするんだよ』
アギラ様に説明されて、クレイ様の視線の先を見ると確かに大勢の方々がおりました。
おや?見知った魂が見えますね。
「あそこにいらっしゃるのはデュラ様ではないでしょうか」
「え、いるのか?デュラ!デュラー!」
デュラ様は声をかけられると我々に気付き、こちらへと駆け寄ってきました。
以前の鎧とは種類も変わり、頭も取れにくい兜にしたようです。
そのおかげかクレイ様にはデュラ様がどの人物かわかっていなかったようでした。
「デュラ、か?久しぶり」
『ほんとに久しぶりだね!新しい鎧も似合ってるよ』
『はふふ、ありがと。久しぶり。お仕事頑張ってるよ』
デュラ様は正の感情を増幅させ、我々と再会したことを共に喜びました。
アギラ様とデュラ様は互いを前にすると魂の感情が揺らぎます。
本当に愛しあっているのですね。
このことは言ってしまうとカナト様に叱られてしまうので内緒です。
「今は依頼を受けに来たのか?」
『ううん、終わったところ。報告して、報酬貰って、次の依頼をやるよ』
『大変そうだね。今の冒険者ランクはどのくらい?』
『ええと、B級だね。でももうすぐA級も行けるって』
素晴らしい邁進です。
デュラ様は我々に冒険者バッジなるものを見せました。
豪華な装飾が付いたバッジですが、A級になると更に豪華なものになるそうです。
「おーい、デュラちゃーん!元気かーい?」
我々がそうして立ち話をしていると、デュラ様にお声がかかりました。
デュラ様が向かってしまわれたので我々も後をついて行きます。
『うん、元気だよ。おじさんも元気?』
「おうさー!首は見つかったかい?」
『もうないよー』
「おっと、そりゃ悪かったな!がはは!」
ふむ、流石にデュラ様は町公認のモンスターというだけあり、その存在は広くの方に認められているようです。
ただし、良く思っていない方もちらほらといるようですが。
『首無し騎士、怖い』
『気持ち悪い』
『なんであんなのがギルドにいるんだ』
不快な念も度々見えてきます。
しかし、デュラ様にはそれらが見えていないので、私も無かったことにしました。
「おう、そのガキと育ちの良さそうな兄ちゃんはなんだ?家族か?」
『あのね、お友達。みんないい人なの』
「あ、デュラちゃんだー!元気ー?」
「ねぇ、今から行く依頼に一緒に付いてきてよー!」
おやおや、デュラ様に御用のある人様が増えてきました。
私たちもそろそろこの辺でお暇させていただきましょうか。
「クレイ様、デュラ様もお忙しいようなのでこの辺りで」
「そうだな。デュラ、引き続きがんばれ」
『はーい』
我々はデュラ様に別れを告げるとギルドから出ました。
しかし、アギラ様は何かふつふつと煮えるような感情を抱いております。
「どうしましたか?アギラ様」
『……デュラにいろんな男が話しかけてる』
おや。おやおや。
これは嫉妬の感情のようです。
愛する人が他の人様にとられはしないかという危機感も見えます。
「心配は要らないでしょう。デュラ様は簡単に男性の方に絆されるような方ではありません」
『はぁ!?べ、別にデュラが誰と付き合おうと勝手だし!?ぼ、僕はそれを祝福するし!?』
「アギラ……わかりやすいな……」
アギラ様は我々に必死のご弁明を続けます。
デュラ様が絡むととても愉快なことになりますね。
我々が立ち話をしているとカナト様が戻ってきました。
「どうだったっすか?」
「すごいいろんな人がいた。冒険者ってあんな感じなんだな。俺もいつかあの輪に入れるかな」
「はは、クレイなら凄腕の冒険者になれるっすよ」
クレイ様の感想を聞きながら、カナト様はクレイ様と手を繋いでおりました。
「さてと、それじゃあ今度こそちゃんと買い物に行きましょう!」
『僕、新しい本が買いたいな』
「俺は道具が見たい。木彫りの置物に使う道具がボロいから、ちゃんとしたのを買いたいんだ」
「んじゃ、僕はキャスヴァニアちゃんのために食事でも買ってしまっておきますかね」
『ねぇ。収納魔術は冷蔵庫じゃないの知ってる?』
皆様、楽しそうに今後のお買い物のご予定を立てております。
私は皆様が楽しそうにしている、その事実だけで幸せです。
「なあ、アルは何か欲しい物あるか?」
「おや、私ですか。私は特に何も欲しい物はございません」
『そんなの勿体ないよ。クジラさんが何でも買ってくれるんだって。わがまま言っちゃってよ』
私はクレイ様とアギラ様に言い寄られました。
わがまま、ですか。
遠慮をするなと言われたからには遠慮をする方が無礼でしょう。
でしたら、私は格段のわがままを申し出ましょうか。
「そうですね。でしたらお三方が私にそれぞれ似合うと感じたプレゼントを頂けませんか。私には、その買い物が一番幸せです」
皆様、私のわがままをお聞きになると、満面の笑みを浮かべて出発しました。
カナト様は食べ物を、アギラ様は書物を、クレイ様は白と赤の入った鉱物を買い、私に与えてくださりました。
私は食事をその場で美味しくいただき、それ以外のものは大事にしまいました。
頂いた書物はアギラ様方と大切に読み、鉱物は試練の箱の中へ入れてしっかりと守りましょう。
ああ、私はなんて幸福なスライムなのでしょうか。
これほどの愛を皆様から受け取ることができるとは。
ですので、私も彼らにこの身全てを捧げましょう。
貴方方が望むのならば、どこへでもついて行きますよ。




