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(閑話)首無し騎士の珍道中

 ほわわ、ここが人の町。

 いろんな人が私のことを見て剣を構えている。

 杖も構えてる。あとこん棒も。

 いろんなものを構えてらっしゃる。

 私に向かって何か喋っているようだけど、私は人語がわかんない。

 でも、語気から私に敵意を示しているのはわかる。


 敵対したなら殺そうか?

 でも、私は別に争いに来たわけじゃない。

 私は敵対している人たちを無視して町に入る。

 みんな全力で私を殺そうと斬りかかり殴りかかり。

 避けるので精一杯で町に入れない。

 やめてよ。私は街に入りたいだけなのに。


 ああ、痛そう。

 私に当てようとした炎魔法が人に当たっちゃった。

 火傷を負って、とても痛そう。

 私はその人に近寄って治癒魔法を使ってあげた。

 ピタッとみんなの動きが止まる。

 なんだか面白い。

 みんな不意打ちをされたみたいに動きが鈍くなっている。

 じゃあ、今の内に町に入ろうかな。


 あわわ、今度は両手を広げて通せんぼ。

 だから私は人語がわからないんだって。

 語気から怒っているのはわかるけど。

 右から左から、一生懸命町の様子を覗き込むけれど、全く入れてくれる気配がない。

 はあ、この町もダメみたい。

 私は肩を落として首を掻いた。


 なんで首が無いくらいで怖がるのかな。


*


 雪原をてくてく。鎧がカシャカシャ。

 この辺は空気が綺麗で気持ちがいいな。

 風も優しい。心地いい。


 私は首無し騎士。デュラハンとは違って首が無い。

 どこにもない。落としたわけでもない。

 いや、落としたのかもしれない。

 だけど今は無い。あったとしても腐ってる。

 デュラハンなら胴体から離れている首も魔力に守られ腐敗することはない。

 だけど、首無し騎士は胴体だけしか守られていない。

 もう頭は私の一部じゃない。

 ただの切り離された肉体。


 なんで私が生まれたのか。

 それは魔王様のおかげ。

 死んだ人間の体を使って死霊魔術から私を作った。

 私の他にも何百人も一緒に首無し騎士が生まれた。

 でも、魔王様は強い兵士を求めて私たちに殺し合いをさせた。

 私は生き残って魔王様に忠誠を捧げて、魔王軍の一人として戦った。


 だけど、その魔王様がやられちゃった。

 魔王様がいなくなった軍はあっという間にバラバラになっちゃった。

 中には魔王様の意思を継いで人間を滅ぼそうとした子もいた。

 その子たちも、多分魔王様を倒した奴に殺された。


 私は嫌になって投げ出した。

 だって、魔王様がいないから。

 私を作ってくれた人はいなくなってしまったから。

 魔王軍から去った後、こうやって気ままにぶらぶらと、適当に歩き回りながら過ごしてた。

 他の魔物に襲われたらやり返して、人に襲われたらやり返して。

 そうやってのんびりと過ごしていた。




 あの日、魔王様の気配を再び感じ取るまでは。


 わくわくした。

 魔王様が復活したんだと、喜んだ。

 魔王様の全力の殺意。すなわち再び始まる殺戮。

 また私を使ってくれるかな?

 また魔王様の元で戦えるのかな?


 だけど、久々の魔王様の気配はぬるかった。

 殺意の後に感じ取れた気配は()()

 その後の気配も人の如く困惑、義務、親身など。

 魔王様は人の傍にいて、以上の感情を振りまいている。

 そして人のように振る舞った後、魔王様の気配は消えた。


 魔王様はもしかしてもう人を殺す気はないのかな?

 人と和解したのかな?

 もう私たち(まもの)は必要ないのかな?

 もう私を使ってくれないのかな。


 だから今の私は魔王様を探して旅をしている。

 使ってくれないのならまたのんびり過ごす。

 使ってくれるならまた傍にいる。

 処分するなら処分される。

 それが魔王様の望みなら、私は望み通りでありたい。


 そして、魔王様の言葉を聞くまでは、なるべく全てと戦うのを避ける。

 私を襲う魔物も、人も。

 全員避けて旅をしている。


 あわわ、人と魔物たちが戦っている。

 どっちが悪いんだろう。

 私は人と魔物の間に入り込むと人に治癒魔法を使った。


『ナニヲスル』


 ほろ?魔物(このこ)たちはちょっとだけ魔物の共通語が話せるみたい。


『獲物トルナ』

『喧嘩をしていたから止めただけだよ』

『邪魔スルナラ殺ス』


 あわわ、魔物のみんなが私を攻撃してきた。

 私は思わず剣を抜いて反撃をしてしまった。

 一振りで全員切れてしまった。

 やるつもりはなかったんだけどな。

 人はどうしたんだろう。

 振り向いて確認すると、不思議そうにこちらを見ている。

 おろ、まだ怪我が残ってる。

 私は残りの怪我も治してあげた。


 何を言っているかはわからないけれど、喜んでいるみたい。

 そうだ。友好的に思ってくれているなら聞きたいことが。

 私は地面に魔王様の似顔絵を描く。


『魔王様を知りませんか?』


 うーん、通じてないのか知らないのか。

 とりあえず良い返事は貰えなかった。

 私が諦めて去ろうとすると、人が何かを私にくれた。

 わぁ、()だ!

 中身が空っぽの頭、甲冑の兜を貰った私は早速頭に取り付けた。

 似合う?

 人は拍手を私に送った。

 ふふ、こういうのもたまには悪くないかも。


 あわわ、体を傾けたら取れちゃった。

 落ちた兜を人がつけなおしてくれる。

 優しいな。

 魔王様が私を要らないって言ったら、人の町や村に住むのもいいかもしれない。

 でも、私を使うって言ったら町も村も滅ぼさないと。

 私は人を見送ると魔物たちの死体を見た。

 うーん、大丈夫かな?

 これまでもたくさん殺しちゃったし、いいよね?

 私は放置して歩き出した。


*


 魔物には相変わらず襲われるけれど、人はあまり襲ってこなくなった。

 すれ違うと会釈してくれたりする。

 でも、たまに不思議な恰好の人たちが襲ってくる。

 襲われたら逃げるんだけど、兜が落ちそうになっちゃうからやめてほしい。

 せっかくもらったのに。


 今は町の中をてくてく。鎧がカシャカシャ。

 襲っている最中の町しか見たことが無かったけれど、そうじゃないとこんなに賑わっている。


 んやや、いきなり腕を引っ張らないで。兜が脱げちゃう。

 だから人語はわからないんだって。

 たくさんのガラスがハマった腕輪を見せてくる。

 この人もくれるのかな?ありがとう。

 あわわ、まだ何かあるの?

 さっきまで笑顔だったのに怒っている。

 くれるんじゃなかったの?じゃあ返すね。

 何故か受け取ってくれない。

 すごい怒ってる。

 なんで?この人の行動がわからない。


 突然大声で叫び始めた。

 近くの人が私を見つめてくる。

 どうしたの?

 はわわ、武装した人が私めがけて走ってきた。

 慌てて私はその場から逃げ出す。

 あっと、この腕輪はその辺に置いておくね。


 んやっ、兜をこん棒で叩かれた。

 兜が地面に落ちてしまう。

 周りの人が一斉に叫び始めた。

 何々?そんなにびっくりしたの?

 武装した人も顔が真っ青。

 私は兜を拾うと一目散に町から出ていった。


 せっかく初めて町に入れたのに。

 一体何だったんだろう。

 訳が分からない。

 はあ、またしても魔王様の手掛かりは掴めなかった。

 人と交流していたような気配。

 きっと町か村にいると思うんだけれど。


 魔王様、今どこにいるんですか?

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