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Blunder

作者: 竹トンボ

ナイトC6、その手の意味を君はどこまで理解している?


確かにそこにナイトを配置すれば、君の駒は僕のクイーンを攻撃できる上に、ビショップでキングサイドに圧力をかけることだってできるさ。




だけど、どうだろう。


君は目先の美味しい妄想に駆られていないかい?


君はいつもそうだよ。目の前に甘い蜜があったら君は迷わず吸いに行くんだ。




だけど、その甘い蜜が毒だったら?それはウツボカヅラのような食虫植物の罠だったら?都合の悪い想定はいつも考えない。最悪の結末なんて、小説の中でしか起こらないと思ってるんだ。




本当はそんなことはない。君は何度もそんな苦い経験をしている。


だけど、次こそはと思っているのか、喉元過ぎればなんとやらなのか。




そうして忘れたころにもう一度食われるんだ。そうして君は青ざめる。


どうして、なんで、もうこんな罠にはかからないと誓ったのに。もうこんな失態は起こさないはずなのにと。




クイーンテイクD1。君のクイーンは僕のクイーンによって駆られる。


君は王様を守るためにキングテイクD1としかさせない。キャスリングの権限を放棄してね。


そして君は見落としていた僕のビショップの斜線にわざわざナイトを配置してくれたことによって、君のナイトは僕のビショップの餌食になる。


君はムキになって残りのビショップで僕のナイトを攻撃するんだ。でもね、今君が本当にすべきことは、オープンファイルに無惨に配置されているキングを守ることなんだ。




僕はクイーンサイドキャスリングで君のキングにチェックをかける。


君の王様は無様にも逃げることしかできない。


僕は君にナイトを取られるのが癪だからF4にナイトを移動させる。




もう盤面が見えてない君はG3にポーンを上げるんだ。


そうして馬鹿正直に開けてくれた白マスの花道を僕のビショップは大手を振って進むことができる。




もちろん。ルークのおまけつきでね。




君は明らかなピースダウンだ。開始早々僕が君のクイーンズギャンビットに乗ってあげて、僕はポーンを二つ落として、君はそのまま僕のナイトまで落とした。それで君はいい気になったんだ。まだ序盤だったというのに。気分はもう勝者だ。




勝負というのは、たった一手でがらんと状況がいれかわる。


君はそのことを前にも涙を流しながら学んだはずだろう?




君の棋譜は君の人生そのものだよ。


自分にとって都合のいいことばっかり考えて、いやなものは見ないし考えない。


そして、失ってから気づく。ことの重大さに。そして嘆いて反省して、また同じ過ちを繰り返す。




予言してあげよう。君はもう一度このやり方でピースダウンをいずれされるだろう。


僕か、僕でないむこうの誰かにね。




その指はなんだい?


王様に手をかけるのかい?王様を倒せばリザイン(投了)だよ?


まだ勝負は終わってないというのに、もう勝負を投げるのかい?




君は自分の勝ち目がないと思ってるんだろう?


でもこれはチェスだ。


うまく立ち回れば、ステイルメイト(引き分け)に持ち込むことだって不可能じゃない。




いやになったら逃げる。チェスならそれでいいかもしれないね。


自ら敗北を認めてこそ紳士だと思ってるんだろう?




でもそれは違うな。


醜くたっていいじゃないか。最後まで悪あがきができる権限が君にはあるのに。


どうしてしなかったんだい?




だれも君に勝者であり続けることなんて願ってないんだよ。


僕だって負けるときはある。でも、決して投げ出したりなんかしないよ。




君はもう王様が逃げられないと思ってるんだ。


そんなことはない。君はポーンで僕のナイトをとれる。そのあとビショップをまわして、エスコートしながらポーンたちを上げていくんだ。




見てごらんよ。僕のクイーンサイドの駒たちは攻撃を重視してしまったために王様が丸裸に近いし、キングサイドの駒たちは展開が遅れている。


でも君の駒たちは自由を手に入れている。ルークやビショップたちの効きもずいぶん幅を利かせているね。ここに君のナイトが効果的に攻めてきたら、少し厄介だ。


君はピースダウンしても、実は戦力差はそこまで大きくないんだ。




君は欲をかいて駒を動かしたことを大失態(ブランダー)だと思っている。


でもね。そうじゃないんだ。君の本当のブランダーは勝負を投げ出したことなんだ。




まだ起死回生の余地はきっとあった。盤上は人生だ。君はたったいまそれを証明できたじゃないか。


泥臭くても、負けというルールを突き付けられない限り、君には戦う権利があった。いや義務があった。




君は降参するには...早かったんだ...。




.......




ごめん。また僕の悪いくせだ。


僕にだって悪手くらいあるさ。でもそんな悪いところを僕は愛している。


だって僕なんだから。




おっと、もうこんな時間だ。ごめんよ、早く帰らなきゃ妻がうるさいんだ。


彼女、最近チェスを覚えてね。僕は寝かされない日々が続いてる。


でもね。僕は君と指してるほうが楽しかったなぁ...。





―――――――――――――――――――




「あら。あなた。またお墓参り?」




「いやぁ、指してくれる相手がいないと退屈だからね。」




「ほどほどにしておいてくださいよ。お墓の前で一人でチェスだなんて。変人だと思われてしまいますわ」




「それでもいいじゃないか。」






実際チェスはそこまで指せません

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